1章 異世界でも人と喋れない 〜その16〜






そして、次の日....


「影人....。話がある、来い」


何だ?お父さんが、いつもと違う。部屋に普段は来ないのに....


何か悪いことをした記憶がないんだが....


始業式の次の日が土曜日だったから、休みたいのに......






リビングに行くと、お母さんまで座って......一体何が....?


「....本当の事だけ話せ。....お前、同じクラスの山田君に何した?」


....はぁ?何を言っているか分からんが......


「放課後で会っただけだけど」


うん。ただそれだけなのに、何故か怒られている感じがするのは何でだろう......


「....本当か?山田君に何もしてないのか?」


「いや、それは......」


そして、昨日の放課後にあった事を全て話した。






「おい、影人....。とりあえず、謝りに行くぞ」


「....え?何で......」


「....影人。お父さんの上司の苗字....山田って言うの....。あとは、分かるでしょ?」


マジで....?でも、俺....喋れないけど......


「影人。まだ、喋れないとか言うの?もうその癖、直しなさいよ」


「お母さん、これは癖じゃなくて......」


「いい加減にしろ!!」


....お父さん?そんなに怒らなくても......


「いいから、早く....来い......」


そう言って、俺の腕を引っ張る。だけど俺は......


「だから、喋れないって言ってるじゃん!」


父さんの手を振りほどいて、逆ギレした。


「....昨日、上司から電話があった。上司が俺の息子を泣かせた影人ってやつを連れて来いって....」


「何でだよ!今言ったばっかじゃん!左に指がズレただけだって....」


「それを説明しに行くんだよ....だから......」


....無理だって、話せないって....何回言ったら分かるんだ!


「もう、嫌だ!!」


「おい!どこに行く!!」


俺は部屋に鍵をかけて、その日からこもるようになった....まぁ、トイレは行くけど。


俺は、父さんから逃げたんだ。世界から逃げたんだ。


それでも....お母さんは、ドアの横にご飯をいつも置いていってくれた......


いつも、ドアの前で話しかけてくれた......


山田君には、父さんが全部説明して、納得したって、ドアの前で、言ってた気がするが....どうでもいいか......






そして、小学6年生の始業式が始まった日....






ラノベや漫画やアニメとか、もう見飽きたし、やる事ないな......


「....つまんないな、この人生。楽に死ねないかな?......まぁ、家の包丁使えばいっか」






「....影人。朝ご飯....食べてね。....そういえば今日は始業式だからそろそろ——」


....ドアを開けるとお母さんが目の前にいたが....まぁ、どうでもいいか......


「....トイレ?」


「....包丁借りる」


そう言った瞬間にビンタして来た......


「おい!何する——」


そして、抱きついて来た......


「ごめんね....。私が....家族が、一番息子の事、理解してあげなきゃいけなかったのに....。本当に....ごめんね?....だから、そんな事....もう、絶対に....言わないで......」


まだ、自殺するなんて言ってないんだが....察したのか......?


....ん?


母さんが....泣いている。


....俺は....何して......


1年も....引きこもって....。今気づくのかよ....。こんな引きこもっていても、お母さんは俺を......見捨てなかった....


俺が外に出てくれると....いつも信じてくれた......






「....ごめん、お母さん、今まで。俺は、少しずつ....外に出てみるから......」


「....ごめんね、本当に」


俺は....お母さんにずっと頼ってばっかでは、いけない....。勉強するか......






そして、中学受験——


「....受かったよ、お母さん」


「本当に....?影人....」


「....父さんも、ありがとうございました」


「....」


「....これから話せるように少しずつ、頑張りたいです」


そして、2階へ上がる時....


父さんが、泣いていた気がした。






高校受験も普通に受かった......


母さんは喜んでくれた。父さんは、当たり前だろう、みたいな感じに母さんに言ってたと思う......


....今まで....ありがとう。母さん、父さん。






「——母さん、何で泣いて——」






『父さんへ


今までありがとう。そして、ごめんなさい。父さんに言う事は、1つです。






友達を作って、変わった俺を帰って来た時に見せます。


影人』

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