第11話 大事件!
「俺…今日デートなんだ」
「…は?」
昼休み、琢磨の突然の発言にサンドイッチを口に運ぼうとした手が止まる三郎。
後方でマニアックな会話に花を咲かせていた女子二人も驚いていた。
「小田よ…、それはあれか、隣に住む幼馴染か?」
「違う、初対面だ」
「なん…だと?」
もう食事どころじゃなくなった三郎はとりあえず手に持っていたサンドイッチを袋に戻す。
優子は箸を震わせ、まるでロボットのように視線を琢磨に向ける。
「小田君…、それはあれかな、親同士が決めた許婚とか…」
「違う、親は全く関係ない」
「なん…ですって?」
握りしめていた箸を落とす優子。
開いた口が塞がらなかった芳子が勇気を振り絞って言葉を放つ。
「小田君…、それはあれなの、空から降ってきた…」
「違う、普通の女子高生だ」
「なん…だって?」
余計に口が塞がらなくなった芳子。
「…とりあえず皆、そのギャルゲーみたいな設定から離れよう」
三人とも同じ事を考えていた。
この極悪面とデートができる勇気ある女がこの世にいたのか、と。
とりあえず落ち着いて話を聞く姿勢を取る一同、恥ずかしながらモジモジしている琢磨の表情は本気で気持ち悪かった。
「メ…メル友なんだ」
「いつの時代の人間だお前は」
これまで彼女も友達もできなかった彼はネットを頼り、ある女性の日記をフォローしたところ連絡を取り合うようになった。
歳が同じで、お互い住んでいる場所が近いという理由で会うことになったらしい。
「ということはお互い顔を知らないんだな?」
「ああ、写真は送ってない」
「…」
先の見えているデートだった。
「元気出して!」
「芳子、気持ちはわかるけどまだ早い」
初対面で相手は琢磨の顔を見たことがない、たったそれだけで詰んでいる悲しき存在。
「皆に聞きたい、恋愛ってどうやったらいいんだっ?」
「…」
「…」
「…」
元ガリ勉オタクの佐藤三郎。
男よりも強いレディース総長だった過去を持つ鈴木芳子。
元モデルだが、今現在はBL好きの地味系オタク、塚本優子。
間違いなく彼は質問する相手を間違えている。
「ま…まぁ相手に合わせて接すればいいんじゃね?」
数々のギャルゲーを攻略してきた三郎が一番まともな意見を出せるだろう。
それが唯一、琢磨にできるアドバイスだった。
放課後になり、琢磨は硬い表情のまま教室を出て行った。
正直三人とも午後からは授業どころではなかった。
「よし、私尾行するっ」
気になったままにしておけない芳子。
友達思いで言ったのか、それとも面白半分で言ったのかは彼女本人にもわからない。
三郎と優子はお互い顔を見合わせるが、二人とも芳子ほどの行動力は持っておらず、出て行こうとする芳子の後姿を黙って見送るしかできなかった。
「…」
芳子とて余計なことはしないだろう。
尾行がバレなければいいのだが。
「鈴木絶対バレるよなっ!!」
「芳子絶対バレるよねっ!!」
過去の出来事を思い出した三郎と優子は勢いよく席を立って走り出すのであった。
結局琢磨の後を追うことになり、三人は駅前がよく見える大きな看板の裏で身を潜めていた。
少し離れたところで立っている彼は緊張のあまり目が泳いでしまっている。
あれを挙動不審だと理解できるのはここにいる三人だけであり、周囲からはものすごく怖い高校生が見境なく睨みつけているように見えていた。
「あそこだけ明らかに避けられてるね…」
優子が指差す駅前のあの一角はよく待ち合わせ場所として使われるのだが、琢磨の立っている周辺だけ明らかに人がいなかった。
「ATフィー…」
「鈴木、それ以上は言うな」
とりあえず三郎は何かを口走りそうになった芳子を止めておく。
スマホでやり取りをしているのか、琢磨は周囲の様子も気にせず画面と睨めっこしていた。
そうこうしている内に30分が経過、未だ女の方は姿を現さない。
もしかすると彼はからかわれたのかもしれない、と思い始める一同。
すると琢磨は慌てた様子でスマホを耳に当て始めた。
「あ、もしもしタッくん?」
当然この場所からは琢磨の声は聞こえない。
―――ならこの声は。
「もうちょっとかかりそ~、タッくん今どんな服装してるの~?」
三人が隠れている看板の逆側、死角になっている場所からの声だった。
女の声と同時に琢磨が自分の服装を確認しながら喋っているのが見える。
「うん、うん、え…あ…、うん…」
少しずつ女のテンションが下がっていく。
「わ、わかった、着いたらまた連絡するね」
そして同時にスマホを下ろす琢磨、間違いなくすぐそこにいる女がデートの相手。
何故近くにいるのに向かわないのか、そして何故もう少しかかるなんて嘘を付いたのか。
その理由はシンプルでわかりやすいものだった。
「あ、もしもし、マジありえないんだけどっ」
「…」
「これで7人目、ホント男運ないわ~」
7人目にカウントされたのは誰でもない、琢磨だ。
「え?会うわけないじゃん、速攻で拒否だし」
彼はデートどころか、会うことすら許されなかったのだ。
これは友人として許せるものではなかった。
「佐藤」
「ああ」
「え?ちょ…佐藤君?」
芳子の合図と同時に上着を脱いで足を動かす三郎、何をするのか予想ができない優子は慌てていた。
「ね、君どこの高校?」
「え?」
三郎が初対面したその女子はギャルとまではいかないが少し遊んでそうな雰囲気、生意気なことを言うだけあってそこそこ可愛い。
「俺さ、連れと遊ぶ約束してたんだけどドタキャンされちゃって」
改めて言おう、彼は見た目だけの元ガリ勉オタクのなんちゃって不良だ。
「暇になったんだけど、君さえ良かったら遊ばない?」
「え~、どうしよっかなぁ~」
明らかにOKの流れだった。
「チョロいわね」
「チョロいね」
「うおっほん!」
すぐ裏で聞こえてくる声に咳払いで誤魔化す三郎。
彼が制服の上着を脱いだのは、琢磨と同じ高校だとバレないようにだ。
「ごめんね、嫌ならいいんだけど…」
「ううん、丁度私も暇になったし、いいよ!あそぼっ」
「…ふ」
付き合い方を知らない男に優しくして、もてあそんだ罪を償ってもらう時がきた。
「はいっ、ノルマ達成~」
「え…何?」
「いやぁ、今日尻軽女が何人引っかかるか実験してたんだ」
「は…?」
急に遊び人風に切り替える三郎、女は何が起こっているか理解できていなかった。
「見えてないけど、動画に撮ってるんだ」
「ちょ…アンタ何言って」
そう言って彼は彼女と同じ目線まで体勢を落とす。
「おめでとう、お前で10人目だ」
「…っ」
女は悔しすぎて言葉にならない表情を浮かべていた。
動画を撮っていると言ったのは彼女がもうこの場所に来れなくする為だった。
この事は琢磨に伝えるべきではない、知らない方が幸せなこともある。
逃げた女の姿が見えなくなったところで芳子と優子は三郎の前に出る。
二人ともスッキリした表情をしていた。
着信拒否をされていることに気がついた琢磨は肩を落とし、泣きそうになっている。
「さて…どっか遊びに行くか」
「うん」
「4人でね」
顔を見合わせた三人はほぼ同時に俯く琢磨の方へと向かうのだった。
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