第1話:見知らぬ森
「いててて」
なぜか痛む全身を押さえて立ち上がる。見覚えのない光景。周囲には樹齢千年を超えていてもおかしくはないと感じさせる木々。いや、樹齢千年の木なんて見たことないんだけど。
「一体何が」
そう呟いたその時、右足が柔らかい何かを踏みつける。
「いたッ!」
俺ものではない声。そっと右足を前に踏み出すと、ギギギ、となかなか動こうとしない身体を反転させる。
そこにいたのは地面に寝そべった、何故か見覚えのある女の子。
「……誰?」
「こっちが聞きたいですよ。その前に踏んだことを謝ったりしないんです?」
ジトッとした目を向けてくる彼女に僕はごめん、と一言告げると地面に座り込む。
「俺はどういうわけか君に見覚えがあるんだけど、君は?」
「ないですねー。ん、いや、あるようなないような? それより、なんで私はこんなところにいるんですか」
「俺が知ってるとでも?」
それもそうか、と目の前の彼女は納得した様子で頷く。
「じゃあ自己紹介でもしましょう。知らない土地で一人ってのは心細いですし。それにここ日本じゃないみたいですしね」
「自己紹介ってのは良い案だ。で、日本じゃないってのは?」
「植生です。あんなのが日本に、というか地球に存在していたなんて記憶は私にはないので」
あんなの、と言って彼女が指差した方を見ると、大きな花を咲かせた一メートルくらいの植物がのっしのっしと歩いていた。
「なるほど、よくわかった。現状を確認できたことで、ここで協力することの大切さも認識できたよ」
「ですです。じゃあ、まず私から。名前は
屈託無い笑顔を向けてくる彼女に俺もどうにか笑みを浮かべながら差し出された手を握り返す。
「俺は
出来る限りの小声でそう言うと、理由を察したのかアオが密着してくる。
「ところでケントは最期の記憶ってなんです? 私は信号待ちしてるところなんですよね」
「俺も信号待ちだな。確か千年原始人を買って浮かれてた時に車が……車ッ!?」
車のことを思い出した俺はつい声が大きくなるところをアオに口を押さえられる。
「あー、思い出しました。私たち轢かれたんですね。病院じゃないってことは異世界かなんかかー」
「悪い、助けられなかったらしい」
困った顔のアオに頭を下げる。すぐに突き飛ばせば多分アオは助かっただろう。けれど俺は迷った。その結果がこれだ。
「良いですよ。ケントは私を助けようとして助けられなかった。それなら仕方ないです。その事実だけでも嬉しいもんですね。それに、自分だけ逃げようとしたら出来たんじゃないですか?」
「……わからない」
ふふっ、と口元を押さえながら葵乃は笑う。
「ま、そういう事にしておきますね。どういうわけかこっちで生きてるんですから頑張って生き残らないと、です」
「だな。あー、俺こういう異世界みたいなの詳しくないんだよなぁ」
「お、ですか。意外です。私は結構そういうのは好きだったのでもしかしたら役に立てるかもですねー」
周囲を見渡しながらそう言い、アオは立ち上がる。同じように立ち上がると、差し出された手を握る。
アオは眩しそうに太陽の位置を確認すると、音を立てないようにゆっくりと歩きながら口を開いた。
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