1章 異世界でも人と喋れない 〜その3〜







俺は左足が動かなくなって、倒れてしまった....


正しくは膝から下が全く動かない....。片足で立てばいいだろうと言う人がいるかもしれないが、いきなり動かなくなって、倒れたんだ。


結構、無理してたんだって、今思ったよ。


誰かに助けられたら....


その前に杖を......


「....君。大丈夫か?」


あっ、詰んだ。この状況をどう説明すれば......


「....立てるか?」


そう言って前屈みになって手を近くに出した人を見ると......めっちゃ美人だぁー!!


「....動けないのか?」


そう言われ、美人の手が俺の手を掴み......


一瞬で目の前が真っ暗になった。






——ここは、どこだ?真っ暗で何も見えないが......まさか、死んだ?


そんなことはないか。


いきなりここに来たが....何処だよ。


『聞こえる?この世界の神様だよ?』


聞き覚えのあるダミ声の女の声だが、すぐわかった。


この世界の神様だな?多分。


皆、同じ声ってことか。


『....何?ダミ声って。まぁいいや、そんなこと。えー、さっきのは瞬間移動の特殊魔法だから、気にするな。そして、ここは気絶した人がたまにくる場所だ。そして——』


ちょっと待て!いきなり何言ってんの?


『....3回しか質問に答えないよ?』


いや、そう言うこと言ってんじゃねーんだよ!正しくは考えているだけだけど......


『何だよ、早くしてよ。次の人が待ってるんだから』


....じゃあ、俺の世界と時間の感覚とか、一緒なのか?


『そうだけど....もっと面白い質問してよー、つまんないなー』


何だ?いきなり俺はここに来て、この世界の神様は質問を3回しか答えられないからって、大事な質問出来る権利を根絶やしに——


『君はそろそろ起きる時間だよー』


おい、逃げるな、!このダミ声女ー!次会ったらぶ——






気がつくと左足の痛みは消えていて、一枚の紙を美人な人は渡して来た......


「....これ、ツケでいいから。あとで払ってね」


ん?


赤ポーション500エン宿泊費50エン。


....まぁ、日本円ではないんだろうな、似てるけど。


赤ポーションというもので治してくれたのか....便利だな。


俺はいつの間にか一日経って、寝ていたらしい。


今は昼頃か....


時計みたいなものがあり、12:40ぐらいを指している。


ここは、雑貨屋マーリンという所で色々な物が置いてある....


とりあえず、美人の人には感謝しなくては......


「あぁ。そこにミルクとパンあるから....食ったら早く家に帰って金を....」


飯まで出してくれるなんて....どこまで優しいんだ!俺は1日飯を食べてないから、パンだけでも今は食べられるだけで感謝で涙が......


そうだ!バレないように近くにあったペンを真似して、影で創造して、紙の裏に....


よし、そしてこれを......


「......何やってんの?....ん?」


俺は喋れないので、 感謝を伝える為にどうすればいいか考えた結果——






前の世界にいた時の俺は、人と話せないなりに、努力をしていた....


教室では薄井という苗字で一番右の端の席を勝ち取り、席替えも毎回くじ引きで端っこを引き当てられる。


俺は、運だけはあったんだ。


そんな俺だが、一番危機感を感じた言葉、それは......


『皆、2人組作ってー』


その一言で、世界が崩壊するといっても過言ではない。


話すことのできない俺にとってその一言は、呪いの言葉だった......


でも、小学校の時は——


「あれ、1人足りない......」


「先生ー、3人でやっていいですかー?」


「はい、いいですよー」


「......」


『....先生とやろっか』


女神がいたので、小学校の時はなんとか呪いから抜け出せたが、あの時の後ろの女子....阿部は絶対に許しはしない!


俺をいなかったことにしやがって......


そんな過去はどうでもよく、呪いは再び中学の時に起きてしまった——


『はい、今回は協力して2人組で授業を行います』


(どうしよう....中学生にもなって先生と一緒になんてやってたら、俺がイジメられるかもしれない!どうすれば......そうだ——)






そう!この時に生み出したのが、薄井流奥義....今こそ使う時!!


『ありがとうございます』


紙にそう書いて渡した......


この薄井流奥義は文字を書くというだけなので、後で


「ちゃんと喋れや」


とか、言われそうでデメリットが大きいからあまり使いたくない奥義なのさ。


まぁ、デメリットなんて考えてはいけないのかもな。


何もしないでこの家を出るのもまた違うと思ったので、奥義を使ったが......


「金返してから言いなよ......」


そうだった、お金、どうしよう。とりあえず外に出てから考えようか....


その前に飯を——






飯を食べてから、喋れないので礼をして、外に出た。


色々思う所はあるが、あの美人の人は優しくて良かった......


ドアを開け、周りを見ると、異世界に来たと感じるような光景だった。


所々、俺の想像通りだったりするが....文明が似ているのか?


人間だよな....どうみても。


というか、まずはお金を稼ぐことから始めないと......


紙があれば、薄井流奥義を使えるのだが、紙はお金がないと....


どうすれば......


ん?なんか少し騒がしいな....


行く当てもないし、行ってみようか......






「はい、次は....何も入っていない箱がここにあります。そこから......3....2....1....はい!....何も入ってなかった箱からポーションが出てきました〜!」


「おぉ〜」


なんだ?広場みたいな所で、マジックショーみたいなものをやっているのか......


魔法のショーでマジックショーなのか?


まぁ、どうでもいいか。


騒がしかったのは、この歓声と拍手か....。でも、ショーでいっぱい人が来てるな......


「....あぁ。次は君の番か、よろしく」


ん?なんで俺が呼ばれてるんだ?というかよく見つけられたな。端っこにいたのに......


影の薄い俺が......まさか!この世界では、影が薄くないのか?


そんな訳ないな、観客にはさっきまで見つからず、今の人の一言で皆気づいたもんな!そうだよな!!


見つけられた人は間違え探しが得意だったんだな......


いや、そもそも俺じゃなくて違う人を呼んでたんだ。何で俺、そんな勘違いしたんだろうな......


「あれ?やらないの?......早く早く!」


強引に押されて観客の目の前に来てしまった。


やっぱり俺を呼んでたのかよ....


どうしよう、何かしなきゃ。


なんでこんなことに......






とりあえず両手の手のひらを見せる。そして、右手に集中して影の創造の魔法陣を左手で隠して....そして、右手にさっきの雑貨屋で見た黒いペンを生み出す芸をしてみたが......


「....おお!!」


「今のどうやってやったの!?」


「すごい!!」


さっきのマジックショーとは比べ物にならないくらいの歓声と拍手が起こって、心の中でマジで?ただペン出しただけだよ?と思ったよ。


そしたら....


「君、すごいね。良かったら、うちのショーにも出てみない?」


みたいな人も来たりして、マジックショーは大盛り上がり。


逃げようにも逃げられない雰囲気によって様々な黒い物を生み出しまくってなんとか芸っぽく仕上げた。


影が薄いと言われた男が今の時間は、ショーのスターになっていた。


そして——






「....君。ちょっといいかい?」

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