1章 異世界でも人と喋れない 〜その4〜


ショーをやって1時間ほど経ち、もう人がいなくなったので逃げようとしたが、最初に芸をしていた人が残っていた。


きっと、


「他人が勝手に場を盛り上げてんじゃねーぞ!」


とか、色々言いに来たんだ......


まぁ、他人に場を取られて怒らないわけがない。


ここは、異世界で初めてのあの伝説の技見せよう......






薄井流秘技!無言土下座!


この技を見せれば大体の人は、苦笑いして、


「わかったから、頭上げて....」


とか言ってくれて、様々なアクシデントを無かったことにできた秘技だ!


......で?何で何も言ってくれないの?


「あ、え....と、何をしているんだ?」


まさか、土下座を知らない?


....それは予想外だな。全世界共通だと思ったのに。


では、どうやって謝れば......


「....今日は君を勝手にショーに出させてしまったことを本当に謝らせて欲しい。用事など、色々あった予定を狂わせてしまった....本当に申し訳ない!」


ん?どういうことだ?なぜ、俺が謝らないといけない人が俺に謝っているんだ?


....そうだ、誤解だ。


何か、紙は....あった、あのポスターみたいなのでいいか。


早く誤解を......ってこれは、今日のショーのポスター?


「このショーはさ、明日もやるんだ....。出来ればだけど、ショーを観てくれないか?もちろん、出てくれとは言わないよ」


確かに2日間やると書いてあるな、だが、お金を稼ぐことが最優先なんだが......


「....ん?何だ?」


俺は、ポスターの裏に影の創造でペンを出して、書き始めた。


『すみません、話せないので文字を書いて説明します。ちゃんと言いたいことを言葉にできず、申し訳ないです』


「わかった。話せないのには理由があるのだろう?」


良かった。優しい人で......


『まずは、貴方のショーを私が盛り上げてしまった事を謝らせて頂きます。すみませんでした』


「いや、謝るのは私の方だ....。無理やり観客の前に立たせて....。盛り上げてくれたのも、むしろ感謝しているんだ....。しかし、君の芸はとても素晴らしかった。まるで、いきなり物を生み出していたかのようだった」


まぁ、物を生み出していたんだけどね....。黒いけど。


『予定は特になかったので、良い時間になりました。しかし、明日は用事があって行けません....。すみません』


「出来れば、と言ったからな。無理に来られても....こちらが申し訳なく思ってしまうよ」


やっぱり異世界の人は優しいんだな....


用事なんて特にないけど、空いてる時間に仕事みたいのも探したいしな。


....さて、夜の街を歩いてみるか。


『そろそろ、帰ります』


「あ、待ってくれ!....これは、観客から貰った、チップだ」


そう言うと、小袋に金貨や銀貨、銅貨のようなものがたくさん詰まっている袋を渡して来た。雑貨屋マーリンの店で見た金貨や銀貨、銅貨と同じっぽいな。


多分、銅、銀、金の順に価値が高くなっているのだろう。


しかし、チップだけで稼げるんだな。前に路上ライブをしているのを見たけど、こんなに大量にはなってなかったはず......


『これは、受け取れません。貴方のショーなので、このチップは返します』


「いや!違う!これは君が受け取らなければならない。私のショーだとしても君が素晴らしいと認めた観客がチップをくれたのだから....」


何故、引き下がらない......


どうするか....そうだ!


『では、これは2人のショーということで2人で分けましょう』


「そうか。君がそう言うのだったら......」


そうして、ちょうど半分に分けてくれたが、さっき金貨を1枚多く入れているのを見た....


......仕方なく貰った。


「そういえば、まだ名前を言ってなかったね、私の名はガルデア・コードだ。ガルと呼んでくれて構わない」


『ありがとうございます、ガルさん』


「呼び捨てでいいんだけどな。....こちらこそありがとう!また会おう!!次に会う時は君の名前を教えて貰うよ」


『さようなら、また会いましょう』






名前か......


まぁ、そんな事より....良い人だったな。カッコよくて....。俺が女だったら惚れてるまであるぞ......


....そうだ!お金が貰えたんだ。お金を返しに行こう。

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