1章 異世界でも人と喋れない

1章 異世界でも人と喋れない 〜その1〜






朝の時に起きるような目覚めで、異世界なんてやっぱり嘘だったんだと思ったが......


目の前に木があって、雑草の上で横になっていた。俺は、流石に動揺した。


ここは....森?周りに木がいっぱいあるからそう思っただけだけど......


本当に異世界に....来ちゃったんだ......


....記憶は残っているし、体も何にも変わっていない。異世界転移という感じかな?


まぁ、左手にあったバッグは思った通り無くなっていたが、そんな事どうでもよく、パジャマのままこの世界に来ているということが予想外だった。


だって普通に服とか異世界風に変えてくれると思ってたんだよ!


....とりあえず落ち着こう。






——ここは異世界だ、それは確信している。


何故なら、最初に見た木がいきなり動き出して、今逃げ回っている最中だからだ。


体育の成績は普通だったが、まともに運動してないし、どうしよう。このままだと、追いつかれる......


能力の使い方も分からないから戦うにも......


そうだ、あれをやるしかない!


「すぅ〜、はぁ〜、すぅ〜、はぁ〜」


「誰かぁーーーー!助けてくれぇーーーー!」


この世界に来て一番....いや、生まれて初めてこんな大声を出したよ。


まぁ、こんな森の中に人なんているわけが......


しかも、俺1人だったら声を出せるが、誰かが来てもどうせ話せないんだよな......


「....あっ、痛っ!足が......」


左足を動いている木が、木の根を使って攻撃してきた....


しかも、膝が能力かなんかで変な色をしている。


すぐには動けないな。


もう俺の異世界の人生は終わりか....


友達1人ぐらい、作りたかったなぁ〜。






「いや......まだ....だ......」


こんな序盤で死んでたまるか!


俺は友達を作りたいんだ......


神様が言っていた能力を使ってやる!透明化?出来るなら今したいよ!透明になって、逃げたいよ!


でも、この足じゃキツいな。透明化はダメだ、なら......


「......頼む!頼むよ!出てくれ....影の創造!出てくれよ!」


その瞬間に右手に力が溜まっていくような、今なら倒せそうな力を手にした気がした。


「....これなら!」


木が突っ込んできた所を狙って一発かましてやる....!


「俺はここで死ぬ訳にはいかないんだぁーー!!」


木が俺に向かって襲いかかって来る瞬間、木は俺の右手に触れて、黒っぽい何かと一緒に吹き飛んだ......


「......ん?これ、やばくね?」


周りの木々も倒れて、地形が半壊....。よし、逃げよう。バレないように!


まぁ、無理なんだけど......


それよりなんでこんな力が?黒っぽい何かが見えた気がするが、それが影の創造の能力ってことなのか?


......今はそんなことどうでもいいんだ。左足をどうしようか考えよう。さっきからなんか変な感じがする。


影の創造にしか、今は頼れない!


「もう一度....俺に力を!」


今度はさっきの時より集中し、何か左足を楽に動かせるようにするものがないか、考えてみる。


右手には、魔法陣のようなものが浮き出てきて、そこから想像した物が、創造できるようだ......


いや、ダジャレじゃないからね?






「出来てはいるが......なんか全部黒いから、墨汁を浸した半紙みたい......」


創造したものは全部黒くなるらしい。包帯を想像して右手に力を集中してみたが、能力は右手で発動することができるのか。


さっきの力も多分、自分の右手に力が集中して影の創造が力を創造して、黒いものと一緒に木を吹き飛ばしたということか......


これ、強過ぎないか?






....少し痛みが軽くなった気がするな。適当に巻いたが、何とかなるものだな。


しかし、影が薄いから....友達がいないからって、こんな強過ぎる能力を使って俺に何をさせる気なの?世界征服でもしろと?


いや、今は冗談でも本当に出来そうだと思っている自分がいる......






しばらく、適当に歩いて街や村などを探していたが、足の怪我は、どんどん痛みが強くなっている気がする....


多分、あの木の根の能力が強いんだな......


「歩行杖....みたいなの......作れるかな......?」


右手に集中し、想像をしてみたが......






まぁ、歩行杖に見えるだろうという形状だが、異世界は、魔法杖とかあるのかな?


......どうでもいいか。


俺は杖をついて、お爺ちゃんみたいになりながらも歩き続けた。


とりあえず、森を出たい訳なんだが......

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