1章 異世界でも人と喋れない 〜その14〜






「——特殊部隊、集まって貰ったのは緊急なのだ、すまないな。まず、例の地形ごと吹き飛ばされていた魔物の件....アラン、話を」


「はい、父上。今日の朝日が出る前の時....あの魔物と戦う為に私達は、準備をしていました。特殊部隊の一部は準備中に音を聞いて、瞬間移動で来た時にはもう、あの状態だったようです」


「そして、ここからが本題だ。....アラン」


「はい。そして、もう一つの件が——」






「——まず、私の本当の名前はミルという名前じゃないの。これは、お姉ちゃんの名前で、私の本当の名前はミラ・リーリア。年齢も16歳よ」


『という事は、身分証は貴方のお姉さんのものなのですか?』


「....そうよ」


頭が良いのか悪いのか....。お姉さんの身分証を簡単に見せちゃいけないでしょ。


だけど......


『写真は、上に貼り付けてありますね。凄く薄くて気づきませんでしたよ』


よく考えたら、写真がある事もよくわからない。本当に謎の世界だ......


「もう、呼び捨てでいいわよ。敬語もやめてよ。....歳上でしょ?」


『20歳だよ』


本当は俺は17歳だけど....歳の差が1歳しか違わないのが、納得出来ない。


....20歳は嘘だったけど16歳なのは本当だろうな。だが、それが納得出来ない。


小学生でしょ。全ての行動と身長を含めた結果が......


「....お姉ちゃんと同い年なのね。」


『そうだな。それで、お姉さんに何があったんだ?』


「....10年前ぐらいに——」






「おい、リビングの掃除......してくれないか?」


「あぁ、後でやるわよ」


いつもお母さんは家事を面倒ながらもやっていた。


「全く、そうやっていつも先送りにして......」


お父さんは魔法研究で忙しかったけど、いつも優しくしてくれた。


でも、ある日......






「....もう、いい加減にしろよ!!」


「はぁ?」


お父さんは1週間ぶりに帰ってきて、いきなり怒鳴るように言った。


....私はその時、怖くて泣いていたけど、お姉ちゃんは、私を慰めようとしてくれた。


「部屋は汚いままだし、子供も放置したままだろ!何だ!この酒の数!」


確かに、掃除を全然やってないし、ゴミは散らかっていて、酒の瓶もいっぱい机にあった。


ある時から、お母さんは料理すら作らず、お金だけ渡してくるようになっていた......


お姉ちゃんと一緒に買い物に行けたからその時は....嬉しい気持ちだったのに......


「いいじゃない、お酒ぐらい。....貴方こそ、1週間も何してたの?まさか浮気?最低ね」


「そんな事してるわけないだろ!ちゃんと1週間前に研究の発表会があるから北の街ノスタに発表に行くって言ったよなぁ!....前はこんなんじゃなかったのに......。いつから、こんなに酷く....もう、嫌だ!!出て行く!!」


そう言って、お父さんは家を出て行った....


その時はお父さんがいなくなって泣いてたけど....お姉ちゃんは泣かなかったの。






そして、さらに1週間が経って....


「....あいつ....どこに....早く、お金....酒....おい!ミル!!」


....お母さんが私達に怒鳴るように言い始めて、私は怖かった....けど、それでもお姉ちゃんは負けなかったの。


「はい。何ですか、お母さん」


「酒、持ってこい」


「....はい」


そうやって、ずっとお母さんに命令されたり、私に暴力を振るったりするのを止めてくれたり、学校に行ったり、私と遊んでくれたりして、年が過ぎ....






5日前の事......


「....あいつ!私が死ぬ前に死にやがって......」


お父さんは、研究時にミスを起こして事故で亡くなったとお父さんの友達の研究者がお母さんに言っていたのを隠れて聞いていた。


....そしたら、仕送りがなくなるから。


お母さんはその事に怒っていたの......


私は、その話を聞いてすぐに部屋で泣いていた....。お姉ちゃんはご飯屋さんの手伝いで、帰って来てから、私が説明した。


お姉ちゃんはそれでも泣かなかったの......






そして、昨日の昼....


「....おい、ミラ。奴隷になって売られて来い。結構な金になるだろ......」


....最低な親だと思った....。お父さんの死を悲しみもせず、お金がなくなったら子供を......


「ミラ、あんたを奴隷になんか....絶対にさせない。....お母さん。......私が奴隷じゃ....ダメ?」


「何を....言っているの....?」


「それじゃ....手伝いの分の金がなくなるだろ......」


「....じゃあ、これから私がミラで、ミラは私の身分証....。はい、これでいいでしょ?」


そう言うと、私の写真を貼ったお姉ちゃんの身分証を渡して来た......


「....ダメだよ!お姉ちゃん!私は——」


「いいんだ、もう。お姉ちゃんは....貴方は......ミルでしょ?......今までありがとうね」






そう言って、お母さんとお姉ちゃんは、外に出た。....私は何も言えなかった。


ただ泣いて....ずっと泣いて......


....何も出来ずに、お父さん、お姉ちゃんを失って、やっと気づいたんだ。


....私が無力だって事。簡単に平和は壊れる事を......






部屋で人形のようになっていたら、お母さんが帰ってきた。奴隷商は、この街にいるはずないのに何でこんなに早く......売りに来た奴隷商がいたのか。


関係ないか、もうそんな事......


暴力を振るわれても、止めてくれるお姉ちゃんはもう、いない。....もう、全部....どうでも良いや......






....もう、夜か。お昼に少し食べたし、ご飯....いらないな......


『緊急事態発生、緊急事態発生....魔物の群れが、東の森から接近中。街の中の冒険者、元冒険者は、直ちに街の東口へ集合して下さい。その他の人は、教会の地下へと避難を行なって下さい。繰り返します——』


魔物?....どうでもいいかな。


....いや、違う。どうでもよくない。私は......

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