第10話 無課金軍師の生存率

 眠気はあるものの、なぜか眠れない。


 そんなこんなで3時間が経過し、牧田は宿直室の窓から、昇る朝陽をぼんやり眺めながら煙草をふかしている。


 龍宮寺咲人、南條鈴莉の二人の生徒が忽然と姿を消して一晩が明けた。


 あの後、家にも連絡を入れたみたが、2人とも帰っていないという。校内を隈なく探しても痕跡の1つさえ見つからない。手がかりは2人が操作していたスマホの画面が突然発光し、消えたという生徒達の信じられないような目撃証言のみ。


「そんなフィクションみたいな出来事があってたまるかよ。俺は幽霊も信じてなけりゃ、グレイやタコ型エイリアンもいないと思ってるんだ」


 牧田は煙草を灰皿に擦り付けて消火する。チュンチュンと囀る雀の声を乗せて、皐月の明け方を告げる風が部屋を吹き抜ける。


 警察に事情を説明したところ、とんでもないことを聞かされた。どうも全国的に同じような事象で消えている人がたくさんいるらしい。


 消えた人々が直前に行っていたのは、共通してスマートフォンのゲームアプリ。エレメントクライシスとかいうゲームらしい。事件は瞬く間に全国ニュースで取り上げられ、当然運営会社にも緊急で事情聴取が行われたが、運営は「なぜこのような事態が起こっているのか、こちらとしても分からない」の一点張りだ。そもそもスマホで人を消すという事象自体が、科学的に前例を見ない不可解であること、つまりは解明のしようがないのだ。


 奇妙な点は他にもある。アプリで遊んでいた人間全員が消えたわけではないのだ。校内でも、エレメントクライシスのアプリをプレイしていた生徒は結構な数いたが、消えたのは龍宮寺と南條のみ。消えた人間の方が少数らしい。


「何か法則がありそうだな。消えた人間の共通点・・・か」


 俺は再び煙草を取り出し、ジッポライターで火を点ける。メンソールを含んだキーンと刺激のある煙が喉を通り、肺を回って鼻から吹き出る。


「南條と龍宮寺の共通点・・・。なんだろうな・・・ん? そういえばあいつら、いつも体育を気怠そうにやってたな・・・。まさか!」


 自分の中で全てのピースが嵌った。これだ・・・! これに間違いない!


「あいつら体育が嫌いなんだ! つまり体育が嫌いな奴が、ゲームばかりしてるから罰として【体育の神】に消されてるのでは・・・!」


 保健体育一筋20年、性教育授業でのセクハラ発言疑惑をでっち上げられ、PTA裁判にかけられたこともあったが、なんとか乗り越えて良い体育教師の体裁を保ってきたが・・・この牧田弦之助・・・一生の不覚だ・・・!

 

 そして牧田は罪悪感を抱えたまま深い眠りに落ち、1限の授業に遅刻した。












「☆5だー!!!!! ☆5が出たぞー!!!!!!」


 扉の前はこれまでにない異様な盛り上がりを見せている。


 ここまで実に134人が、1人11連の召喚を終え、排出された☆2以上のユニットが2人。そして未だ☆5は1体も出ていないという状況での虹光、☆5確定演出だ。


「と、扉が開くぞー!! 静かにしろ!」


 一転辺りはシーン・・・と静寂に包まれる。未だ見ぬ☆5ユニットの登場に、皆息を呑んでいる。


 扉がゴゴゴゴとゆっくり音を立てて開いたと同時に俺は驚愕した。


「あ・・・あれは・・・フリードル!!!」


 黒いロングコートにいくつもの勲章が下げたれたインナー、左頬に刻まれた血涙のタトゥー、脇に刺した細身の剣が異様なオーラを放っている。その厳かな装いの、赤髪で長身の男が横に一本角の漆黒に染まる大きな馬を連れて静かに立っていた。ユニット名はフリードル、「EC6〜女霊めりょうのバラッド〜」の主人公の1人であり、その強さは文句なしで☆5の風格だ。兵種はダークユニコーンナイトで、持ち武器は作中最強武器である覇剣ドラゴニク。そしてその横には・・・。


