1章 異世界でも人と喋れない 〜その13〜


『人には言えない事があると言ったと思いますが、わかっていますか?』


「わかってるわよ....。ただ、気になっただけ......」


何か残念そうだな....。まぁ、いいか、そろそろ本題に....


『答えなくてもいいですよ。ミルさんは、何故、家出したんですか?』


「うっ、何で....家出したなんて、一言も....やめて、もう私は帰らないから!」


大体察するだろ、ここまで帰らないとなると....


....どこで寝るつもりだったんだ?俺は宿屋で断ったはずだが......


『何となく、怪我とかでわかりますよ。それに今、足が震えていますよ』


「....震えてなんか....ないわよ....」


『無理しないで下さい』


これを書いて見せたら、ミルさんは抱きついて俺の胸で泣いた....


まだ、ミルさんの中だと俺は赤の他人だよな?


人をそう簡単に信用するものじゃないよ、とか言って怒るのが普通だと思うけど、そんな事は言えないんだ。....このまま離れるのを待とう。






....いつまで抱きついているつもりだ?5分くらい経っても離れてくれないんだけど....


どうしよう。泣き止んではいるものの動かない....。離れて、とか言えないし、振りほどくしか......


「....おもちゃ....いっぱい......」


....寝てるのね。


ってか、パンが残ってるじゃねぇか。....飯は残さず食べて欲しいものだ......


仕方がない....持ち帰って、あの宿屋に......






「....お客様、大変申し訳ないのですが、予約などの関係でもう部屋は残ってないのですが......」


....どうしようか。抱っこして来たが、放置するのも悪いし......


「....1人部屋なので、ベッドは1つなのですが、2人で一緒に泊まるというのは......」


『それは無理です』


他人同士が部屋に泊まるとか、普通にありえないから....


『とりあえず、私の部屋はこの人の部屋にするので、それでお願いします』


「はい、わかりました。では、これが鍵になります。二階に登ってすぐに番号でわかりますよ」


『ありがとうございます』


....しかし、軽いとはいえ、抱っこしながら文字を書いたり、階段登ったりするのはキツイな......


何で、俺はこんな事をしてるんだろ......






....ここだな。


ドアを開けると、少し小さめな部屋があった。まぁ1人だったらくつろげたな。風呂はないが、洗面台やトイレはあるな。


....よし、外に出るか。


ミルさんをベッドに寝かして、パンの残りを机に置いて、部屋を出ようとした瞬間......


「..待って....よ......、お姉....ちゃん......」


....わからない。


安心させたいという思いがあったのか、わからないけど、手を握って安心させようとした。


この俺が、人と自分から関わろうとしなかった......この俺が。


「その....まま......き....す......」


....おい、起きてんだろ。


ってか、何でキス?普通、好きな人とやるものだろ......


....出るか。


ドアを開ける音が聞こえた瞬間....


「何でなの!ここは、寝ている私を襲う時でしょ!!この可愛い私に何故欲情しないの?」


....いきなり飛び起きて、何だ?自分で可愛いとか......


『いや、ロリコンではないので』


まぁ、20歳だけどさ。


「ロリ....コン....?よく分からないけど....貴方は何処に泊まるつもりだったの?私を置いてから....すぐ何処かに行こうとして......」


『いえ、とりあえず部屋を出てから考えて』


また、書いて見せた瞬間に抱きついて来た....


何で....?


「....1人にしないでって....言ってるじゃない....。..うぅ......」


....どうすれば....。いや、これは良くない!離れよう......


「あっ....」


....やばい、今にも泣きそうになっている....


とりあえず誤解を解かなきゃ......


『他人同士ですよね?いきなり抱きついたりするのはやっぱり良くないと思いますよ?』


「....他人同士じゃなきゃ、良いんだよね?......じゃあ私と、けっ....結婚....して?」


....聞き間違えじゃないのかな?


色々すっ飛ばして、いきなり結婚の話になる意味がわからないのだが......


『あの、好きでもない人にそんな冗談を言ってはいけないと思いますよ』


「....冗談なんかじゃなくて......。私は貴方の事が......好きなの。名前は知らないし....貴方の事は全然わからない....。でも....優しい....。その優しさだけは私に....希望を与えてくれた....。私の怪我の事....相談に乗るって言ってくれた....。その優しさに私は惚れたの....。貴方に....惚れたのよ....」


....マジ?一日だよ?そんな簡単に人を信じちゃダメでしょ。


とりあえずこのまま流れに乗っちゃいけない......


『相談には乗るから、ちょっといきなり結婚なんて話は急過ぎるからさ、待っててて』


やばい、動揺してる......


この俺が....?


だ、大丈夫。冗談で言ってるだけだろう......


「そうだよね。....話は聞いてくれる?」


俺はとりあえず話題を変えたいと言う思いで、勢いよく首を縦に振った。

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