第4話
彼の背中が見えなくなってから、私は、ゆっくりと立ち上がって、しばらくぼんやりとしていた。やっと、私の闘いはおわったんだと、思った。
ずっとそのままにしてあった、彼の写真をまとめたフォルダ。やっと消せる、晴れ晴れとした気持ちでそれを開いて、そして、
泣き崩れた。
嘘だ。全部嘘だ。彼が憎いのも彼が嫌いだと言ったのも楽しいふりをしていたのも。嘘なんだ。気がつきたくなかった。私はあんなやつに恋したりなんかしないと思いたかった。でも、そうじゃない。私は彼が本当に好きだった。笑ったときのえくぼも甘いものが好きなところもお喋りなところも女の子に優しいところもひんやりとした手も歩き方のくせも全部、大好きだった。彼に自分の話をあまりしなかったのは嫌われるのが怖かったからだ。それに私は、彼の話を聞くのが好きだった。横から見る彼の笑顔が私の幸せだった。全部、全部知っていたけれど、認めなかった。認められなかった。そうしないと崩れてしまうから。自尊心が強いのは、彼女じゃなくて私の方だ。復讐だなんて笑わせてくれる。私はもう一度彼とデートがしたかったのだ。恋人だった頃のように、彼を独り占めしたかっただけなのだ。彼への復讐なら彼女に見せつける必要なんてない。私の、ジェラシーだ。おわったのは闘いなんかじゃなく、ただの、恋だ。夕暮れの浜辺で、私は泣いた。私に認めてもらえなかった私の恋のおわりに、ただただ涙を注いだ。波が、繰り返し、私のとっておきのスカートの裾をぬらしていた。
太陽が、海に沈んでいく。
海が太陽を呑み込むとき きゆ @uyik_kaoru
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