第16話 操命の錬金術師

「旦那ァ!!! おマル!!! 俺の手握って思いっきり目ぇ瞑れ!!! そんで息も止めろ!!!」


 盗賊に包囲され、為すすべのない状況の中、俺は思考を挟むことなく反射的にヘンリーの言葉に従った。


「オラァ!!! ヘンリー様お手製のヘンリーボムだ!!! くらえてめぇら!!!」


 ボン!!!!!!


 破裂音がした瞬間、ヘンリーは俺とマルポロの手を取って走り出し、俺たちもそれに引っ張られる形で足を動かした。


「うげっ! ゴホッゴホッ!! な、なんだこりゃ!? 目が!! 目が痛えええええええ!!!」


 こだまする盗賊たちの悲鳴で、ヘンリーが何をしたか俺は薄々理解できた。


「旦那、おマル。もう目ぇ開けて息してもいいぜ」


 少し足を走らせた後、ヘンリーがにやけた口を開いた。


「こ、この超無礼者!!! 拙者は幼児用携帯型便器ではないである!!!」


 マルポロが早速ヘンリーのおマル呼びに憤慨した。


「ヘンリー・・・、お前・・・」


「へっ、旦那。俺が裏切ったと思ったのかい? 言ったろ、裏切るなんてかっこ悪いマネ、できねぇって」


 ヘンリーは得意げに顔を上げ、鼻をこすった。


「フ、ほんとによく言うな。裏切って俺達についたくせに。だが、助かった。ありがとな、ヘンリー」


「いいってことよ! 拾ってもらったこの命、旦那の為に使わせてもらうぜ!! それがこのヘンリーって不器用な男が貫く馬鹿なポリシーよ!」


「しかし、一体どうやってあの状況を切り抜けたんだ?」


「あぁ、俺様手作りのヘンリーボムで奴らのおめめをちょいと潰してあげたのよ。ま、あの程度の催涙ガスだと半日もすれば見えるようにはなるけどな。んで予め大臣室に繋がる廊下の入り口の場所さえ把握しとけば、目を閉じてても楽勝ってわけさ」


「なるほどな、どうりでピリピリするわけだ。でもよくそんなものが作れるな。ガス類武器なんて、普通難しいだろ。作るの」


「俺の生まれた家、猟師やっててさ。しかも仕掛け専門の罠師な。親父が俺に家業継がせる為に色々教えてくれてたんだけどよ・・・俺は継ぎたくなくて家出しちまって」


「なんで、継がなかったんだ?」


「俺は・・・動物が好きなんだよ。人間と違って、あいつら純粋に生きてんだ。そんなピュアな奴らをよ、身勝手な理由で殺せねぇ」


 ヘンリーはいつになく寂寥せきりょう感に溢れた顔を見せた。


「・・・・・・でも、肉は食うんだろ?」


「当ったりー! ・・・・・旦那、おマル。そろそろ大臣室だ。気をつけてくれ」


 俺たち3人は走るのをやめて、足音を殺しながら歩いた。薄暗く、冷え切った空気の流れる廊下の先に見えるのは禍々しい髑髏のデザインが施された鉄の扉。


 俺たちは扉の前で立ち止まり、顔を合わせた。


「ここがその部屋だ。だが、中に2人がいる確証はない・・・。もっとヤバいパターンだと、5人くらい出待ちの奴らが構えてて、入った瞬間袋叩きって可能性も・・・」


 ヘンリーは急に弱気になり、顔色を青くした。


「少し待つである」


 マルポロはそう言うと、扉に耳を当てて静かに目を閉じた。


「・・・・・・大丈夫。中にいるのは2人である。その他の気配は・・・恐らくないである」


「よし、マルポロの言葉を信じよう。敵の位置どりはわかるか?」


「扉の手前に大きな体格の人間が1人・・・・・・もう1人は奥側で・・・ヒールの足音のようなものが聞こえるから多分女性である」


「ま、間違いねえ。手前にいるのがジンギャで、奥がドロリィだ。で、どうやって攻めるんだ旦那」


 ヘンリーの問いかけの後、俺は少し黙って頭を回した。位置どりが分かれば奇襲も成功する可能性が高い。だがこれはあくまでも見立てで、推測の域を出ていない。予期せぬ事態も十分起こり得る。もうふたつ・・・いやひとつでいい、こちらに有利な情報が欲しい。