「な、南條!!!!!????」


 俺は驚きを喉に詰まらせ、言葉を失った。☆5を引いたのはあかの他人などではなく、南條・・・あの南條鈴莉だった。


 南條は頬を赤く染めて、嬉しさと驚きをミキサーにかけてぐちゃぐちゃに混ぜた様な顔をしていた。


「もう皆さん気づいていらっしゃると思いますから言いますね〜♪ ☆5ユニット獲得おめでとうございまぁす! ☆」


 デュリエットは祝福と言わんばかりに拍手を鳴らした。


「わわわわ〜! ありがとうございます! ほんとに! 私! フリードルが! 全ECシリーズの中で! 1番の推しなんですぅ!!」


 南條は歓喜の涙を流しながらフリードルの腕に抱きつき、デュリエットに感謝する。南條の大きな胸がフリードルの腕に当たり、むにゅっと変形している。それに対してフリードルは無味無臭無言の表情だ。貧乳派なのだろうか。


「ソレハヨカッタデスネー♪」


 デュリエットはニッコリと微笑み、そして何を思ったのか、パタパタと羽を揺らしてフリードルに近づき、触れようとした。











 ガキイィィン!!!!











 突如、鋭い金属音が鳴り響き、風圧で辺りがズズンと揺れた。俺はこの瞬間何が起こったのかわからなかった。見落としたのか、或いは事が速すぎて見えなかったのか・・・恐らく後者だ。


 フリードルが剣を抜いて、その刃でデュリエットに斬りかかった。デュリエットは攻撃を長方型の光のバリアのようなもので受け止めている。結果から見るとあの一瞬はそのような運びだろう。横の南條は何が起こったのか分からず、地面にお尻を付けて唖然としていた。


「魔物か・・・或いは悪霊か・・・、貴様にはとてつもなく邪悪な気配を感じる・・・。気安く触れないでもらおうか」


 フリードルは鋭くデュリエットを睨みつけた。


「こぉれは失礼しました〜♪ ヴァレンスト大陸史上最も語り継がれる伝説の救世主にして、悪名高き一夜王のフリードルさん♡」


 これは大変な事だ。先ほどの巨漢男の様にデュリエットに対して危害を加えてしまった場合、重いペナルティを課せられる上、攻撃したユニットは排除されてしまう・・・!! いくら☆5ユニットとはいえ、レベルも何も上げてない状態だ・・・。そもそもレベルを上げたところでデュリエットに敵うのだろうか?


 辺りに緊張の糸が張ったまま、場に静寂が流れる。


「ちょっと、貴方の気に触れてみたかっただけなんですよぉ〜♪ ごめんなさいね〜♪ フリードルさん♪ なんだか貴方と私、似ている様な気がしましてね・・・♪」


 デュリエットはこれまでにない程の不気味な笑みを浮かべた。


「今回はプレイヤーの命令じゃありませんし、そもそも私の不用意が発端ですから♪ ペナルティーはありませんので、あーんしんしてくーださーい☆」


 デュリエットは舌を出してウィンクし、ピースを作った右手を頬に当て、いつもの陽気な顔に戻った。


「ではでは! 召喚もまだ途中なので〜♪ 次のか」


 デュリエットが言い終える前に、ドッと足音を立て、鬼気とした人々が南條の前に殺到する。


「ぜひフレンドに! フレンドになってくれ!」


「俺も俺も!!」


「私も!!!」


 ☆5を持っている南條をフレンドにつける事で、生存率は圧倒的に上がる上に、ゲーム攻略の難易度もかなり緩和される。それにたった今フリードルの恐るべき剣圧を目の当たりにして、その絶対的な強さと安心感を手にしたいのは至極当たり前の考えだ。ネームドキャラの出にくさを考えれば尚更に・・・。一方の南條の身の危険は一気に跳ね上がることになるが・・・。


「わわー!! ちょっ、ちょっと待ってください! 順番に! 順番にぃ〜〜〜!!!」


 南條の悲鳴は少し続いたが、やがて聞こえなくなった。






                   *






「はぁ〜」


 木製の椅子に腰掛け、銀のコップに注がれた少し甘い香りの漂うミルクコーヒーを前に、俺は一人ため息をつく。天井に吊るされたいくつものランプがゆらゆらと揺れ、酒場全体を薄黄色に染める。陽気な音楽に合わせて、際どい衣装を纏った踊り子達が楽しく踊る姿は、今の俺の心境とは全く対照的なものだった。


