第19話:カードパック購入

 ザッザッと俺たちが歩く音と、鳥のさえずり。そして何かの獣だろうか、鳴き声のようなものが耳に入る。


 村長の家で昼食をご馳走になり、俺たちはすぐさま森に入ることにする。もし掃討できるなら今日中に。規模が大きいようなら明日に出直すという予定だ。


「なんというか、ガチャの闇を感じますね。あ、カニカマください」

「だな。あとカニカマは後にしてくれ」


 アオがそう言って眺めるのは俺が新たに入手した10枚のカードだ。お値段は1枚きっかり1万CP。

 金貨の交換レートを鵜呑みにするならば、1万CPの価値はおそらく2万円ほど。つまり、このカードパックというガチャを引くにはおよそ20万円かかっていると考えて良い。


 それがカニカマに変わったというのは何とも言い難いと思いながら、カニカマのカードは収納した。


 こうなったのは少し前に遡る。


 カード魔法、というスキルを使うにはやはりカードが必要なのだろうということで、カードパック購入を選択してみたのだが、出てきた選択肢は十以上に及んだ。



 魔物パック……50万CP

 レア魔物パック……5000万CP

 エクストラ魔物パック……50億CP


 初等魔法パック……20万CP

 中位魔法パック……50万CP

 上級魔法パック……300万CP

 超越魔法パック……1000万CP


 ランダムパック……10万CP

 混沌パック……1000万CP

 奈落パック……100億CP


 アイテムパック……30万CP


 価格設定がおかしい。魔法はこの中でまだ安い方だとはいえ、俺の所持CPは12万ほどだった。


 しかし、俺も男だ。魔法は使ってみたい。あと魔法が使えるカードだなんて是非欲しい。


 運は人並みだと自負しているが、金貨をCPに変えるのも勿体無いような気がして、ランダムパックを購入することを決めた。



 そしてその結果が今俺たちの手元にある10枚のカードというわけだ。



 レア度1:水(200L)

 レア度2:鉄の剣

 レア度1:乾いた骨

 レア度1:カニ風味かまぼこ

 レア度5:火炎旋風

 レア度2:美味しい醤油

 レア度2:スライム

 レア度1:ほぼほぼホタテ

 レア度2:鋼のナイフ

 レア度3:ハイポーション



「なんかカードを集めている感じがしないな」


 確かに手元にあるのはカードなのだが、おにぎりが書かれていたり、カニカマが書かれていたりなんの変哲も無い骨だったりしたらまぁ思うところはあるだろう。


 前の世界では珍しいものを中心に集めていたが、この世界では珍しいものと強いものを集めよう、そう思うのだった。


「まぁ私から見てもそう思いますね。だってこの世界の物は全てがカードになりますから。ところで、魔法は使わなくて良いんです?」

「あー、これ使い捨てみたいなんだよ」


 俺はそう言うと、アオに火炎旋風のカードを見せる。


 名前:火炎旋風

 レア度:5

 分類:魔法(使い捨て)

 説明:火炎旋風を巻き起こし、破壊と灼熱を齎す。一度使うとカードはなくなる。使用者の魔力は使用しない。

 変換CP:200000



「これはまた、随分な金食い虫ですね」

「みたいだな。けど、この書き方だと使い捨てじゃ無いものもあるだろうし、そのうち出ると思う」

「だと良いですけど。それと剣とナイフ貰えますか?」


 アオが鉄の剣と鋼のナイフが欲しいと言い出す。俺が持っていても使い道が無いものではあるから特に何も考えずに手渡した。


「んー、剣のサイズは微妙ですね。ちょっと大きいかな。でも街で買った物よりは良さそうです。ナイフは良い感じですね」


 街で買った剣を差し出してくるアオ。俺はそれを受け取ると、背中にかける。同じように鉄の剣を装備したアオはナイフをクルクルと手元で遊ばせる。


「ナイフは何に使うんだ」

「そりゃもちろん、こうするんですよっと!」


 アオは右手に握ったナイフを思い切り投擲する。いつの間に近くに来ていたのかはわからないが、小さい悲鳴と共に、緑色の生き物が脳漿を撒き散らす。


「これがゴブリンですか……」

「みたいだな。こいつが居たってことは近いのかもしれない、急ごう」

「わっかりました!」


 アオがゴブリンの頭に突き立ったナイフを抜く。少し粘性のある液体がポタポタと落ちるのを視界から逸らす。

 込み上げてくる胃液を押し留めると、森の奥へと進んでいく。


 森に入っておよそ二時間ほど。

 俺たちはゴブリンが大きな集落を形成しているのを確認した。


「どうします?」

「時間的には問題ない。いけるか?」

「私はいつでも」


 小声でボソボソとアオと会話する。規模は事前に聞いていた50より遥かに大きい。恐らく200匹くらいはいるんじゃないだろうか。

 見張りのゴブリンも何体かいることだし、少し聞いていたゴブリン退治とは一線を画している。上位種はいるんだろう。さすがに千年原始人より強いなんてことはないと思うが。


「まず火炎旋風を使う」

「お、ですか。てっきり温存しておくのかと」

「どうせ依頼は集落の破壊だ。それに、ゴブリンを出来る限り仕留めるためにもそっちの方が良いだろ」

「任せますよ、その辺は」


 ぷらぷらと手首を振り、身体を伸ばしながらアオが答える。


 こちらが使える手札はアオと千年原始人、そして双頭狼に先ほど当たったスライムだ。スライムはまぁ、俺の護衛くらいか?


 兎にも角にも、時間をかけて囲まれたりすると万が一が起きそうだ。奇襲をかけるのが一番だろう。


 俺は本から千年原始人と双頭狼、スライムのカードを取り出し、呼び出す。


 好戦的な笑みを浮かべる千年原始人。双頭狼は興奮しているのか尻尾を激しく左右に揺らしている。

 そしてスライムは俺の肩にずずっと登ったかと思うと、ピタリとくっついた。


 俺は最後の一枚、火炎旋風を取り出して、イメージする。それがゴブリンの集落だけを破壊するイメージを。


 カードが熱を持つ。


「火炎旋風!」


 俺のその言葉と共に、ゴブリンの集落に火柱が立ち昇り渦を巻いた。轟々と粗末な材木で作られた家が燃えていく。


「行くぞッ!」

「「「オオッ!」」」


 号令と共に混乱の最中の集落へ駆け込んだ。

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