第2話 夏休み
まったくわけがわかりません。
初老の男性に連れられて学校に行き始めてから一ヶ月が経ったでしょうかしょうか。その頃には私は学校までの道のり(これが大分複雑なのです)を覚え、初老の男性の手を煩わせることがなくなりました。そして、彼らの話す独特な日本語も以前よりは聞き取れるようになりました。
授業の内容は相変わらず全く分からず苦戦していました。T大学を一等の成績で卒業したというのに、ここでは劣等生でした。私はこの辺境の村学校で、劣等生の気持ちを理解できました。級友(?)達は私を馬鹿扱いしてよくからかってきました。彼らの見た目は四十代くらいなのに、精神的には子供でした。
学校の授業はどれも苦痛でしたが、その中でも一番苦手だったのは体育でした。元々運動は得意ではないのですが、この学校では跳び箱二十段を平気で飛ばせたり、高さ10メートルくらいの鉄棒で前回りをさせられたりしました。恐ろしいことに彼はそれらを容易に行うのです。私は跳び箱に激突したらどうしよう、とか鉄棒から滑り落ちて頭を打ったら痛いだろうな、と思って体が竦みました。私は恥を捨て、先生に泣きついて体育を免除していただきました。
この学校では私は最悪の劣等生なのでした。
この変な村に来て間もない頃は不安で気が狂いそうになりましたが、今では大分落ち着きました。初老の男性の家に私は居候という形で住まわせてもらいました。彼らは風呂は一週間に二、三度しか入りません。
そのため、彼らからは悪臭が漂っていました。清潔好きな私には堪え難かったのですけれど我慢しました。
夏になると学校がお休みになりました。私はようやく休めると思って、小屋でぐぅぐぅ昼寝をしていました。
ある日のことです。朝四時くらいでしょうか。初老の男性が私を引っ張り出して、農場へ連れて行かれました。初老の男性は私に家畜の世話の仕方を教えてくれました。霧が立ち込める小さな農場には牛が五、六匹いました。私は初老の男性の言うことに従って牛の乳を絞ったり、牛舎の掃除をしました。そうして、明るくなってくると作業を終えていいと言われました。
「もう家に帰っていいんですか?」
「駄目だ。次は畑仕事がある。」
どうやら夏休みの間は、初老の男性の仕事の手伝いをしなければならないと判りました。
そういえば、この村には時計がありませんでした。村人は鳥の鳴き声とか太陽の位置で時間を把握していたのです。学校には鐘があって授業の初めと終わりを教えてくれました。
だから、この村に来てから間もない頃は時差ボケみたいな状態でした。
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