「ヘンリー、ジンギャの苦手な戦い方・・・単刀直入に弱点みたいなものは知ってるか?」


「ジンギャの弱点か・・・。奴は扱う武器柄、魔法系の攻撃に対応しきれねぇがここにいる3人は魔法が使えねぇし・・・」


 ヘンリーはそのまま黙り込んでしまった。やはり、弱点などそうそう分かりやすくあるわけないか。何より時間がない。一応近接の三竦みの有利はこちらにあるし、位置どりがずれてしまう前に踏み込まねば・・・!


「あ! そういえばジンギャは右肩の付け根に古傷があって、よくそこをさすったり冷やしたりしてたな。もしかしたら古傷を何か硬いもので・・・例えば剣の柄とかで思いっきり殴れば、気絶させられるかもしれないぜ」


「・・・右肩だな。オーケー、そこを狙っていこう。ドロリィの方は、恐らく魔導の詠唱中ですぐには手が出せないはずだ。マルポロ、頼んだぞ」


「右肩であるな、承知したである!」


 マルポロは親指を立てて了承した。


「作戦は至ってシンプルだ。ヘンリーが扉を蹴開けて、それと同時にマルポロが突入して、ジンギャの右肩の古傷を殴って気絶させる。その間ヘンリーは詠唱中のドロリィを拘束してチェックメイトだ。所要時間は5秒、気を引き締めていけ」


「じゃあ、行くぜ! オラァ!!!!」


 ヘンリーは掛け声と共に勢いよく扉を蹴開けた。ドゴン! という音と共に開かれた扉からマルポロが素早く侵入する。


「な、なんだ!? く、クソ!!! 奴らしくじりやがったか!!!」


 うろたえるジンギャの隙を見て、マルポロは剣を持つグリップの形を変え、柄を立てて右に回り込み、右肩の付け根を殴打した。


「ッ! このクソガキ!!!」


「!!!」


 ガァン!!!!!!!


 部屋全体が揺れるような激しい衝撃が響いた。振り下ろされたガイアアックスは床に小さなクレーターを形成して、その威力を物語る。


「き、傷に当たっていないであるか!?」


 間一髪でガイアアックスを躱したマルポロは、剣を持った右手以外の手足を地に広げて迎撃の態勢を取っている。


「あ、古傷左だったかも」


「馬鹿野郎!!!!!!」


 俺はヘンリーに対して、これ以上ない純度の馬鹿野郎をぶつけた。


 ジンギャは振り下ろしたガイアアックスを再び肩に上げ、マルポロに向かってのしのしと力強く歩き始めた。


「舐めた真似してくれるじゃねぇか。てめぇらぶっ殺しにいった連中がどうなったのかは気になるが・・・それについてはそこの裏切り者を処刑する時に聞くとするか。とりあえず、ガキ。まずはてめぇをスクラップにしてやる」


「・・・・・・かかってこいである!!!」


「ウラァ!!! 俺の実家の果樹園でブドウジュース作る時みてーにグジュグジュに潰してや、ウッ!!!??」


 マルポロに対してガイアアックスを振りかぶったジンギャが、突然声を上げて倒れた。握力の抜けた手から離れたガイアアックスは、地に伏したジンギャの上にのしかかり、完全に動きを封じた。


