第5話 小刀
キーンコーンカーンコーン。
夏休みが終わり学校が再開しました
相変わらず勉強は出来ませんが、学校の規則が分かったので以前よりも怒られることが少なくなりました。
その頃には彼らの言語を体得していたので、級友と雑談することが出来ました。
わからないことが無くなっていく。単純なことですけれど、恐怖はその度に薄れていくのだと思います。
放課後には農場の手伝いをしました。
私はこの村に留学しているのだと考えるようにしていました。そう考えたお陰で習慣の違いや言語の壁に戸惑うことは至極当たり前だと思うことができたのです。だから、上手くいかなくても執拗に自分を責めたり無価値な人間だと落胆する必要が無くなりました。以前の私とは全く違う人間になったのです。
ある日の午後のことです。突然、村に騒がしい鐘の音が響き渡りました。
その音を聞くなり、授業を受けていた生徒は鞄から小刀を取り出しました。私はこの音は外部からの侵入者とか獣が村へ降りてきたことを告げているのだと直覚致しました。
私も級友のように小刀を持ち出したかったのですけれど、生憎持ち合わせていませんでした。
あの夏祭り以降、私は彼らに連帯感を感じていました。彼らと一緒に勉強したり体を鍛えている時、私は宇宙と一体になった気がしました。天外孤独だった私が充足を得られるのは彼らと一緒に行動している時でした。ですから級友が小刀を持ち出したのに私一人持っていないのは非常に面目無いのです。恥ずかしいのです。先生の呼びかけに応じて生徒は次々と教室を出て行きました。私も彼らに続こうとしましたが、小刀を持っていないせいか先生に止めらてしまいました。
(嗚呼、彼らに対して申し訳ない。一緒に戦えないなんて恥ずかしい!)
私はこう思っていたのです。仕方なく彼らが帰ってくるまで教室で待機していることにしました。
夕方になると彼らは帰ってきました獣を倒すのに苦戦したのでしょう。彼らは返り血で服と顔を汚していました。その姿を見て私は、いよいよ彼らに申し訳ない、と思いました。そして獣を倒した達成感で興奮している級友達を見て疎外感を感じました。
翌朝、私は目を疑う光景を見るとはこの時は思いませんでした。
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