第13話:領主
「今回の件、貴殿らの活躍がなければ収集がつかなかっただろう。本当に、ありがとう。エリノア様も少し前に目を覚ましている」
領主の応接室に呼ばれた俺とアオは、シュノーが深々と頭を下げているこの状況に困惑していた。
こういうのって領主が直接出てきたりするんじゃないんだろうか。
「ええと、本当に良いですから。それより、双頭狼思いっきり見られましたけど大丈夫ですか?」
「あ、あぁ。その件は問題ない。ケントのことは召喚士である、と協会の方には報告してある。それにアオが騎士団の剣を持っていたためにそれほど大事には至っていない」
で、あるらしい。街への被害は与えていないが、人々を怯えさせたのは事実。何らかのペナルティがあるかもしれない程度には考えていたが、どうやらお咎めなし。こちらとしては有難い。
「捕虜は?」
「尋問はしているものの、進捗は良くない。しかし、あの男の勝ち誇った顔を見たところ、エリノア様は亡くなったと思い込んでいるらしい」
「そのエリノア様は大丈夫なんですか?」
アオが尋ねると、シュノーは困ったように笑う。その視線を追った先にはメイド服を着た一人の女性が立っていた。俺たちを案内した女性である。
「ふふっ。この国では有名だと思っていたのだけれど、やはりですか。少しだけ貴方方に興味がありますね」
「じゃああなたがエリノア様なんですか?」
「そうですよ、彼方からいらしたお客様」
一礼して、シュノーの横に座ったと思いきや、そんなことを口走るエリノアに、俺とアオは息を飲む。シュノーの方に視線をやると、ぶんぶんと顔を横に振っていた。
もしかしてそんなことがわかる特殊能力みたいなのがあるのだろうか。
「いえ、そんなものは私にはありませんよ。そんな固有能力があれば楽だったんですけれどね」
クスクスと笑うエリノアに俺とアオは絶句していた。
「女性の方はともかく、男性の貴方は顔に良く出ますので何となくわかるだけですよ。まぁそんなことはどうだって良いのです」
「エリノア様、少しお言葉をですね」
「そうですね。ですが、彼等はきっとそれを望まない。彼方からの来訪者は奥ゆかしい方が多いと聞き及んでおりますし」
彼方からの来訪者。おそらくそれは過去に来た俺たちの同類。もし生きているのであれば敵対だけはしたくない。俺とアオはこちらに来て数日しか経っていないというのに、日本では考えられないほどの力を得ているらしい。
同郷であるのであれば、それが与えられていないと考えるのは危険な思考だ。
「そうですね。対策はしておいた方がよろしいと思います。私たちが把握しているのは貴方方を除いて三人ですが、いずれも一騎当千の猛者ばかり。トラブルメーカーとも聞きますので、何かあっても大丈夫なようにしておくのが良いでしょう」
この人本当に心が読めるんじゃないかと思った、その時にエリノアは小さく微笑む。
「意地悪するつもりはなかったのですが。ところでお二人のことはケントとアオと呼んで良いですか? 私のことは、そうですね……エリちゃん、とでも」
「ちょ、エリノア様?!」
「シュノーも二人をそう呼んでいるとお聞きしましたので。良いじゃないですか、私にもそういうお友達ほしいんです」
この人が何を考えているのか全くわからない。まさか言葉通りとは思えないし、かといってこの呼び方に何か意味があるのだろうか。
そう考えたところで、この人に名乗っていないことに気づく。今更な気がしないでもないが、しないよりはマシだろう。
「すみません、自己紹介を忘れていました。自分がケント・ミウラ。呼び方は、その、任せます。あとエリちゃんは勘弁してほしいかなぁと」
「ええと、アオノ・オノです。ケントと同じく、です」
正解がわからない。出来るだけ顔に出さないように考える。
沈黙が僅かに出来たかと思うと、エリノアが口元に手を当てて悪戯っぽく笑う。
「冗談、です。でも、エリノア様なんて堅苦しい呼び方は部下だけで充分なのでやめてくださいね。それに何と言ってもケントもアオも私の恩人ですし」
「ええと」
「敬語も結構ですよ。そもそも来訪者の方々に礼儀は問わないという事例も数多くあります。ぐちぐちと小さいところを突いて敵対されるのは割りに合わないという判断です。納得できましたか?」
「でも、他の国はそうじゃないですよね?」
アオの問いかけにエリノアはゆっくり首を振った。
「過去、来訪者と争った国は幾つかあります。もちろん、その争いはほとんどが国の勝利に終わりました。ですが」
「被害が、大きすぎた?」
「そうです。ある者は来訪者を強引に抱え込もうと。ある者は来訪者を奴隷に落とし、支配しようと。戦争となった引鉄はたくさんの例がありますが、結果として国は大きく国力を落とし、周囲から侵略を許すまでとなったかつての大国すらあります」
そんなことが可能だろうか。と、考えて俺は自分の能力を考える。まだこの能力の底は知れないが、仮に千年原始人のような魔物を何十何百と召喚できるのであれば。
きっと可能だ。
「つまるところ、その程度のことで来訪者を無下にする輩はほとんどいないのです。私たちの国に限らず、来訪者に関してはマナーに寛容ですよ」
ニッコリと微笑みながらそういうエリノアに、そういうものなのかと納得する。とはいえ、だからといって道理に合わないことばかり行っていると討伐対象になったりするのだろう。魔王だとか言われて。
「だから私としては対等な関係で仲良くしたいというのが本音です。年齢も同じくらいですしね」
立ち上がってエリノアが手を差し出す。ほどほどの距離を保つのが最善だろうか。
そんなことを考えながら、俺は立ち上がって差し出された手を握り返した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます