第9話 サンライト・エクスプロージョン
「マ、マルポロ・・・」
「軍師殿! また軍師殿のお役に立てると思うと、拙者は嬉しいである!」
嬉しげな表情を浮かべてマルポロは両手を握る。それに対し俺は気の抜けた様子で呆然と立ち尽くしていた。
「そ、そうだマルポロ! お前さっき王国騎士と戦ったこと覚えてるよな? あの後世界が崩れてなくなったが、どこに行ってたんだ?」
俺はひとまず我に帰り、気になっていたユニット側の状況に関して尋ねた。
「ううん・・・、よく覚えてないである。あの後気を失ったように意識が落ちて・・・、気がついたら軍師殿の拝命のお声が聞こえてここにいるである。わ、わかりづらくて非常に申し訳ないである!」
マルポロは咄嗟に頭を下げる。こいつも何が何だかわからないままここにいるんだな。
「もしも〜し聞こえてますかぁ〜♪」
「うお!」「うわ!」
突然軍師の書からデュリエットのビジョンが出現し、話しかけてきた。俺とマルポロは反射的に身構える。
「後がつかえてますんで〜、召喚が終わりましたらお早めの退室をお願いしまぁす♪」
「あ、あぁ」
「では軍師殿、拙者は兵舎に戻るである」
そう言うとマルポロは、フッと先程の光となり、軍師の書に飛び込んだ。
「な、なるほど。1人目の人が言ってたユニットは軍師の書に登録されて、出し入れ自由ってのはこの機能のことか」
俺は軍師の書を消し、一息ついた。
「よし、長居は無用だ。しかし厄介なのはこれからだな・・・」
俺は階段を降り、扉の前に立った。すると扉はひとりでに開き始め、外の様子が露わになる。
外は先ほどとは明らかに違った雰囲気だった。数人が出待ちして、引いたユニットに関して質問していたのが、今回はほぼ全員が静かに俺の方を向いている。
「金の光が漏れたが・・・引いたのか? ☆2以上のユニットを」
最初に召喚石に関しての質問を投げた、革のロングコートの男が前に出て尋ねてくる。
「あぁ、引いたよ」
引いたこと自体は隠していても仕方がない。初めて金光が出たことに関しては、下手な憶測をさせるよりも正直に言って納得させた方が良いと判断した。問題はここからだが・・・。
「ほう、それでなんのキャラを引いたんだ?」
予想通りの質問が飛んできた。
引いたキャラを周知されることでのデメリットは主に2つある。1つは自軍の戦力情報が漏れること、もう1つはそのキャラが欲しい他プレイヤーに狙われることだ。マルポロは比較的弱いキャラではあるが、召喚の☆2以上の排出率の低さと、それでいて☆2程度のユニットしか揃っていない軍師であれば、徒党を組めばなんとかなる戦力なので、攻められやすくなるということだ。
だが仮にここで☆4を引いたと嘘をついて、攻撃への抑止力にするのも躊躇われる。☆4ユニットを所持しているというのも、それはそれで危険と見なされ、マークされる可能性がある。そうなれば動きづらい上、嘘がバレた時の攻撃がかなりネックだ。
「言えないな。自軍の情報を公に開示して、得られるメリットが俺にはないだろう」
言わないこともまた、相手を逆撫でし、猜疑心を抱かせる原因になり得るが、他に手の打ちようがない。とりあえず濁して身を隠すのが最善だろう。
「そうか、ならいい。お前の名前は・・・」
革のコートの男は軍師の書を構築し、開くと少し操作して頷いた。
「龍宮寺咲人か。お前は要注意だな」
ッ! 軍師の書で名前が見れるのか!
「お前が言わずとも、後で俺自らの手で暴露させてやるよ。お前を丸裸にな」
男は軍師の書を閉じ、俺を睨みつけた。
「フッ、勝手にしろ」
俺はそう言い残し、早足で近くの茂みに入った。木の根元に座り込み、肩を落として項垂れた。
「クソ! よりによって最悪の展開を迎えてしまった・・・」
多くのプレイヤーが見ている前で、それも1番最初に金光を引いて、出たのが☆2のマルポロ。目立った上にそんなに強いユニットを引いたわけでもない。当然のマークを受けることは必至。これならオール☆1の方が遥かにマシだ。
もはや倫太郎さんや南條にも会いたくない。他プレイヤーが全て俺を狙う敵であるような錯覚を覚え、俺は茂みに身を潜める。
「怯えてる場合じゃない。俺自身も逆に他のプレイヤーの召喚結果を見なければ・・・!」
60人目、70人目、100人目・・・。俺以降のプレイヤーが次々とユニットを召喚していくが、あれから金光はまだ出ていない。
「やはり、かなりの超低確率・・・。なんで俺の時に出てくるんだよ」
自身の運のなさを改めて痛感する。リセマラ召喚150回ハマりの運のなさから来るのは、決して11連オール☆1などではない。寧ろそれは運が良いことに、召喚前の俺は気づいていなかった。
「つくづく運に見放されてるな・・・ん?」
悲観にくれてボーっと眺めていた扉から漏れる光が金色に輝いていることに気づく。俺は数回瞬きをして、改めて凝視する。確かに金色の光が漏れている。必然と扉の前は人々が群がり始めた。
「口を滑らせる可能性もあるかもしれない。プレイヤー名も一緒に確認しに行こう」
俺はコソコソと扉の前の人集りに紛れ、ゴゴゴゴと開き出す扉の前で、自分の時と同じく皆と静かに引いたプレイヤーを待つ。
「ふはははははは!」