 酒場に併設されたクエストボードの前には数多のプレイヤーが並び、混雑を極めている。それを傍目に俺は軍師の書を開き、ヘルプ項目のゲーム概要と睨めっこだ。現状それしかすることがない。


「いよいよゲーム本編が開始されたというのに、手持ちのユニットは3人。☆2の非力な少女剣士と、☆1のランスナイトの女、☆1のハンマーナイトのおっさんだけだ」


 俺はユニット維持費についての項目を再読する。


「まさかここまで金が重要なファクターになってるとはなぁ」






                   





 ユニットを所有する場合、その兵数とレアリティに応じて、1日置きに維持費が発生する。


☆1 10エル

☆2 30エル

☆3 50エル

☆4 70エル

☆5 100エル


 支払いが一度でも滞った場合、ペナルティとして現在の所持金で賄える金額のユニット以外、レアリティの低いユニットから強制的に送還される。






                  *






「さぁ〜て♪ これにて、ここにいるプレイヤーの召喚が全て終わりました〜♪ 皆さまお疲れ様でした〜♪」


 実に半日は経過しただろうか、258人のプレイヤー全てが召喚を終えるのには、かなりの時間を要した。辺りはすっかり暗くなり、夜空には満月が輝いている。


 結局この召喚で☆2以上のユニットを引いたのは、俺と出禁を食らった巨漢男と南條の3人だけ。他の人は全員白光で、昇格が起こっていなければ☆1のはずだ。


 「もう夜なんですけど〜☆ これからゲームの開始にあたって基本的なことだけ説明させていただきますね〜♪」


「まず、この世界では専用の通貨がございまして〜、名前を【エル】と言います♪ ここにいるプレイヤーの方々は日本人だけだと思いますので〜、日本円で価値を比較させていただきますと大体1エル=100円ですね〜♪ なので、1エルでも全然食べ物とか買えちゃいますよ〜♪ 不味いですけど」


 デュリエットはクルリと身を回した。


「では☆ 皆様にはまず500エルずつ支給いたしまぁす♪ お手持ちの軍師の書の、所持エル項目をご覧くださーい☆」


 プレイヤーの手元に一斉に軍師の書が構築され、開かれると基本情報という画面が表示され、その中の所持エルという欄に500の文字が書かれた。


「エルを獲得する手段はたくさんございまして〜♪ 主にはフィールドに出現するモンスターを倒したり、ユニットを送還したり、アイテムを売ったり、ダンジョンで拾ったり、あとはクエスト報酬での入手ですね〜♪あ、戦闘で負けると減っちゃいますけど」


「クエスト・・・?」


 RPGなどでは、もはや定番要素である依頼システムを咄嗟に思い浮かべた。これが主軸のゲームは、所謂いわゆるお使いゲーと呼ばれ、プレイが作業になりがちだ。俺はあまり好かない。


「クエストは皆さんのご想像の通り、この世界にはたくさん困っている方がいらっしゃいまして〜、その辺の主婦や子供から、果ては国家まで様々な規模の依頼、クエストがございます♪ その人たちを助けることで、報酬としてアイテムやエルを獲得することができるのです♪」


 やはりそういうシステムか、と頷く。だが、クエストゲーはゲームの進行として基本メインクエスト、サブクエストに分かれているはずだ。そもそもこのゲームにはクリア条件、エンディングは存在するのだろうか。そしてゲームクリアすれば現実に帰れるのだろうか・・・。


「質問です、デュリエットさん。このゲームにはゲームクリアの必須条件となるメインクエストは存在するのですか? また、ゲームクリアをする事で元の世界に帰れるのでしょうか?」


 1人目に召喚を行った、小太りの中年男が手を挙げて、丁度気になっていた事を尋ねた。


「ふふふ、やはりそこは気になりますよね〜♪ 残念ながらこのゲームにはメインクエストと呼ばれるようなクリアの道筋は存在しません♪」


「え!?」


「ですが」


 デュリエットは呼吸を置き、じっとプレイヤー達を見つめる。


「ゲームのクリア条件は存在します♪ そしてそのクリア条件を満たせば、仰る通り現実に帰る事、いいえそれ以上のことが叶います♪」


「して、そのクリア条件とは・・・!?」


 中年男が間を置かず質問する。


「ふふふ♪」


 デュリエットは相変わらずの不気味な笑みを浮かべ、口を開く。


「言えるわけないじゃないですか〜♪ 寧ろクリア条件が存在する事自体が最大のヒントですよ〜♪ ただ、進めていけば必ず解るはずですよ♪ 」










「このゲームの、本当の意味にね・・・」











 ゾクッと、背筋が凍るような感覚を覚える。今のデュリエットの一言が、何かとてつもない恐怖を孕んでいるような、そう直感させた。


「それではいよいよゲーム本編開始と行きましょうか〜♪ クエストはここ、王都エンジェリアの各酒場に併設されたクエストボードか、都市部中央にございますクエスト斡旋所、また困っている人を見つけて直接受注することができま〜す♪ ただし!難易度の高いクエストにはそれ相応の実力が要求されることもありまして〜♪ 主に斡旋所で貼り出されている、依頼主が貴族や国家レベルのクエストを受ける際は、斡旋所の受注基準審査をクリアしなければいけません。要するに〜♪ 身の丈に合った仕事を選べということでーすね♡」


「おい、召喚してる時から気になっていたんだが・・・」


 黒い革のロングコートの男が人を掻き分け前に出る。


「また貴方ですか〜、質問が多い男は女の子に嫌われちゃいまーすよ♡」


「召喚石を金で買うことは可能なのか? その、エルとやらと引き換えに」


 先程突っかかってきたこともあり、奴のことは嫌いだが、思わずなるほど、と思ってしまった。


 確かにこのゲームがアプリ基準なら課金要素の一環で召喚石の購入は当然あるはずだ。現実の貨幣が使えないこの世界では、俺も無課金プレイをしなくて済むので都合が良い。


「それにつきましては、今から言及しようと思ってたんですけど〜♪ ピンポー☆ 半分正解で〜す♪ 半分正解だからピンポーンじゃなくて、ピンポー☆なんですよ? わかります?」


「貴様の下らないおふざけに興味はない。なにが間違っているのか、さっさと詳細を話せ」


 ロングコートの男は眉間にしわを寄せ、憤った。


「もぉ〜、そんなに怒らなくても話しますよぉ♪ そんなことだから、今の今までコウノトリさんいない歴=年齢なんですよ、28歳独身童貞の宝条華黒光ほうじょうけくろみつさん♡」


「ッ! よ、余計なことを言うな!!」


 ロングコートの男は柄になく焦っている。宝条華黒光・・・意外なところで名前と年齢、そして少し共感できる一面が知れたな。


「召喚石の購入は可能です♪ ですが、エルでの購入はできません。使う貨幣は・・・。」











「現実のお金です。」











「!?」


 ここに来て最大級の衝撃が身を駆ける。

 現実の金を使うって・・・金のない俺は、無課金プレイをしなきゃいけないのか!? 自分の命が危ぶまれるこのゲームで!? しかも生命線を担うユニット召喚に・・・あの絞りに絞った確率に対して・・・!


「現実の金だと? どうやって課金するんだ。財布は手元にないぞ」


 宝条華も困惑の面を見せる。


「皆さんの現実のクレジット情報はこちらで把握しておりますので〜、購入→即引き落としで資産が尽きるまで石の購入は可能ですよ〜♪ あ、資産が尽きても〜、カード会社や銀行に借金できる環境がある方は、購入できますけどね〜♪」


 俺は絶望のあまり両膝をついた。


 いくら当たり確率が渋いとはいえ、試行回数を重ねればレアは必ず出る。財力のある大人であれば、虹の召喚石を何個も購入して、110連を引きまくれば手持ちを揃えることは容易なはずだ。今回の召喚から見ても、258人のプレイヤー全ての召喚回数を合算して実に2838回・・・内排出された☆2以上は3体だから少なくとも1000回に一回は☆2以上は出るはずだ。石の価格にもよるが、アプリで1000連しようと思ったら約30万円だ。石の価格もアプリ基準であれば、並みの財力のある大人なら、糸目をつけなければレアユニットを数体は引けるはず。そうなれば、無課金との差は歴然としたものになる・・・!