「・・・・・・て、敵を欺くにはまず味方からって言うだろ? おマルがしくじることを見越して、最初から俺がこうやって確実に古傷を攻撃しようと思ってたんだよ」


 ダガーの柄の部分を突き出し、やや苦味のある笑い顔をヘンリーは作った。ヘンリーがジンギャの左肩の古傷を突いて倒したようだ。


「ぎ、逆にピンチになったであるよ!! この役立たず!! お前なんか嫌いである!!!」


 マルポロは信用されなかった悔しさと、ピンチに陥った恐怖心から、顔を鬼のように赤くしてヘンリーに怒り散らした。


「馬鹿!! お前達まだ戦闘中だぞ!!! 早くドロリィを」


 俺が2人を叱咤している最中、ボン!!! という破裂音が耳を突いた。直後ヘンリーは部屋の壁まで吹っ飛び、体を叩きつけられて目を回し倒れた。


「へ、ヘンリー!!!」


「おふふふふふふふふふ♪ 褒めてあげるわ。ここまで到達したチャロ村の刺客は、貴方達が初めてよ。だ・け・ど♡ もう終わりなの。大いなる叡智の母、操命の錬金術師であるこのドロリィ様を相手に、凡百な兵が幾ら束となろうと、所詮は無駄なこと・・・」


 コツコツと高いヒールの音を響かせ、奥の暗がりから自身の指を1本ずつ丁寧にペロリペロリと舐め回しながら、ドロリィが姿を現した。


「貴様がドロリィか。しかし、今しがたヘンリーを吹っ飛ばした魔導から見て、半透明の魔物を錬成する術を解いたのは明白。魔導の同時詠唱は概念レベルで不可能だからな」


 俺は熟知しているシリーズ共通のゲーム内設定をしたり顔で披露した。


「迂闊だったな、俺たちの仲間がすぐにでもここに来るぞ。凡百な兵と罵るのは勝手だが、この戦の結果はドロリィ・・・お前の負けだ」


「おふふ♪ 残念なのは貴方の楽観的な頭の方よ。正門にいたお仲間は今全て始末させてもらったわ。私の子供達はもう攻撃をやめたの。攻撃をする必要がなくなった、つまり死んだのよ。これまでやって来た刺客と同様にね」


「なんだと・・・!?」


 俺は急ぎ軍師の書を構築して、マップの味方アイコンを確認した。


 ッ!? ・・・これは!


「見たところ貴方は軍師みたいねぇ。となると、そちらの小さな女の子が私と戦う人かしら。・・・いいわ、可愛がってあげましょう♪」


「くっ! 皆の仇!! 打たせてもらうである!!」


 マルポロは両足を深く曲げて地面を蹴り、飛び上がった。


「おふふふふ♪ 猪突猛進な攻撃、おもしろくないわぁ♪ ・・・!?」


 攻撃に移るかと思われたが、マルポロは天井付近で態勢を逆さにして、そのまま飛び上がった時と同じ要領で天井を蹴り、凄まじい速度でドロリィの足元に降りて虚をつき、弧を描くように剣を振った。


「ドロリィ、覚悟である!!!」


 ドロリィのくびれた横腹に刃が入り、間を置かず無慈悲に振り抜かれた。


 すぐに血飛沫が辺りに飛び・・・散らない!?


