第4話:初めての夜

「それにしてもホンット便利ですねその能力」

「これなかったら死んでたかもな、いや死んでたな」


 パチパチと音が鳴る。俺たちは火にあたりながらカレーを食べていた。

 森はどうにか抜けた。当初は水辺を探してそこを辿れば人里に着くんじゃないかと考えていたのだが、アオのある一言でそれは考えないこととなった。


『その指定購入って、この辺りの地図を書いたものと交換できないんですか?』

『多分できるだろうけど、現在地がわからないと意味が無いと思うけど』

『それがわかる魔法の地図的な』


 結論から言うと魔法の地図は存在した。お値段なんと1000万CPで。

 買えなくもなかったが、それは千年原始人を手放すという条件が付く。命の恩人であり命綱である千年原始人を手放すつもりは無かった。もちろんアオにもそのつもりはないらしかった。


『まぁダメ元で私たちの現在地を中心とする地図、とか購入できないですか?』


 これまた結論から言うと出来た。先ほどまで見てた普通の地図と比べると値段は10倍。CPにして5000だが、これなら買えなくはない。結局俺とアオはこの地図と方位磁針をCPで購入し、道を進む。


「残りCPは17000ですか」

「だな。出来ればもう地図は買いたくない」


 仕方のない出費ではあるが、俺たちは一度地図を新しいものに交換していた。食事や水、方位磁針などなど。必要なものを購入していくと凄まじい勢いでCPが減っていく。


 あの双頭狼はレア度6だったことを考えると多分かなり強いモンスターだったのだろう。その死体から得たポイントももう半分近い。できる限り早く人里まで辿り着く必要があるだろう。


 とはいえ。


「もうすぐ日が暮れるけど、大丈夫なのかな」

「大丈夫じゃないと思うけど。後で千年原始人に聞いてみるか」


 あれ以降千年原始人は使ってない。何かコストみたいなものが必要なのかどうかもわからないが、素人が寝ずの番なんてことよりは遥かに安心できる。


「むぅ、仕方ないです」


 どうやらアオは千年原始人に苦手意識を持ったらしいが、安全と引き換えには出来ない。


 とりあえず食べたものを片付けると、俺は本から千年原始人のカードを抜いた。


「召喚、千年原始人!」

「ルル……」


 千年原始人はキョロキョロと周りを見渡すと不思議そうにこちらに首を傾げる。


「ええと、これから寝ようと思うんだけど、俺たちは多分見張りが出来ない。お願いできるか?」

「ウル! ウゥ……」


 それは構わないと言わんばかりに千年原始人はどかりと音を立てて座り込む。しかし、その視線は大丈夫かと尋ねるように俺を見ていた。


 やはりコストのようなものを支払う必要があるのだろうかと、自分の体調を気にかける。

 すると、先ほどまではなかった喪失感を感じ、千年原始人が心配そうにしているのはこれのことかと納得する。


「心配してくれてありがとう。でもこの程度なら問題ない、と思う。もしカードに戻りそうになったり問題があったら起こしてほしい。頼めるか?」

「ウルゥ!」


 任せろ、とばかりに千年原始人は拳を握る。

 それを見ていたアオが不思議そうにこちらを見ていた。


「お話してたんです?」

「話ってほどじゃない。千年原始人の召喚の維持に力みたいなのが必要で、今もちょっとずつ消費してるみたいなんだ。それを大丈夫なのかって言いたかったらしい」

「お話出来てるじゃないですかー。でも、その力ってなんなんです? 魔力みたいな?」


 アオの言葉に首を横に振る。わかるわけがない。ただ、こんなものは地球に、日本にいた頃は感じたことがなかった。あながち魔力というのも間違いではないような気がする。


「じゃあ寝ますか。変なことはしないでくださいよー」

「バカ言ってないで早く寝ろ」


 見た目はアオは整っているし可愛いと思う。でもこんな状況で盛るような性格では俺はない。


 千年原始人が固定してくれたテントの中に入ると、二人で毛布を羽織る。どこか興味深そうにこちらを見ている千年原始人に気まずさを感じながらも、俺はアオに背を向ける。


 慣れない環境、プレッシャー。言うまでもなく疲れていたのだろう。

 俺とアオが眠りに落ちるまで然程時間は必要なかった。

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