第11話:追跡

 どうすればこの溜飲が下がるか。

 勝利条件は二つ。領主の完治と敵対者の捕縛もしくは殲滅だ。


「信用できないか?」

「敵を屠るだけならば私たちにもできるやもしれんが、そうなると時間が足りない。しかし、ケントなら解決する案があるのだろう」

「出来るかもしれないってだけだ」

「十分だ」


 呆気に取られる騎士に、シュノーは練兵場の警備を固めるように指示を出す。


「何をしてる、行くぞ」


 そうして、俺とアオはシュノーに続いて走り出す。目的地は錬金術師がいた部屋。

 治療自体は既に済んでおり、意識も取り戻していると言う話だ。


「シュノー、後で武器貰っても良いですか?」

「良いだろう。鎧は着慣れぬだろうからやめておいた方が良いかもしれんが、剣くらいは持っている方がいい」


 もしかしてこの後の行動が読まれているのだろうか、とふと思ったが、あり得ない話でもないなと考える。


 そうこうしているうちに辿り着いた部屋を勢いよく開くと、椅子に座って呆然としている男が、視線をこちらに向けた。


「……シュノー団長。この度は」

「言うな、それを言うなら私たち全員に非がある」

「は、ははっ。主人を守れずして何が騎士か」

「守れるかもしれないぞ」


 そう言うと、これまではシュノーに向けられていた虚ろな瞳がこちらを捉える。


「君は?」

「俺のことはどうでも良い。そんなことより、まだ薬は作れるか?」

「材料が、なければどうしようもないじゃないか」

「あれば作れるんだな?」

「当然さ! そのために僕はここにいる、ここにいたんだ……」


 俺は千年原始人が狩ってくれた双頭狼の素材を全て変換する。残りポイントは524000。ギリギリではあるが夜光の花だけならば足りる。


「足りないのは夜光の花だけか?」

「そう、だけど」

「なら良かった」


 方針が決定した。俺は夜光の花を購入し、実体化する。目を見開く錬金術師の彼にはまだ渡せない。


「落とし前をつけたい奴らがいるからもう暫く待ってくれ」


 やっぱりですね、とどこか嬉しそうにしているアオを横目に、俺は双頭狼のカードを本から抜き取る。


「来い、双頭狼」


 カードが光に包まれると、次の瞬間、双頭狼が姿を現していた。

 てっきり怯えると思っていたが、信じられないような表情をしているだけなので、こちらとしては都合が良い。


「なぁ、鼻が良いんだよな」

「ウゥゥ」

「これがこの街にもう一つあったはずなんだ。追えるか?」


 二つの頭の前に夜光の花を差し出すと、すんすんと匂いを嗅ぎ始める。


「ガルゥ」

「グルゥ」


 二つの首が頷いたのを確認して、俺は花を錬金術師に渡した。


「え、えっ?」


 事情がまだ飲み込めてなさそうな彼に押し付けると、シュノーの方を見る。


「彼には私が付こう」

「そうしてくれ」


 扉を開けると、サンドラさんと騎士が一人駆け寄ってくる。


「ケント殿。それは一体……」

「俺の切り札の一つですよ。今から行かないと行けないところがあるんでね」

「サンドラさん、剣とかって借りれないですか?」

「あ、あぁ。それは構わないのですが」


 腰から剣の鞘を外しながら動揺を見せるサンドラさん。

 扉を開くと、シュノーを呼び出す。


「団長、これは一体……?」

「夜光の花が盗まれた。イミシアも失踪している」

「しかし、ではなぜカルロス殿は……」


 調合を開始しているのか、と言いたいところなのだろう。しかし、シュノーは首を横に振る。


「疑心暗鬼になり過ぎるのも良くないが、これ以上失態を犯すわけにもいかん。サンドラ副団長、いかに貴殿であろうと今は中には入れられん。理解できるな?」

「……なるほど。委細承知しました。ではここはお任せいたします。敵がもしこれを知ったとして次に狙うのは」

「なりふり構っていられないとしたら、一つだろうな」


 領主を直接狙う、というのが最後の手段と考えられる。サンドラさんともう一人の騎士は姿勢を正し、シュノーの方へ向く。


「命令を」

「エリノア様の私室を死守しろ。私とカルロス、ケントとアオノ以外誰も通すな」

「はッ!」


 随分と信用してくれているらしい。であるならばその期待に応えなければならない。

 ザッザッと音を立てながら立ち去る二人を見送る。


「ここまで巻き込んでしまってすまない。だが、今は二人が頼りだ。騎士団内に敵の手が入り込んでいる可能性がある、頼んでも……良いか?」

「まっかせてくださいです」


 武器を持って頰を緩めているアオに、シュノーは苦笑する。


「ありがとう。二人であれば本当に何とかしてくれそうだと思ってしまうよ」

「何とかするさ。俺のためにも」

「一つだけ、頼みがある」


 一転して真剣な表情のシュノーに自然と俺たちの背筋が伸びる。


「死ぬなよ、生きて帰ってこい」

「当然だ」

「武運を」


 深々と頭を下げるシュノーに小さく頭を下げると、俺とアオは走り出す。

 当然というべきか、双頭狼は練兵場を出るべく走る。


 双頭狼が魔物である以上、混乱は避けられないが、これ以外の方法もない。

 後のことは騎士団で何とかしてくれるだろうことを信じて俺たちは速度を上げていく。


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