第5話:朝
目が醒める。視界に映ったのはテントの天井。横には小野葵乃と名乗った女の子が寝ている。
つまるところ、この現実は夢などではなく。
妙に血生臭い気がしてテントから這い出ると、そこには昨日俺たちが襲われた双頭狼の死体が積み重なっていた。
「ウルゥ!」
「お、おぉ。おはよう」
よ! みたいな感じで千年原始人がニタリと笑いながら手を挙げる。こちらもその挨拶には応じるが、この死体は何なのだろうか。
「オゥ……」
死体を指差すと起こすまでもなかったという感情が伝わってくる。そして千年原始人は腰を上げると、のっしのっしとこちらに歩いてきて、千年原始人が持つと酷く小さく感じるカードを差し出した。
「くれるのか?」
「ウルゥ!」
どうやらそうであるらしい。俺はそのカードを受け取り、何のカードか確認して言葉を失う。
「双頭狼……」
酷く上機嫌な様子の千年原始人はニカっと笑うと焚き火で暖を取り始める。
違った。焚き火のそばに木の枝が刺されている。枝には肉が刺されており、その数三本。おそらく双頭狼の肉だと思われる。
千年原始人は枝を二本抜くと、一本を自分の口に持っていき、もう一本を俺に差し出した。
俺はありがたくそれを受け取ると、恐る恐る口に運ぶ。
「うまッ!」
溢れ出る肉汁。焼いただけとは思えない深い味わい。驚く俺に千年原始人は肉を食い千切りサムズアップしてくる。
俺も同じようにサムズアップすると、ガサゴソとテントの方から音がする。
「何なんですこの匂い。あ、ケント何食べてるんですそれ!」
「多分双頭狼の肉だ。千年原始人が焼いてくれた」
「うわぁ、ワイルドですねぇ」
まだ肌寒い朝。焚き火に寄ってきたアオに千年原始人が同じように肉の突き刺さった木の枝を渡す。
「え、良いんです?」
何も言わずに親指を立てる千年原始人に、アオは感極まったかのように震えながら肉を受け取る。
アオは小さい口で肉に齧り付くと、千年原始人にぐっと親指を立て返す。
昨日は失禁までしたのにいつのまにか友情が育まれていたらしい。
まぁ二人が仲良くなるのは良いことだ。とりあえず俺は積み重なった死体に近づきカード化していく。
「で、それもカード化して良いのか?」
焚き火の側にある丁寧に鞣された皮。肉はまだ少し残されている。内臓の類は見当たらないから多分千年原始人が夜中に食べたのだろう。
「オオオ」
皮と肉を差し出してきた千年原始人にありがとうと告げるとカード化する。
どちらもレア度6の双頭狼の肉と皮に姿を変える。二つを本に仕舞うと、千年原始人も光に包まれる。
カードに戻った千年原始人も本に仕舞いこみ、俺はまだ赤々と燃える焚き火の側に腰を下ろした。
「それで、今日はどうするんです?」
「もちろん森から脱出するべく歩き回る。戦力は多分問題ないと思う」
「……何かあったんです?」
そう言うアオにあのカードを見せる。
名前:
レア度:6
分類:魔物
説明:嗅覚に優れた魔獣。群れを形成することがあり、危険度が非常に高い。好戦的で類稀な戦闘センスを有する。
「どうやって手に入れたんですか?」
「千年原始人がくれた。入手方法はわからん」
ただまぁ千年原始人はかなりの数の双頭狼と戦っていた。自体が七つに、皮と肉の分も入れれば八匹分。これは群れと言っても良いだろう。
「ですか。はぁー、良いなぁ」
「どうした急に」
「いや私だって何かしたいじゃないですか。今のところ私ってただのお荷物ですしおすし」
「あー、うん。まぁ街とかで調べて貰えば何かあると思うよ、多分」
あからさまにがっくしとしているアオを宥めて立ち上がる。夜営に問題はないということがわかったが、体調は優れていない。多分これは千年原始人を一晩召喚し続けた代償だろう。
「よし! 街まで急ぎましょう!」
「そだな。そうするか」
そうして歩き出そうとしたその時。
────ゴォンッ!
「……聞こえたか今の?」
「何の音ですかね?」
恐らくそう遠く離れた所ではない。
────ィン!
金属音? 誰か戦っているのか?
「戦闘、みたいですね。どうします?」
「危険はある。が、人と会える可能性が高いのか……?」
どこか不安そうなアオ。ここで立ち止まるのも手ではある。だが……
「行こう」
「はい」
震えながら手を握ってくるアオの手をぎゅっと握り返した。
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