第18話:指輪の効果

 俺は依頼表をもう一度眺める。

 契約金というのは、いわば依頼の手数料であり、俺たち協会に所属する人間を現地に送る馬車などを借りるのに使うらしい。

 今回のように少し離れた所に移動するとなると契約金は高くなるとの事だ。依頼によっては支給品なんかもあるらしい。


 なんというか、モンハン……モンストロハンターというゲームが何年か前に流行したのだが、それみたいだなぁと思ったのは秘密だ。


 無くしたらいけないと思い、依頼表をカード化して本にしまうと、ノノに渡されたゴブリンについての資料に目を落とす。


 今俺たちは、協会が手配した馬車で現地に向かっている。時間にして四時間ほどらしい。

 徒歩で行っても構わなかったが、折角なので馬車を借りることにしていた。


 そして予想以上に揺れる馬車の中で荷物の横に座っている俺は、資料を横に置きぐっと身体を伸ばした。あまり疲れないのは良いが、揺れすぎるのと暇なことが馬車の難点だ。


 どうやって時間を潰そうかと思った時、アオがトントンと腕を叩いてくる。


「ケント、指輪をカード化してみませんか?」

「あー、そんなのもあったな」


 すっかり忘れていた。指名依頼の報酬と確かノノは言っていた筈だ。多分偽ルロペと戦ったやつのことだろう。

 俺はポケットから指輪を取り出すと、カード化、と唱える。


 ボンッと音を立ててカードに変わったそれを確認する。


「看破の指輪?」



 名前:看破の指輪

 レア度:5

 分類:装備

 説明:手のいずれかの指に装備することで「看破」の魔法が使用できるようになる。


 看破……対象の能力を見破る。


 CP:1200000



「こ、これはかなりのレアアイテムなのでは……?」


 アオがゴクリと唾を飲み込む。どう考えてもかなりのレアアイテムだと思う。

 というか、能力が知りたい俺たちにとって本当に有難いものだ。


「アオ、手を出して」


 使ってみたい気はするが、単騎で切り込む事が多いだろうアオが使った方が、俺が使うより良い。

 そう思ってカード化を解除した指輪をアオに渡そうとする。


 普通に渡そうとした指輪だが、頰を染めながらアオが左手を差し出す。


 人差し指に嵌めようとすると、手がススっと動く。


 何だろう、この圧力は。チラチラと俺の顔と薬指を見てくるアオ。そういう事が気になるお年頃なのだろうか。


「これで良いか?」


 付き合ってすらない、というか出会って間もない俺たちに婚約なんてのは関係ないだろう。

 しかし、まぁ、それでアオが喜ぶのであれば構わないだろう。ここは地球ではないのだし、そういう風習も多分ないはずだし。


 そんなことを考えていたが、それが間違いだったかもしれないというのはすぐに理解できた。


「ぅ……あ」


 アオが頰を真っ赤に染めて口をパクパクとしている。何かとんでもないことをしたような気が、今更になってしてきた。


 よそう、考えるのは。

 何も気づいてないことを装え。今この話題は危険だ。速やかに別のことに気を逸らす必要がある。


「で、アオ。俺を看破してみてくれないか?」

「ぇへっ」

「お、おーい。アオ、大丈夫か?」


 目の前で手を行ったり来たりさせると、ハッとなったアオが恥ずかしそうにこちらを上目遣いで見てくる。


 なんだこの可愛い生き物は。

 この喜びようを見て何かあったときに刺されたりしないか心配になってきた。


「ど、どうしました?」

「いや、俺を看破してほしいなーって」


 コクコクと頷くアオは、未だ赤い顔で俺の方を見つめる。


「あ、出ました」


 そういうと、アオはアッカードで買った紙に、何かを写していく。



 名前:ケント・ミウラ

 分類:純人族

 コモンスキル:算術Ⅱ

 レアスキル:言語理解、文字理解

 ユニークスキル:カード魔法

 エクストラスキル:カードコレクター



「カードコレクター……そのまんまだな」

「ですねー、それよりこのカード魔法って何なんです?」

「パック購入で買えるんだと思うけど、また後で要検証かな」

「じゃあ次は私ですね」


 そういうと、アオが再び紙に書き出していく。


 名前:アオノ・オノ

 分類:純人族

 コモンスキル:剣術Ⅵ、体術Ⅴ、魔法剣Ⅱ、術式刻印Ⅱ、暗視Ⅲ、気配察知Ⅲ、加速Ⅳ、投擲Ⅱ、

 レアスキル:言語理解、文字理解、縮地Ⅰ、

 ユニークスキル:万能の器

 エクストラスキル:天賦の才、能力模倣



「ぶっ壊れてね」

「あは、あはははは……」


 アオのスキルと比べて俺のスキルの何と少ないことか。俺の能力も大概ではあるが、アオのこれはチート過ぎやしないだろうか。


「お荷物ですしおすしとか言ってたやつがこれか……」

「ま、まぁ良いじゃないですか! ほら、ケントも私が強いと嬉しいですよね!?」


 バシバシと背中を軽く叩いて、ヘラヘラ笑いながらそう言うアオだが少し声が震えている。


「……そうだな、心強いよ、これからもよろしくな」

「ケントぉッ!」

「やめろ、重い」


 のしかかってくるアオを押しのける。嘘泣きを始めるアオをスルーしたその時、馬車が止まった。


「お二人さん、着いたぜ」

「あ、はい」


 御者の男性の声が聞こえて俺とアオは馬車から降りる。わかってはいたことだが、かなり声が通る。話していたことはかなり伝わっていたんじゃないだろうか。


「ここがユッケ村だ。今回はゴブリンだって聞いたが二人は登録したばっかりか?」

「そうです」

「そうか。無理だと思ったらすぐに退けよ。ゴブリンは馬鹿だが、数が揃えば厄介だ。Cランクのベテランが単独で巣に乗り込んで袋叩きにされて殺されたって話もあるくらいだ」


 この世界のCランクがどの程度の強さかはわからないが、確かにゴブリンの群れに囲まれてじわじわと削り殺されるなんてのはありえそうだ。


「最善を尽くしますよ」

「ま、気をつけて行けよ。俺はしばらくこの村で商いしてるから。帰りも乗せる予定だが、流石に三日以上は待てないから、そこは頭に入れといてくれ」


 ということらしい。馬が馬車を再度曳きながら歩いていく。

 とりあえず俺たちは村長の家に向かうべく、歩いていた男に尋ねるのだった。




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