「そんな!?手応えがないである!」


 マルポロが愕然とドロリィを見上げると、彼女はその顔を不敵な笑みで見下ろした。斬られたはずの横腹には血どころか、傷ひとつついていない。


「くぅ!」


 マルポロは剣を立てて、得意の突き攻撃を繰り出した。正確に心臓の位置に素早く剣を刺し入れた。


「無駄よ。いくら攻撃しても、私に刃は届かない」


 ドロリィに刺し入れた剣の刃は、その肌を傷つけないよう、まるで避けるかのように湾曲して、その本来の形を失っていた。


「なっ!?」


 マルポロはバックステップで急ぎドロリィのそばを離れた。ふと目を横に向けると、湾曲していた剣は元の形に戻っていた。


「その剣に命を与えたの。だから母親は私で、剣は子供。慈愛に満ちた母である私を、その子は殺せないのね。おふふ♪」


 ドロリィはマルポロに向けて素早く手をかざし、唱えた。


「ギルバイド・アジェイク」


「うぐっ!?」


 マルポロは産まれたての子鹿のように足をよろめかせながら膝をつき、その場にへたり込んだ。


「どう? 身体が重くて立てないでしょ? 実際は身体が重くなったんじゃなくて、貴方の筋力が失われただけなんだけどね」


 ドロリィは、ガクガクと体を震わせへたり込む、抵抗不能のマルポロにゆっくりと歩み寄り、身を屈ませて顔を至近距離に持ってきた。


「震えているのは、身体が重いせいだけじゃないようね・・・。怖いのかしら」


 ドロリィはマルポロの首筋をゆっくりと舌でなぞり始めた。ちゅっ・・・ちゅっ・・・と舌が触れる音が聞こえる。


「あっ・・・! んぅっ・・・!!」


 マルポロは声を震わせ、顔を桃色に染めた。言い様のない舌の感触にひたすら悶えている。


「しっとりと甘酸っぱい、けど少し苦味の混ざった味ね。気丈に怖気付くまいと強がってはいるけれど、身体は私との力の差を理解している・・・」


「はぁっ・・・!」


 耳元で囁くドロリィの言葉に、マルポロはビクンと短く身体を震わせて、肩で息をし始めた。


「・・・はい、1回目。怖がらなくてもいいのよ。貴方はこれから私のものになるの。大いなる研究の糧となり、新たな錬金学の礎にね。とっても光栄なことよ・・・そんな軍師に仕えているよりもよっぽど・・・ね?」


 ガチャアアアン!!!!!


 俺は近くに転がっていた酒瓶を手に取り、思いっきり地面に叩きつけた。当然の如く、酒瓶は高い音を立てて粉々に砕け散った。


「あら? そんなに自分の可愛い子猫ちゃんが取られるのが悔しかったのかしら? でも安心しなさい、貴方もこの子と一緒に私の人形にしてあげるから♪」


 ドロリィはもはや余裕しかない笑いを浮かべていた。










 【驕れる者久しからず、ただ春の夜の夢の如し】











「・・・ドロリィよ、俺の生まれた国にはこんな言葉がある」


 俺はドロリィを見ず、ややうつむき気味に軍師の書に目を向けて呟いた。


「ご生憎様・・・これは夢ではないのよ。下を向いてないで現実を直視したらどう?」


「・・・この言葉の意味は、驕りきった今のお前のような人間の天下は、春の夜に見る夢のように儚く、朧なものだというらしい。」


「おふふふ♪ そういうことね。世の無常、必衰を現したいい言葉じゃないの♪ でも、今使う言葉ではないわ。この状況、どこがどう当てはまるというのかしら?」


 俺はニヤリと口角を上げ、そしてドロリィを上げた顔から見下ろす目でまっすぐ捉えた。


「いいや、ピッタリさ。たった今、この瞬間より凋落ちょうらくしてゆく、お前にピッタリの言葉だ!!!」











 ドガシャアアアン!!!!!!!!










「な!? なんの音!?」


 ドロリィが扉に顔を向けた直後、彼女の身体に鞭状となったテイルスピアが一瞬にして巻きつき、その自由を奪った。


「そ、そんな!? なぜ生きているの!?」


 ハンマーナイトが壊した扉から、ショウゴさんと結奈が入ってきた。


「無事か!? サッキー!!」


「先輩!!!」


 2人は俺の姿を視認するや否や、一目散に駆け寄り、無事を喜んだ。


「・・・教えてやろうドロリィ。俺は、お前の錬金魔導の弱点を見抜いていたんだ。」


「わ、私の・・・イリュージョン・ドールの弱点・・・ですって!?」


「僕が説明しよう。あの半透明の魔物が探知し、攻撃する対象にはいくつか法則がある。これはサッキ―が立てた仮説だが、ひとつは錬成した本人であるドロリィ、君が直接見たことがない人間のみを攻撃する。盗賊たちに魔物の被害が及ばないようにするには、錬成した本人の視覚的記憶に頼るのがいちばん簡単なんだ(現にゲームでは、そういった説明がなされた錬成魔導が登場している)。ふたつめは、対象が出した音の振動が、あの半透明のジェルのような魔物の身体に伝わり、その振動を頼りに音の発信源を攻撃している。だから最初に魔物が出現した時、真っ先に攻撃されたのが大きな悲鳴を上げた結奈ちゃんだった。そして見立て通り、僕たちが身動きひとつせずに息を潜めると魔物達は攻撃をやめ、消えた。そのタイミングで古城内に踏み込んだわけさ。」


