1章 異世界でも人と喋れない 〜その12〜







「....で、近くにある私の雑貨屋に来たと」


宿屋からこの場所までの道は知っていたので、とりあえずここに来たが、マーリンさんは夜飯を食べていた。


『はい。この子供、どうしたらいいでしょうか』


「うぅ....子供じゃ....ないもん....」


まだ、その20歳の設定は生きてるのか。まぁ、そんなことどうでもいいよ。


「....はぁ。ガルは寝てるんだからあんまり大声で泣かなければここにいていいから....。ご飯は....パンぐらいしかないわよ?」


『私はいいです。この人だけで』


「....君、名前は?本当は何歳?」


「....ミル・リーリア。20歳って言っても信じないから......」


そう言って身分証をまた出してきた。


『また、おままごとの道具ですか。それ出しても信じないですよ?』


「......これ、本物よ?身分証は特別な素材で出来ているから魔力を流すとわかるの。....この人、子供じゃないけど....。君は、子供扱いしてたのか......」


....マジで?小さいし....お子様セット頼んだりする人が....?


....嘘だぁー!!


「....この人は、身分証見せても....信じてくれなかった......」


『いえ、信じてましたよ?』


「嘘ちゅ....嘘ちゅくなぁーー!!」


いや、そういうとこだよ?身分証を簡単に見せたり、噛んだり、子供っぽいのは可愛いけど....20歳。


『申し訳ない。この街についてあまり知らないもので』


「身分証を発行した時の説明を覚えてないの?」


俺は大きく頷いた。


....というかもう紙の残りが....ない。紙を......


「....というか、そろそろ名前教えなさいよ、貴方....もう、逃がさないわ......」


紙がないんだよ!


服を....引っ張るなぁーー!


「....ミルさん。これ、パン。ジャムはここにあるから。......あと、紙がないから話せないんじゃないかしら?」


マーリンさん、ナイスです!


「まぁ、ここにいっぱい紙があるけど」


そうだ、雑貨屋だぁーー!!


「はい、100枚、10エンね」


安いな....


って、そういう事じゃなくて......


「私も君の名前には、興味あるわ....」


何で、俺の名前なんかに....


どうしよう。考えてるわけないだろ......


その時、ドアを勢いよく開ける鎧を纏った兵士みたいなのが来た。


「マーリンさん!緊急です!至急、特殊部隊を集めるのに協力をお願いします!」


名前を考える必要はなくなったが、いきなり何だ?


それに、特殊部隊って....


まさか、マーリンさんは何か凄い人だったの!?


「....客がいるんだ、いきなりそんな事を口にするな」


「....失礼しました。では、よろしくお願いします」


....帰った。....いきなりなんだ?


「....それより、名前!」


『そんな事を言ってる場合じゃないですよ?』


「......という事で私は今から用事があるので、ミルさん達はすみません、パンを食べていて下さいね」


そして、マーリンさんはガルさんの部屋に行って瞬間移動した。


「マーリンさんは凄い人なのかな....?」


『人には言えない事があるんですよ。だから、名前を聞かないで下さい』


「......名前ぐらい教えてくれたっていいじゃないの!馬鹿!」


ってか....もう泣き止んでるだろ....


これぐらい元気なら......


『帰っていいですか?』


「....ダメ。....1人に....しないでよ......」


うわ....また泣き出しそうだから、帰れなそう......


『パンを食べ終わるまでです』


「....うん」






....そういえば俺、紙でだったら普通に話ができるな。


前は、紙で話すと怒られそうだと思ってあまり薄井流奥義を使わず生きてきたのに、この異世界は優しい世界だ......


「そういえば何で喋らないの?文字で話して......」


....優しい世界はその一言で壊れたよ。

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