第16話:アオの能力
俺に与えられた役割はルロペを騙る者が暴れた時のエリノアの護衛だ。といっても単独でサンドラを抑えたらしいエリノアは間違いなく俺より強い。千年原始人とは比べようがないが、俺がいる理由は本音を言うと、ないような気がする。
というか、召喚だけしておけば俺はいらない子なのではないだろうか。
「行きますよ」
ルロペの剣が急激に光を纏っていく。それと同時に剣に刻まれた模様が浮かび上がる。
どういう原理なのかは全くわからないが、これが先ほど言っていた魔法剣とやらなのだろう。
そしてシュノーが切っ先を相手に向けたその時、ルロペの姿が消える。
「ガァッ!」
千年原始人が吼える。横薙ぎに振られた斧がルロペの剣を弾く。
全く見えなかった。
いきなりシュノーを無視して俺とエリノアに向かってくる男に背筋が寒くなる。
薄々は勘づいていたことではあるが、今の攻防で確信が持てた。どうやら俺はこの場において役立たずらしい。千年原始人は紛れも無い人外だが、それとシュノーを含めた二人をたった一人で相手取るこの男も常人の域からは大きく外れている。
「私を無視するなよッ!」
何時の間にか、シュノーの剣にも模様が浮かび上がっており、千年原始人を伺う男へと斬りかかる。
それを籠手で弾くと男は剣を袈裟懸けに振り抜く。
間一髪。シュノーはそれを身を捩り躱すと、一気に下がって距離を取る。
今の俺に出来ることは何もない。その事に歯噛みしていると、アオが額に眉を寄せていた。
そして借りたままのサンドラの剣を抜く。その動作だけで何をしようとしているのかは想像に難くない。
「アオ、ダメだ。今の俺たちには……」
「押されてます。千年原始人は場所の相性で本来程の力はなさそうですし、シュノーも防ぐので手一杯みたいです」
「けど!」
アオはこちらに一瞬視線を向けて微笑む。
そして一気に地を蹴った。
速い。速すぎると言っても良い。相対している男と比べても何ら遜色のない速度。
一体、何が。
考えられることは一つ。
「能力。俺のカードと同じ……」
無数の剣戟が降り注ぐ。千年原始人とシュノーの連携は初めてとは思えないほど洗練されているものではあるが、それでも粗があるのか、押されているのはこちら側だ。
魔法剣と呼ばれていたものの所為か、千年原始人でさえもその刃に注意を払っているように見える。
そんなところにアオが割り込んで無事に済むのか。
その答えが今目の前にある。
「私は考えていました。ケントには特殊な能力がある。私はどうなのか。この答えは思っていたよりもずっと早く得られました」
男の剣をアオの剣が正面から受け止める。皺の入った表情が驚愕で彩られる。
「これは能力と言って良いのかわかりませんが、私は敵の動きを見ることでその能力を、技術を習得できる。こんなことは以前の私には出来なかったことです」
アオの剣に模様が浮かび上がる。それは男の剣に施されているものとほとんど同じで。
男だけでなく、エリノアもシュノーも戦闘中だと言うのに驚きを隠せない。
「この短時間に刻印を掘り、術式を施すなど……」
「複雑なものは見ただけでわかるものではありませんから、ほとんどが模倣です。しかし、一度使えば何となくですがわかることもある」
剣の光が輝きを増していく。
男の剣と比較すると練度は低そうではある。しかし、アオの剣は間違いなく同様の光を放っていた。
「その剣には頑強、鋭利、自然治癒の術式が込められているようですね。他にどの様なものがあるのかわからないのでとりあえず真似させて頂きました」
この事が異常な事くらいは俺にもわかる。イミシアを救出した際にアオが獅子奮迅の活躍をしたのもこれが理由の一つなのだろう。
俺の能力は便利ではあるが、俺が強くなるわけではない。
アオはそうではない。戦闘を重ねるほど、技術を模倣する事に強くなる。たった数日でここまでの強さを獲得したとなると、この世界でも有数の実力者になるのは時間の問題ではなさそうだ。
「少しは真面目に戦う気は出てきましたか?」
「ふ……はは。あっはっはっは! いや、それを聞かされて手の内を安易に明かそうとは思いませんよ」
アオの指摘に男は笑う。千年原始人が油断なくその男を見つめる中、男は剣を鞘に納めた。
「ここは引かせてもらいます」
「させるかッ!」
飛びかかるシュノーに前蹴りを当てると、男は壁を軽く殴る。特に力を込めた様子は無かった。しかし、その拳はいとも容易く壁に人が通れる穴を作り出す。
「私はこの件からは下りるので追わないでくださいね?」
腹部を抑えながら悔しそうにシュノーが男が消えた穴を睨む。
一瞬双頭狼で追わせようかと思ったが、あっさり殺されて終わりそうだ。あいつを捕まえるには手が足りない。
「逃げられましたか」
「申し訳ありません、エリノア様」
跪いて頭を下げるシュノーに、エリノアは一度首を横に振ると踵を返す。
「敵の戦力を見誤った私の失態です。貴方が気にする事ではありません。ケントとアオもありがとう、助かりました」
「あ、はい。どういたしまして」
向こうが偉い人だと考えるとこうも話し辛いものかと考えていると、どこか不機嫌そうなアオがピタリと横に張り付く。
牢を出ると、外はすっかりと夜の帳が下りている。身体は丁度良いどころかかなりの疲労感に襲われており、今ベットに入るとすぐに寝れそうだと思う。
そして、気づいた。
「あっ」
「どうかした?」
「宿取ってない」
一応テントはあるが、二日続けて野宿はかなり嫌だ。そんな事を考えていると、エリノアが笑う。
「心配せずとも私の家に泊まってくれて構いませんよ。お二人にはお世話になりましたしね」
この流れは非常に断りづらい。少し申し訳なく思うが、魅力的な提案なのは確かだ。
俺とアオはエリノアに礼を言うと、一晩ばかり世話になる事を決めたのだった。
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