第26話 怒りの刃
「脱出しろ! ハデロ! グレース!」
ショウゴの命令にも従えないほどに、グレースとハデロの体は脱力し、2人とも膝を地につけた。
「くっ! ち、力が入らん・・・!」
グレースは自身の手に持っていたブレイクソードの重量すら持ち上げられぬ程に、力を持っていかれていた。
「く、クソ! ユニットを兵舎に戻せねば!!! そして代わりに・・・」
「させないである!!!」
ドッ!!
「な!? マル・・・」
慌ててハデロとグレースを兵舎へ戻そうとしたショウゴの軍師の書を、突如近くの地面から飛び出てきたマルポロが蹴り飛ばし、本は暗がりに消えた。
「き、貴様!! ショウゴ様を殺させはせん!!」
グレースは僅かな力を振り絞って剣を持ち、マルポロに向かっていった。
「ま、待てグレース!!」
ショウゴの制止も虚しく、グレースはマルポロに弱々しく剣を振り下ろした。
「お主は相当な手練れであったが、軍師殿の術にかかってしまえば、取るに足らぬ赤子同然である!! 覚悟!!!」
マルポロは左足を軸に、鮮やかに回転してグレースの振り下ろしを躱し、そのまま横薙ぎでグレースの腹を斬り抜いた。
「があああああ!!! この力・・・先程とは・・・違・・・何故そんなに・・・」
グレースは何か言いかけながら倒れ、その頭上にCTと表示された後、それはすぐLOSTの文字に変わった。
「勝負あったな。ショウゴ」
「な!?」
マルポロが出てきた穴から、咲人とヘンリーが出てきた。
「生きて・・・いるだと!? 何故だ!! ありえん!!」
「ところがどっこい、あり得るんだよ。ヘンリーにここの古塔を細工させといたんだ。発火床や落石はブラフで、本命は地下へ掘った脱出路だ。籠城になった場合、1番手取り早い攻略法は城ごと破壊することだからな。貴様らが金光を3回引いたという情報から、この崩れやすい古塔なら簡単に破壊できるユニットを持ってるだろうと推察したんだ。そして貴様はまんまと、俺を倒したと油断して、奇襲にかかってくれた」
「ひ、ひどいっスよ旦那ァ!! 俺はもう用済みだからとっとと死ねだなんて嘘ついて!! 俺信じちゃったし!!」
ヘンリーは顔をグニャグニャに崩してまくし立てた。
「そうでも言わないと、軍師の書のアイコンで嘘がバレるんだよ。まぁ、こんなところでお前の簡単に裏切る人間性が役に立つとは思わなかったけどな」
咲人は薄く笑みを浮かべた。
「龍宮寺・・・! この状況は一体なんだ・・・!! どんな魔法を使ってこいつらをここまで脱力させた!!! 貴様の手持ちに魔導ユニットなどいないだろう!!!」
ショウゴは不可解なこの状況に憤り、怒号のように質問を咲人にぶつけた。
「フ、教えてやるか。お前が地獄の閻魔に持っていく冥土の土産としてな」
*
1日前
「よく来たな、龍宮寺。あれから無事のようで何よりだ」
「ああ、例の物を受け取りに来ました。モーゼルさん」
昨日の息抜きデーの午前中、俺はこっそりとチャロ村を訪れて、モーゼルさんと会っていた。ある目的の為に。
例の如く、モーゼルさんの自室をカーテンで閉め切って、繊維の隙間から漏れる光が薄暗く照らした空間で俺たちは向き合っていた。
「うむ。まず、これが衰生の魔導符だ。衝エネルギーを魔力錬成して発動する」
「衝エネルギー?」
俺は不明な用語に首を傾げた。
「衝エネルギーとは、すなわち発された力、衝撃のことだ。例えばガラスのコップを床に落とした際に、コップは粉々に割れる。その割れた時に生じたエネルギーが衝エネルギーだ」
「なるほどな」
「話を続けよう。この魔導符の効果は「生命力の低減」だ。力はその剛さを失い、装はそのしなやかさを失う。錬成する衝エネルギーが大きければ大きいほど、その効果は絶大なものとなる。だが今しがた例えたコップ程の衝エネルギーだと、せいぜい利き手小指の握力を半分奪えるくらいだろう。実用レベルで使うのであれば、もっと大きなエネルギーがいる」
「大きなエネルギー・・・か」
*
「古塔が崩落する時の莫大なエネルギーを使ったのか!! 魔導錬成に!!!」
「ドロリィが巨人を錬成した際、貴様は真っ先に逃げることを提案した。つまり多少の利益を捨ててでも、貴様は確実性の高い選択肢を選ぶ傾向にあると確信したんだ。だからこの作戦を思いついた。ハデロが爆炎核を使ってくれたおかげで、崩落のエネルギーに更に上乗せされ、結果的に魔導符を最大出力で発動できた。感謝するぜ・・・なぁ、ショウゴ」
「待て・・・! 龍宮寺、貴様は宿屋にいた時点ではアイテムは何も持っていなかったはずだ・・・! 貴様の部屋に入る前に確認したんだから間違いない・・・!」
「そんなことを俺が見越さないとでも思ったのか? フレンドに預けといたんだよ。逃げている最中に受け取ったんだ」
「答えになっていないな。貴様の救難信号は管理者のガキに貰ったアイテムで封じたはず・・・! そもそもお前の動けるフレンドは南條鈴莉しかいない。あの女がこの街にいないことは確認済みだ。なのにどうやって受け取った・・・!?」
「・・・あいつは本来は直接会わないと受け取れないアイテムを、遠隔で渡してきたんだよ。俺たちと同様、あの管理者のガキの力でな。まぁ、何も言っていないのにあのタイミングで送ってきたことには驚いたがな・・・。お陰で命拾いしたのが癪に触るぜ、全く」
「・・・だがグレースと違い、マルポロとハデロのレアリティ差は歴然だということを忘れるなよ!! たかがアイテム1つで逆転できるほど、☆の数は飾りじゃないことを教えてやろう・・・! ハデロ!!」
確かに、ハデロはグレースとは異なり、デーモンギガアックスを持てなくなる程の脱力はしていなかった。つまり、ハデロのこの上なく高い力のステータスを下げ切ることは、護符の最大出力でもできなかったということだ。
「うぬら人間如きの道具で、この魔人族の王ハデロを制することなどできぬ・・・。身の程を教えてくれよう。来るがいい、人間の子供よ」
ハデロは左手人差し指をチョイチョイと動かし、マルポロにかかってこいと挑発を入れた。
「お前は結奈殿の仇!! 我が怒りの刃を受けるである!!」
「ぬぅん!!!」
ハデロがデーモンギガアックスを一振りすると、辺り一面に爆炎核がばら撒かれた。
「ヘンリー!!! 退避するぞ!!!」
「ひいいぃいいい!! あいよ〜!!!」
俺とヘンリーは爆炎核の届かない範囲まで走った。マルポロに対ハデロの作戦は伝えてある。後は彼女が上手くやってくれることを祈るだけだ。
ドドドドドドドドドドォオ!!!
散らばった爆炎核は次々と爆発して、辺りを煙で包み込んだ。だが、爆発の威力は護符の効果でかなり抑えられている。
「この程度であるか!! 魔人王!!!」
マルポロは爆発する範囲を見極めて、爆炎核の間をすり抜け、ハデロの目前に迫った。
「ハデロ!!! 攻撃を受けろ!!!」
軍師の書を失ったショウゴは、直接叫んで命令をした。
☆2と☆4では基本的に、ステータスにかなりの開きがある。例え☆2側が有利属性とは言え、それが何とか通用するのはせいぜい☆3まで。レアリティが2つも違えば、低レア側がタイマンで勝つのは不可能に近い。
ショウゴの見立ては恐らくこうだ。衰生の護符のデバフ込みでも、ハデロはマルポロの攻撃を1度は耐えることができる。重装ユニットであるハデロは受撃反殺が使えるので、受けた隙にマルポロに確実に攻撃を当てることができるのだ。デーモンギガアックスで斬られた者は、それがどんなかすり傷であっても、傷口に爆炎核を付着させられ、その爆発で確殺される。要するにハデロは攻撃を当てれば勝ちなのだ。それにマルポロ得意のクリティカル攻撃は、鎧により防ぐことができるので事故はほぼない。
「だが、原作を超やり込んだ俺が、そんな簡単なことに気づかないとでも思ったか・・・! ショウゴ!」
「これが・・・我が怒りの刃ッ!!!」
マルポロはあえてスピードを捨て、全身のの力を剣先に乗せて横薙ぎを放った。
「愚かな・・・! 急所も狙わずに我を斬れるとでも・・・!!」
ザッ!!!!!
激しい剣圧で、風が揺れる。・・・驚くべきことに、小さな少女の横薙ぎで、巨大な体躯の魔人王ハデロの体は、無残にも真っ二つに斬り裂かれた。
「「ハァアアアアアア!!!!!!」」
ザシュザシュザシュザシュザシュ!!!!!
マルポロは怒涛の連撃を放った。縦横無尽に斬り放たれた刃は、ハデロの断末魔も許さぬ程に、一瞬にしてその体を4、8、16、32・・・・・およそ100以上の肉片に変えた。禍々しい返り血が、少女の白肌を赤黒く染めていく。
「今・・・一矢報いたぞ、結奈」
バラバラに散らばったハデロの肉片はLOSTの表示の後、瘴気の塵となって消えた。
「闘神の護符・・・。俺がモーゼルさんから受け取ったもう1つのアイテムだ。この護符を使われた者の力は闘神の如き力を手に入れる。今のマルポロの攻撃力は☆4相当だ・・・!!」
俺は己の勝利を確信し、空を見上げた。祝福のように星々が輝き、月光の光が俺をスポットライトのように照らした。
「・・・! 旦那ッ! ショウゴの奴がいねぇ!!」
「何!?」
ヘンリーの一声で、俺は咄嗟に辺りを見回した。・・・そんな、ショウゴの姿が・・・ない!?
「・・・落ち着け、そんなに遠くには」
ズバッ!!!
「うああああ!!!!!」
「マルポロ!!!」
夜の闇の中から、鋭くしなる槍の一閃が飛び出て、マルポロの横腹を削いだ。
「テイル・・・スピア!? まさか!!」
攻撃があった方角に、俺はその目を向けた。カチャリ、カチャリと鎧の音が聞こえ、やがて1人の少女が姿を現した。
「覚悟せよ。マルポロ殿」
「そ・・・んな!? ネア・・・殿・・・!? どうして・・・!!」
第26章 「怒りの刃」
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