笑いを上げ、扉から出てきたプレイヤーは黒い半袖のジャケットに、頭にスカーフを巻いた巨漢の男であった。ジャケットの下の上半身は丸裸で、鍛えられた胸筋と腹筋が露わになっており、腰には鎖をジャラジャラと下げている。そしてその後ろには、巨漢男よりももうひと回りも大きな、全身至極色の紫に染まった衣を身に纏った不気味な男が佇んでいた。
「あ、あれは【EC10〜集いし希望の詩〜】で出てきた邪竜王ゼルギアス! 人竜族と呼ばれる奴の兵種は竜に姿を変えることが可能であり、竜に変身した奴の専用ブレスである【地獄の豪炎】は高火力な上に周囲にデバフを撒く効果も付いていて、多くのプレイヤーを苦しめたと言われる・・・。現に俺も高難易度攻略では奴に苦戦させられた。奴は敵専用ユニットかつ作中では終盤のボスキャラだからかなりの高ステータスだ。レアリティも当然☆4か・・・?」
「デュリエット! この召喚は☆2以上になると歴代のECキャラが出るみたいだな!」
巨漢男はデュリエットを見下ろす。
「そうですよぉ〜♪ 詳しく言えば、☆2以上はネームドキャラといって、この世界では唯一無二の存在です♪ なので、他の方が既に所持しているネームドキャラは、そのユニットがLOSTするか、持ってる軍師様があの世に行かれるまでは召喚から出てくることはありませ〜ん♪」
「なに!?」
今の言葉でプレイヤー達に衝撃が走り、皆声を上げた。
ネームドキャラが被らないということは、もしそのユニットを手に入れたい場合、所持しているプレイヤーから奪うか、或いはユニットがLOSTするのを待つか、自らユニットをLOSTさせに行くか、最悪所持プレイヤーを殺して召喚するしかない。まさにプレイヤー間の争いを仕向けるような・・・そんなシステム・・・!
「ということは、いきなり☆4の邪竜王を引いた俺は多くのプレイヤーから命を狙われるというわけだ・・・面白い!」
巨漢男はゴツい口元にニヤリと笑みを浮かべた。
「見せしめにデュリエット・・・。てめぇをぶち殺してやるよ。やれ! ゼルギアス!」
「むうううううん!!」
ゼルギアスが全身に力を溜めると、みるみると体が巨大な竜へと変化していく。黒光りする鱗に包まれたその身体の大きさは希望の神殿と同程度に膨れ上がり、プレイヤー達は一斉に悲鳴をあげ逃げ出した。
「デュリエットを殺すだと!? なに考えてるんだ!」
俺も近くの茂みまで退避し、様子を伺う。
実際生きているとはいえ、あくまでゲームのキャラで、しかも管理者を殺すなんて発想は無謀そのものだ。だが、デュリエットのあの小さな身体で巨大な邪竜を倒せるかと考えると甚だ疑問である。
「あちゃ〜。普通私に対して攻撃します? 余程頭が悪いと思われますね〜。」
「うるせえ! さっきからてめぇはおちょくってばっかでムカついてたんだよ! おらぁ!! 【地獄の豪炎】で消し炭になれや!」
ゴオオオオオオオオオ!!!!!!
こんな業火に焼かれて助かるはずがない・・・!!
黒煙が辺りを旋回し、次の瞬間フッと散開した。焦げ臭さと目にしみる煙に耐えながら、神殿前を見ると、そこには腰を抜かしてガタガタと震える巨漢男と、それを無傷で笑い、見下ろすデュリエットがいた。
「ほぉ〜んとに、
「て、てめぇ・・・あ、あの攻撃でなんで無事なんだよ・・・! なんで無傷でいられるんだよ・・・!! 化け物か!!!!」
巨漢男は焦りと恐怖で見るも無様な姿を晒している。
「仮にも天使であり、
「では、ペナルティを執行しまぁす♪ その前に♡ 私のターンがまだでしたね〜♪」
デュリエットはゼルギアスに対して手のひらを広げ、構えた。
「サンライト・エクスプロージョン【裁きの光砲】」
デュリエットが唱えた瞬間、眩い光が辺りを包み、直後に凄まじい爆音を轟かせた。俺はその眩しさに堪えきれず目を両手で覆う。
光がおさまり、再び視界が開ける。その先には無残にも腹部に大きな風穴が空き、頭上にLOSTと表示された邪竜王が音を立てて倒れてゆくのが見えた。
「あ、あぁ・・・」
口元をガクガクと震わせ、巨漢男は涙を流している。
「では☆ 貴方にはペナルティとしてログインボーナスの無期限配信停止と、希望の神殿への出入り禁止を言い渡しまぁす♪そう悲観することはないですよぉ♪召喚所は他にもありますからね〜♪ 辿り着けたらの話ですけど♡」
デュリエットは周りを一瞥すると「えい!」と手を叩いた。すると、先ほどのブレスで焼け焦げていた辺りが光に包まれ、次の瞬間元通りに草木が生え揃っていた。
「さ! 召喚を再開しーましょ♪ ってもう次の人入ってますねぇ♪」
神殿の扉は既に閉じられていた。
「今の今まで身を震わせるような状況だったにも関わらず神経の太いやつだな・・・」
すぐに神殿の扉から召喚の光が漏れ出した。
「・・・・・・これは?・・!!」
俺は自分の目を疑った。目をこすり、もう一度確認する。まさか、いやこれは・・・俺の目が先ほどの煙でおかしくなっていなければ、間違いない。
今・・・神殿の扉から漏れている光の色は・・・・間違いなく虹色だ・・・!
第9章 「サンライト・エクスプロージョン」
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