「そして俺は、お前に悟られぬよう軍師の書のメール交信機能を使ってショウゴさんからそのことを教えてもらった。あとは、マップの味方アイコンがこちらに迫ってきたタイミングで酒瓶を割り、音で位置と無事を知らせたんだ。その合図の意味をメールで伝えてな。ホッとしたぜ、仮説が外れていれば呆気なく全滅もあり得た危険な賭けだったからな」


 ドロリィは一転して、顔を般若の面のように歪ませ、ギリギリと歯を噛み合わせながら鋭く俺を睨みつけた。


「で、でも私は貴方の侵入を見抜いて、男達を向かわせたはずよ。どうやって貴方はここに来ることができたの!?」


「フ、それが俺の今回唯一の誤算だった。俺は裏をかいたつもりが、ヘンリーの裏切りをあんたは分かっていて、逆に侵入経路をあの地下道に絞らせたんだ。だが、俺はどうも悪運は強い方らしくてね。裏切ったヘンリーが罠師だったおかげで催涙ガスを使って助かったんだよ」


「そういうことね・・・おふ・・・・・・おふふ・・・・・・おふふふふふ♪」


 ドロリィは突然、奇怪な笑いを零し始めた。


「な、何・・・・・・この人・・・」


 結奈はその不気味な雰囲気に身を引いた。


「ざ〜んねん♪ 貴方達がダラダラとおしゃべりを重ねている間に、魔導の詠唱が終わってしまいました♪」


「ッ!? 黙唱もくしょう! 高度な技術わざを!!」


 ネアは瞬時に身構えた。


「さぁ! おやりなさい!!! 私の可愛い子!!!!!」


「くっ!! またしても錬成魔導か!!」


 ネアは腰に差していたナイフを逆手で抜き、ドロリィの魔導器である左耳にぶら下がっていたイヤリングを素早く破壊した。


「もう、遅いわ!!!」


 部屋の中央に魔力の禍々しい渦が集中し、立っている床のバランスを歪ませた。魔力の渦はやがて漆黒の球体となり、ドロリィを包みこんで膨張を始めた。


「き、危険だ!!みんな、ここから逃げるぞ!!!」


 俺たちはショウゴさんを先頭に、部屋を出て正門へと急いで走った。古城内はグラグラと地震が起きているような揺れを続け、段々と崩れていった。動けない2人、マルポロをネアが、ヘンリーはハンマーナイトがおぶった。


 外に出て振り返ると、漆黒の球体は天井を突き破り、なおも膨張を続けていた。


 やがて膨張が収まると、今度は球体から手足や頭のようなものが生え出し、しばらく蠢いた後、先程の魔物とは打って変わって完全に人型となった。全長20メートルはあるであろう漆黒の巨人が姿を現し、顔には歪にひとつだけ付いたギョロギョロと動く巨大な目玉と、心臓部にはドロリィが磔にされた態勢で埋め込まれていた。











「「ウオオオオオオオォォオオ!!!」」












 漆黒の巨人は不自然なほどに正確な円形の口を開き、そこから大きく雄叫びを上げた。辺りの草木が揺れ、耳の中にビリビリと轟音の波が伝わり、俺は堪えきれず耳を塞いだ。


「どうやって倒すんですかあんな化け物!! もう逃げるしかないですって!!」


「駄目だ!! 歩幅が違いすぎてすぐに追いつかれてしまうよ!! クソ! 盗賊退治のはずが、とんだモンスターを相手することになってしまった!!」


「ショウゴさん! 結奈! 落ち着いて行動するんだ! 俺が指示を出す!! 落ち着いてその通りにユニットを動かしてくれ!!」


 正直この事態は予想の範囲を遥かに超えている。敵のスペック次第では勝算なんてないかもしれない。ラスボスに辿り着けずゲームオーバー、普段何気なくプレイしているゲームでは至極当たり前なことでも、リセットボタンの存在しないこのゲームにおいては、決してあってはならない。


 だから・・・そう、だからこそ言おう。敢えてではない。普通のゲームをしている時と同様、俺が貫く譲れない信念を。











 リセットボタンは、決して押さない・・・!











 第16章 「操命の錬金術師」

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