最終話 私が奇妙な村で学んだ大切なこと
私は地下の暗い監獄にぶち込まれました。
食事は一日朝と晩の二回、風呂には週一回入ることが許されました。地下の監獄の環境は劣悪でした。
私は近くにあった石ころで壁を削って、一週間かけて『良』という字を完成させました。
何故『良』を書いたかというと監獄に入れられてから何日経ったかを記録するためです。
『良』は七画の感じなので丁度良かったし、日曜日に字が出来上がると通信簿の『良』を貰った気持ちになりました。
さて、聴き手の皆様の中には何故私が殺されなかったか不思議に思う方がいるかもしれません。その理由をお話しましょう。ガードレールから転落した私は記憶を完全に失っていました。そこへ偶然あの初老の男性が通りかかって保護してくれたのです。彼は良心的な人物で余所者を殺そうなどとは考えない人でした。彼のお陰で私は一命を取り留めたのです。次に、村を脱走しようとした私が何故生かされたかというと、村人が私の知識を欲したからです。T大学の理工学出身の私は物理や数学の知識を活かして水車や簡易的な電池の作り方、計量の仕方などを教えてやりました。
私のお陰で村の文明レベルは格段に上がりました。私は裏切り者ですが村を発展させるためには欠かせない存在でした。そういうわけで私は今日まで生き延びたのです。
壁には『良』が五万一千百個書かれていました。監獄に入れられてから二十年程経ちました。時折面会に来てくれたあの初老の男性は亡くなりました。
ある日のことです。地下の監獄に繋がる階段をバタバタと降りてくる人がいました。私はその人の格好をどこかで見たことがあると思いました監獄が破られて、その人が近寄ってきた時、私はその人が警察官だと判りました。警察官に連れられて地下の監獄を出て久しぶりに太陽の光を浴びました。周りを見ると、大勢の警察官が村人達を逮捕していました
おお…!!遂に村人たちの悪行が白日の下に晒されたのです。私は歓喜しました。
それから数年経った私はこの奇妙なお話を伝えるために全国を歩き回るやうになりました。若い頃は自分を無価値な人間だと思っていましたが、あの村で生活したことで自分の価値を見出すことができました。
思い返せば村人達に嘘をつかれたことが有りませんでした。彼らは奇妙な計算に必死になったり余所者を倒すために小刀の使い方を学んでいました。彼らはいつも真剣でした。そして誰かに褒められなくても認められなくても生きていました。他人からの賞賛などは生きていく上で必須では無いのだと彼らから学びました。
私の話はこれで終わりで御座います。ご静聴有難うございました。
わ・か・ら・な・い 三國 富美郎 @mikuni-fumirou
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます