第3話:千年原始人
千年原始人。そのカードがなぜここにあるのかはわからない。
狼はというと、俺たちを甚振ってから美味しく頂こうとでも考えているのか、こちらを見ながらぐるぐると回っている。
「ケント、そのカードは!?」
「俺が死ぬ前に手に入れたカードだよ。もしかすると、本当にもしかすると……」
俺の能力とこのカードは多分偶然ではない。ならば、きっと。
「
カードが眩い光を放つ。
次の瞬間、目の前に立っていたのは身長5mはあろうかという巨人、千年原始人だった。
「オオオオオ」
ギロリと単眼の瞳を向けたかと思うと、千年原始人は背中にかけた斧を右手に掴む。
「ひッ!」
アオががくがくと震えながら俺の腕を胸に抱く。
「安心しろ、あいつは味方だ」
ニタリと千年原始人が嗤うと、俺たちに背を向ける。及び腰になっている狼に飛びかかると斧を振り下ろす。
斬ッ!
その巨体からは想像もできないほどの速度。狼が真っ二つになり、その屍を晒すまで数秒もかからず。
のっしのっしとこちらに向かって歩きながら千年原始人は笑みを浮かべる。なんだか右腿が生暖かい気がしたが、今は気にするべきではないと思考の彼方に追いやる。
「ウルゥ」
「あぁ。今回は助かった、また頼むよ」
千年原始人が差し出した大きな手を俺は握り返すと、次の瞬間千年原始人はまるで先ほどの光景が夢だったかの様に姿を消す。
だが、それが夢なはずはない。
俺の手の中には千年原始人のカードがあった。
名称:千年原始人
レア度:9
分類:異界の魔物
説明:強靭な肉体を持つ寿命千年を超える原始人。圧倒的な力であらゆる局面において敵を粉砕する。
CP:880000000
めちゃくちゃCPとレア度が高いと思いながら一頻り見つめた後、ブックを唱えて、大切にカードを仕舞い込む。
ふうっと一息着くと下に引っ張られる。
「あぅぅ」
ぺたりとアオが地面にへたり込む。どうやら腰が抜けたらしい。
そしてアオが履いているズボンには、先ほどの生暖かい感触が勘違いでなかったことを示す染みが広がっていた。
「あー、えーと。とりあえず、川、探すか?」
「……ぅぅ、もうお嫁に行けないぃ」
「大丈夫、知ってるのは俺だけだ。気にするな」
そう言うと、そもそもケントが急にあんなのを出すのが悪い、だのあんなのがあるなら早く言えだのとキャンキャンと吠え始める。
「それは悪かった、と思う。でもな、騒いでるとまた危ない目に遭うぞ」
と言うと、思い出したのか、サーっと顔から血の気が引いていく。
アオが落ち着いたところで、俺は先ほどの獣のところまで周囲を警戒しながら歩く。そしてまだ暖かいその死体に触れる。
「カード化」
名称:双頭狼の死体
レア度:6
分類:アイテム
説明:双頭狼の未解体の死体。鮮度良好。
CP:32000
「これだけじゃ、ちょっとわからないな」
「それよりこのCPって何なんですかね。石が1でこの狼は32000ですか。何かのポイント……?」
アオは千年原始人のCPを知らないため、双頭狼のCPが非常に高いと思っているらしい。
「あ! もしかして購入するのに必要なポイントだったりするんですかね!」
「あー、かもしれないな。でもどうやって?」
「変換と購入ですよ、多分」
可能性は高い。俺はアオの言う通りに双頭狼の死体カードを持って、変換と一言口にした。するとカードが光に変わり、俺の持つ本に吸い込まれていく。
あのページを開くと、きっちりCPのところが32000増えていた。
「指定購入、水」
そう言うと、パラパラと自然とページが捲れていき、これまでは書かれていなかった水と書かれたページでピタリと止まる。
名称:水
レア度:1
分類:アイテム
説明:多くの生命の維持に必要な物質。10L。
必要CP:100
「高いのか低いのかわからないな」
とはいえ水は必要だ。下に書かれている購入というところを触ると、右手に水のカードが現れる。
そして水のカードを使ったその時、空中で水の玉が生成されて。
「「冷たッ!」」
二人揃って仲良く水を浴びることとなるのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます