第15話:牢にて
金属の擦れる音が響く。どうして俺がこんなところに連れて来られる必要があるのだろうか。
隣を見るとアオも同じような事を考えているらしく、何とも言えない表情をしていた。
「これは、シュノー団長!」
「お久しぶりです、ルロペ殿」
「そちらは……」
看守、だろうか。鎧を身に纏った初老の男が、エリノアに気づき、声をかけようとするのを、エリノアは小さく一礼する。
「ケント殿とアオノ殿のことですか? 客人として迎えているという話は届いていませんか?」
「あぁ、いえ。お話は伺っています。なるほど、彼らが。花の件は、その、残念でしたが件の襲撃者を確保してくださった方々だとか」
「あぁ、我が領の恩人だ」
シュノーがそう話を括り、捕虜との面談をしたいと切り出した。
「かしこまりました。こちらへ」
カツカツと音を立てながら歩いて行くと、区切られた檻が沢山並んでいるところが眼に映る。意外と衛生的ではあるようで、掃除はしっかりと行われているらしい。
「牢屋って、こんな頑丈に作られるモノなんですかね……」
アオがぽつりと呟く。その意味がわからない俺ではない。ただ、その必要は間違いなくあるだろう。
「アオノ殿、でよろしいですかな」
「あ、はい」
まるで教え諭すように優しく看守が声をかける。
「一般人から見ればこの牢は過剰に見えるやもしれません。ですが、戦場を知るものであればこの牢は寧ろ頼りなく思うものです。そうですね、討伐難易度A級の魔物であれば大半はこの牢を破壊できるでしょうな」
討伐難易度。知らない単語であるが、恐らくAともなればかなり上位であるだろう。だが言いたいことはわかった。
「つまりですな、B級の魔物を個人で制する実力があれば破る可能性は大いにあるのです。牢にミスリルやアダマンタイトといった希少金属を用いる余裕はありません。たかだか鋼鉄であれば素手で破壊できる者もいるのですよ」
「今ここにはそんな人たちはいないので大丈夫ですよ。そういった人たちは大体大監獄へ収監されるので」
今ここにはいない、ということはいた事はあるのだろう。たかだか鋼鉄といったルロペではあるが、見たところこの檻を成している鋼鉄は相当に分厚い。
これを破壊できるなんてのはもはや人外と言って良い様な気がする。
「ちなみに先代騎士団長であるルロペ殿は今でも素手で破壊できるらしいぞ。だからこそ引退後、無理を言ってここで働いて頂いているわけだが」
自分の事のように得意げに話すシュノー。当のルロペは露ほども気にした様子はなく、そろそろですな、と呟いた。
仕切られた檻がかなりの数並んだが、どうやらそれも終わりらしい。ルロペの言う通り、檻の中に見覚えのある顔が並び始める。
ほとんどの面々の視線はアオに注がれており、あの戦いぶりからどうやらかなり恐れられているらしかった。
「もしかして、モテ期到来ですかー?」
「前から思ってたけど、アオってかなり図太いよな」
「何のことですかね? 図太い私にはこれっぽっちもわからないです」
笑っているアオだが目はどこか笑っていない。この揶揄いとは無関係の捕虜達がガタガタと震え始めたのを見て、アオが少し困ったような顔をした。
「そんな怯えられるようなことした覚えないんですが」
「得てして盗賊とはそのようなものだとは思うが。あの商人の男は寧ろなんとも思っていなさそうだ。あぁ、そういえばこいつらなんだが、不可解な点が一つある」
「何がだ?」
彼らの顔を一瞥し、眉をひそめてシュノーは立ち止まる。エリノアはというと微笑みを浮かべているものの、その位置どりは常にシュノーの背後にある。
まるで何かを警戒しているように。
「イミシアを昏倒させたという襲撃者の顔がこの中にはなかったと言うのだ。私のスキルでもその真偽は確認しているが虚偽ではなさそうだった」
「つまり、この中に姿を変えるスキルの持ち主が紛れ込んでいる可能性があると?」
「えぇ、シュノー様によるとそうらしいです」
エリノアが微笑みを浮かべてルロペの言に頷いた。俺は千年原始人と双頭狼のカードを取り出す。
「
先頭はルロペだった。必然、俺の位置はそれより後方になる。俺を守るように千年原始人が現れ、双頭狼はエリノアの側に現れる。
エリノアを害するには、千年原始人とその横のルロペを抜き、アオと双頭狼をどうにかしなければならない。
ゆっくりとシュノーが千年原始人の前に出る。
「ルロペ殿。いや、ルロペ殿を騙る者よ。貴殿にはルロペ殿暗殺の容疑と、騎士団詰所襲撃の容疑がかかっている」
「何をバカなことを。流石にその誹りは我慢なりませぬな」
「ならば何故主君の顔を知らぬのだ。ルロペ殿はエリノア様と懇意にしておられた。挨拶すら交わさぬことは有り得ぬ」
男の目が見開かれる。その視線の先には使用人の服を纏ったエリノアがいる。
目を瞑ると、男はゆっくりと口を開く。
「なるほど。非常に良く似た方かと思っていましたが、まさか本人でしたとは。貴人の装いではないので躊躇っておりましたが、失礼いたしました」
「どうあっても認めぬか。ならば実力で証明してみせるといい。ルロペ殿は一流の魔法剣の使い手。その騎士剣はルロペ殿自ら改造に改造を重ねた物。生半可な使い手では一瞬で暴発する」
ふっとルロペは笑うと腰に提げた剣を抜く。剣には幾重にも重なる幾何学模様が描かれており、どういった内容かはわからないが、アレが真っ当な代物でないことが見て取れる。
「まともに剣を握るのは久々です。血が滾りますな」
「ふ。私の知るルロペ殿であれば既に私程度斬り捨てていたがな。本物だとすれば老いたものだ」
シュノーが挑発する。対するルロペは目を細め、柄を握りこむ。
一瞬の静寂の後、両者共に斬りかかるのだった。
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