「いいだろう。因みに召喚石は1個いくらだ?」


 やはり金はあるのか、宝条華は余裕ありげな様子だった。


「召喚石は1つ、5000円です♪」


「なに!?」


 あまりの法外な価格設定に、周囲から驚愕の声が上がった。


「赤の召喚石・・・だよな?」


「いえ、青ですよ♪ 召喚一回につき5000円ってことでーすね♪」


 デュリエットは広げた手のひらを頬に当て、舌を出して笑った。


「「ふざけるなー!!! なんだその無茶苦茶な価格設定はー!!! ぼったくりだろうがー!!」」


 プレイヤーから不満の声が次々と上がる。アプリの召喚石が1個500円だから、単純に10倍だ。アプリの方でさえ、リリース前に高いと騒がれたのに、確率を絞った上、値上げでは堪ったものではない。


 だが、それは課金プレイヤーの心情だ。俺のような無課金プレイヤーにとっては、かえって有利になる。召喚の試行回数が減ることにより差が埋まり、更には確率も渋ければ単純に引きの強さだけで優劣が決まる。そうなれば無課金軍師の生存率も、少しは上がるというわけだ。


「ほんとになぁんにも考えてないんですね〜、貴方達は」


 デュリエットはいつになく深刻な面持ちで口を開いた。その意外な態度に、罵声を飛ばしていたプレイヤー達も閉口した。


「いいですか? この召喚は、貴方達が普段ゲームで行なっているような、ランダムで電子データを受け取るだけのチャチなものじゃないんですよ?」


「れっきとした生命いのちを召喚するんです。貴方達がいつも、ゴミ、カス、使えない、クソキャラ、産廃、オワコン、そうやって罵り、貶し、傷つけているユニットもこのゲームでは人としての感情を持って出てくるんです。1つの生命を召喚するのに、5000円なんて安いものですよ。貴方達は自分の生命をお金で計れますか? 口ではいくら強がりを言えても心では決して計れていないはず、違いますか?」


 辺りは月明かりの僅から光に当てられた静寂な空間と化していた。生命の価値、重み、この召喚には想像以上の責任が伴うことを皆が自覚し始めていた。


「あと補足ですが、先程も話した通りネームドキャラは誰かが所持している状態では召喚されませんので、アプリ版のように同じキャラを重ねて限界突破♪ なーんてありきたりな要素はありませんよー☆ では♪ この後は召喚石の購入希望者は引き続き召喚を、購入されない方は、基本的にこの神殿周辺は召喚される方のみが立ち入れる場所となっておりますので、速やかにご退場をお願いします♪ 残ってたらペナルティーですよ☆」


 ペナルティーを恐れて、俺は足早に神殿を去った。同じく神殿を出る者は何名かいたが、殆どのプレイヤーが神殿に残っていた。今立ち去るのは十中八九無課金プレイヤーだけだろう。いくらあの法外な価格設定とはいえ、命懸けのゲームだ。持てる金の分は引いて当たり前だ。


 俺は夜の閑散とした、街外れにある広場のベンチに腰掛けた。そばの街灯には数匹の蛾が集り、その姿はまるで僅かな希望の光にすがろうとしている俺たちプレイヤーのようだ。


「さて、これからどうするか。お腹も空いたし、飯でも・・・ん?」


 シュイイイイイイン


 突然軍師の書が構築され、開く。浮かんだ表示にはユニット維持費の支払い画面が表示されていた。






                   *






 俺は軍師の書を閉じて、2エルのミルクコーヒーを口に含む。これは今日の晩御飯だ。


「近くの宿を取ろうにも一泊50エル。今後のことも考えて、手持ちは相性補完できる3人に絞ったものの・・・やはり心許ない。つーか魔法系ユニットが敵にいたらヤバイなこれ」


 手持ちの500エルに対して、ユニット維持費が初回で引いた11人合わせて130エルはかなり痛い。収入源もままならない状態で、金が底をつき手持ちのユニット全てを失えば本末転倒だ。☆1ひとりの送還につき100エル入手できるので、必要最低限のユニットだけを残して、後は送還した。これで節約をすれば暫くは持つだろうが、直近の課題は金の工面だ。


「フィールドには魔物が出現するらしいからそこでユニットのレベル上げを行うのもありか。しかし、効率としてはクエストと並行して行った方がいいだろうな。気は進まないが、南條に協力してもらうのもいいかもしれない。あとはログインボーナスで貰える石を貯めてユニットを・・・」











「君、昼の召喚で金光引いてた、龍宮寺咲人君だよね?」











「!」


 突然名前を呼ばれ、慌てて声の主に視線を向ける。


 嫌な予感がする・・・。まさか、もう俺のユニットを狙いに来たのか・・・!?











 第10章 「無課金軍師の生存率」

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