第2話:カードコレクター
歩く、歩く、歩く。
ただそれだけのことなのにやはり緊張してしまう。
「大体こういう世界で、特に転生や転移した人には特殊なスキルとかがあるんですよねー」
「なるほど。でもそれって創作の中だけだよな」
「そりゃそうですけど。でも現実的な話、それくらいないと私たちゲームオーバーまっしぐらですよ?」
小声で会話しながら俺たちはキョロキョロと周囲を警戒しながら進む。
歩くのは当然、水場や食料となりそうなもの、森の出口を求めてだ。
今の俺たちはアオの言う通りかなり厳しい状況にあるのは間違いない。
着の身着のまま。俺が着ているのはシャツにスキニーのみ。持ち物は高級な文鎮と化した携帯電話と小銭とカードが入っているだけの財布。
アオもさして変わりはない。日本の街中ではいたって普通の格好だ。
しかし、現在俺たちがいる場所には全くもって相応しくない。
普通の日本の森や山ですら舐めてる服装や所持品である。ましてこの危険極まりない異界の森に挑むにはありとあらゆるものが足りてない。
「ちょっと、聞いてますか?!」
「ん? あぁ。で、ええと俺たちの技能? 能力を見るにはどうするんだ?」
「物語の大半ではステータス、と言ったり鑑定とかいうスキルがあればそれを使ってましたけど……」
ふむ。よくわからない。とりあえず俺は自分に何が出来るのかを考える。
その次の瞬間、頭にイメージが浮かんでくる。その通りに俺は言葉を紡いだ。
「ブック」
一言。その直後、俺の手に一冊の本が現れる。ペラペラとめくるも、どちらかといえば本というよりバインダーに近い。そして本のような部分も目に入る。
よくわからないが、カードを入れるのには便利そうだ。もっともこの世界でカードが手に入るのかはわからないけれど。
「ちょ、え。なんです、それ?」
「さぁ。なんか出てきた」
アオが言っていた能力とやらは多分これのことだろう。ただし、俺自身どう使えば良いのか全くわからない。
「おぉ?」
ペラペラと捲っていると、一番端のページで手が止まる。
名前:ミウラ・ケント
種族:純人族
職業:カードコレクター
称号:蒐集家
所持CP:0
「なぁ、これどう思う?」
「私に聞かないでくださいよ」
「だって詳しいんだろ?」
クエスチョンマークを大量に頭上に浮かべるアオ。これだけではどうにもわからない。とりあえず道端の石を拾ってみる。
「カード化」
「何言ってるんです?」
ぷふっ、とバカにした様な顔をしたアオだが、その余裕は続かなかった。そして俺は手の中に現れたそのカードを見てゴクリと唾を飲み込む。
名前:石
レア度:1
説明:何の変哲も無い石。投げれば武器にならなくも無い。当たると少し痛い。
CP:1
「まじか」
「まじですか、これ」
どういう原理かは全くわからない。けれどどうやら物の持ち運びはそれほど苦じゃないかもしれないことが判明した。
「で、でもそれ戻せるんです?」
「た、多分な」
そうして戻れ、と念じたその時にはカードは先ほどの石へと姿を戻していた。
「ッ」
絶句。もう一度カードに戻せるかどうか試してみると、何も抵抗なく石はカードへと変化する。
「す、凄い。凄いですよ、ケント!」
「わかった、わかったから落ち着け! そんなデカイ声出すと何が来るかわかんないだろうが!」
はしゃぎだしたアオは俺の言葉で我に返る。ただ、そうなるには遅すぎた。
「ごるるるる」
「あ、詰んだ」
「詰んだじゃねぇえええ!」
急いでアオの手を握ると走りだす。しかし、逃げきれるとは思ってない。
どうする、一体どうすればいい!
「ゴアぁッ!」
飛びかかってくる頭が二つある狼の様なものを間一髪躱す。ギリギリ生存しているが絶体絶命の現実は変わらない。
万事休す。そう思われた時、ポケットが急に熱を持つ。理由はわからないが、手を突っ込むと、やけに熱くて硬い感触があった。
「クソッ!」
どうとでもなれ。そう思ってそれを引き抜く。目に移ったのは俺があの時手放したあのカード。
「千年原始人……?」
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