第6話 人殺し村からの脱走
獣の嫌な臭いがしました。私は悪臭のせいで目を覚ましました。辺りは薄暗く、居候先の家の人はまだ寝ているようでした。悪臭の原因を知りたくなって表へ出ました。辺りは薄暗かったけれど殺された獣が積み重なっていることがわかりました。
何故か私の居候している家の隣にそれがありました。村人達はこの悪臭が気にならないのでしょうか。私は不思議で堪りませんでした。
私が家へ帰ると初老の男性が立っていました。見たのか?と尋ねてきました。私は殺された獣のことを見たのか、と尋ねているのだと思いました。はい、見ました。というと初老の男性は無言で頷いて部屋に入って行きました。私は訳が判りませんでしたけれど、この村の暗黙の規則を破ってしまったのではないか不安になりました。
もう一眠りしてから学校へ行きました。昨日は血まみれだった彼らは別の着物を着ていました。先生は昨日の彼らを褒めていました。級友達が賞賛を受けているのに、私だけは何もしていないのでその場にいるのが苦痛でした。そうして一通り褒めると授業が始まりました。一時間目の授業は小刀の使い方についてでした。
生徒達は先生の振る鋭利な小刀が空を切るのを必死に見つめていました。
私は自然と密接なこの村では獣の倒し方を知っていないと駄目なんだなと思いました。そうして何とかして小刀を手に入れなくてはと思いました。彼らに遅れを取りたくなかったのです。
その日は一日中、小刀の使い方の授業でした。私は大いに勉強になりました。居候している家に帰るなり私は初老の男性にお願いして小刀を貰いました。これで級友達と野原を駆け抜けて獣を倒せると思うと胸が高鳴りました。まるで私はおもちゃを買って貰った子供のような気待ちでした。自室で小刀を見つめていると外からパチパチと何かが燃える音がしました。気になって外へ出ると、村人が昨日倒した獣を焼いていました。何十匹もの獣が真っ赤に燃え盛る炎の中にいました。私は獣の肉が食べたいと思いました。この村の食事は魚と野菜が基本で肉は滅多に出てきませんでした。しばらく炎を眺めていると、村人が私に歩み寄ってきました。ジェスチャーで肉を分けてくれることが分かりました。私は嬉しくなりましたが、一瞬で気持ちが変わりました。
串に刺さっていたのは獣の肉ではなくて、
『人間の肉』でした。
私は吐き気を催しました。嗚呼、なんて恐ろしい!!私は怖くなって、走ってその場を去りました。そうして彼らに抱いていた連帯感を消失しました。彼らは人殺しです。私は一気に村への憧憬とか感謝とかを捨てました。そうして無我夢中で走りました。辺りが暗くなる頃には私がガードレールから転落した場所に着きました。そこは村を囲う森を抜けた先にあって、数十メートル上には道路があります。この崖を登って警察に知らせようとしたのです。しかし崖には掴まる所が殆どなく登るのは難しいと判りました。けれど彼らの存在を警察に知らせなければ次の犠牲者が出るかもしれぬ。そう思って何度も崖に登ろうとしました。しかし私は馬鹿な過ちを犯してしまいました。必死に崖を登ろうとしていたせいで追っ手に気づかなかったのです。
裏切り者を捉えるため大勢の村人達が私を取り囲みました。私は弓矢で手を撃ち抜かれた所為で体勢を崩し、地面から三メートルくらいのところから転落しました。激しく体を打ち付けました。激痛の所為で身動きが取れずにいると村人に縄で縛られて連れて行かれてしまいました。
そういえば何故、以前ガードレールから落ちた私を彼らは殺さなかったのでしょうか。朦朧とした意識の中で急にそのことが気になりました。
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