僕は異世界転生者(2)

「なっ・・・君、それは・・・」


 僕の言葉に相当驚いたのか、桐山さんは口ごもった。それから、何かを確認するように栗原さんと目を合わせ、タブレットを見つめる。


「ランクは・・・間違いない、Aだな。知能レベルもB+で間違いない。ということは・・・」

「能力の効果、という可能性はありませんか?」

「それはなくはないが、全知関係の能力と仮定するとランクは間違いなくSになる。Aランクの能力で想定されるのはテレパスだが・・・確認だけれども、ユイナちゃんは力を使っているよね」

「はい、そのために私はここにいますので」

「だとすると、テレパス等で思想を探るのは無理なはずだ。そもそも彼は転生してからまだ日が浅い。特異点を超えていない転生者の能力発現は基本3日以上かかるし、彼は『特異転生者』ではないからな・・・」


 タブレットを眺めながら、二人は難しそうな顔で話し続けている。能力? 特異点? また奇妙な言葉が出てきて僕は戸惑ったが、それよりも二人の「誤解」を解くのが先決だと考えた。


「あの・・・さっきの質問なんですが・・・」

「うん、いや、今それどころでは・・・」

「いや、あの何か誤解されているようですけれども・・・」

「・・・誤解?」


 きらり、と桐山さんの目の奥が光った気がした。


「あの、僕はここに運ばれる前にも意識がありまして、運ばれる最中に転生者だの異世界だのという会話を聞いていまして・・・。それで、今自分が置かれている状況や記憶から考えてそう判断しただけであって、決して能力やらとかっていう話ではないんですけれども」

「えっ?」

「いや、ですから聞こえた会話や状況から想定して判断しただけであって、決して特別なことではないと思うのですけれども・・・」


 僕はそう説明した。何も知らずにここで目が覚めていたら、僕だってここは病院、あるいは特殊な施設かなにかだと思うし、異世界転生なんて荒唐無稽なことは想像もしないだろう。けれども、僕にはここに運ばれるまでに聞いた会話がある。それらをもとに考えれば、質問としてはあり得ないものではないはずだ。そもそも、異世界だの転生だのという単語を持ち出したのは僕を回収したあの2人なのだから。

 けれども、桐山さんが次に発した言葉は僕の予想とは全く違っていた。


「意識が? 君はここに来るまでの記憶があるのかい?」

「え?」

「記憶があるのかと聞いているんだ!」


 想像以上に強い口調だった。な、なんだ? 僕、何か変なことでも言ったのか? その口調に思わず口よどむ。


「結城君、大切なことなんだ、はっきり答えてくれ。君は転生の記憶が、正確には君が死んでからここに飛ばされて来るまでの記憶があるのか? 誰かにあったか? 何かを受け取ったか? あるいは、何者かと取引したか? どうなんだ、はっきり答えてくれ」


 僕の肩を掴み、激しく前後にゆらしながら、桐山さんはそう尋ねる。けれども、僕には一体何のことだかさっぱりわからない。そもそも、転生の記憶とやらなんてないのだ。気が付いたら芝生の上、それが全てであり、その前に・・・


 ・・・いや、今、何て言った?


「やめてください・・・僕が覚えているのは僕を運んでくれた人たちの会話だけで・・・それより、今、死って・・・」


 桐山さんの動きが止まる。その両手からすり抜けるようにして、僕は膝から倒れ込む。


「いや・・・そうか・・・転生だから・・・。そうだよな・・・、うっかりしてた。忘れてたよ・・・」


 そう、忘れていたんだ。大切なことを。最も大切なことを。一番大切な、僕自身のことを。


「そうか・・・僕は、死んだんだ・・・」


 口からこぼれるように、その言葉を口にする。

 一度口にしてみれば、その言葉は重りとなり胸に沈む。

 ・・・冷たいリノリウムの床が、ゆっくりと歪んでいった。

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