第9話 魔力検知と碧色人形

東地区にきた僕らはメインの大通りを走っていた。


「これからどう探すんだ、行くからには考えがあるんだろう?」


「ああ、もちろんだ、東地区で街を見渡せるような高いところはないか?そこに行きたい。」


「高いところなら教会の鐘の所とかどうだ。あそこなら大通りが見渡せるだろう。しかしそんなとこ行ってどうするんだ?」


「ああ教会なら問題ないだろう。任せろ僕の作戦は完璧だ、高いところに登って、街を見渡して、探す!」


「……そう言えばお前、学校のときから頭悪かったな。」


とたんにアンバーは頭に手を当てて可哀想なものを見る目でこちらを見てきた。


「冗談だ、ちゃんと考えはあるさ。」


東通りの中ほどにある教会に着いた僕らは教会の中に入り、シスターに頼み込んで鐘の高台に登る許可を貰った。

高台に登り街を見渡すとどうやらもう夕刻の用で日が沈み掛けていた。

そこからはオレンジに染まった街並みが一望できた。


「いい場所だろ、ここ。子供のとき遊んでて見つけたんだぜ。」


「ああ、いいところだな。」


こんな高いところに登ったのは初めてかもしれない。

僕は僕の住む街の大きさに圧倒されてしまった。


「惚けてる場合じゃないぞ、何をするんだ。」


そうだった、そんな場合じゃなかった。


「ああ、今から魔力を使って僕の人形の魔石を探す。指を指したらそこに何があるか教えてくれ。」


「魔力ってお前たしか学校でも魔法が使えないんじゃなかったか?」


「ああ、魔法は使えないが、魔力操作だけは得意なんだ。詳しい話は後でする。」


疑問を顔に隠さないアンバーにそう言って目を閉じる。

僕が行うのは魔力検知と呼ばれるものである。

久しぶりにこういったことに魔力を使うため不安だったが大丈夫そうだ。

まずは魔力を細い糸のように伸ばす。それをいくつも作り近場に流す。

この時糸の近くに魔石や魔道士など魔力を纏ったものがあると、魔力同士が干渉してその反応が糸を通して僕に伝わる。

しかしこの方法も僕が操れる糸の本数がそこまで多くないため調べられる範囲はそこまで広くない。

範囲を絞って検知を繰り返す必要があるので見つけるまでに時間がかかるだろう。


まずは教会の近辺に糸を伸ばしていく。

途端に無数の反応がでるもどれも魔力が弱い。

日常的に使っている魔道具のものだと思われる。

僕が今回探すのは碧色の眼の魔石だ、あれほどの魔力を纏う魔石はこの街にも多くは無いはずだ。


近場にそれらしき反応はなく虱潰しに場所を変えていく。

だんだんと慣れてきて糸の本数を増やして探す範囲を広げていく。

その間も日が暮れていくので急がなくてはならない。

途中大きな反応がある、しかも通りを動いているようだ。そこに指を指す。


「そこは通りだぞ。」


「誰かこちらに向かって歩いてる奴はいないか。」


「ああ、冒険者みたいなやつが一人こちらに向かってきている。」


「そいつは魔法使いか?」


「いやそんな見た目じゃあないな、腰に剣を下げてるし剣士だろう。」


「剣のどこかに魔石はないか?」


「ん、小さくて見づらないな、…いやあるな剣の装飾の真ん中に赤い大きいのがはまってるな。」


「ならハズレだ。それは魔道具だろう。」


惜しくも僕のこの検知は魔力の大きさは分かるが属性はわからない。


「てかその剣士こっちに手を振ってるぞ、向かって来てるぞ。」


目を開けてその方向を見ると若い冒険者がこちらに手を振ってのが見えた。

よくうちに魔石を届けてくれる剣士メイズであった。


「ええ〜!シードレイクの魔石盗られちゃったのか。完成した人形見るの楽しみにしてたのに。」


アンバーが簡単にメイズに説明してくれた。その間も僕は魔力検知をしている。

南の方は住宅街のようだ、大きな魔力はこれと言ってない。

日もだいぶ沈み少し焦りを感じてくる。


「メイズ、どこか東地区で外からきた人が集まるところはないか?」


「そうだな、宿屋が多いのは街の真ん中の方だけど。そうだ、東寄りの貸家の地区とかはどうだ。俺は使ったことがないけど、あそこは街に寄った冒険者なんかが利用するんだ。商人が使うこともあるって聞いたぜ。」


盲点であった、東寄り、つまり街の入口付近には馬車の預かり所を始め旅人用の施設が多くあった。


「だめだ、遠くてわからん、見に行くぞ。」


そう言うと早足で東に向かった。


「おい、置いてくなよ。」


「あれ、これ俺も行かないとダメかな?」


こうしてアンバーとメイズを連れて貸家に向かった。

収穫祭の時には賑わうのか貸家のある地区は広かったが、今は人が少なく閑散としていた。

貸家の間を歩いているとある貸家の横に停まっている馬車に目がいく。

ちょうど荷造りをしているらしく、男が指示をして二人組が大きな木箱を荷台に積んでいるところだった。

目を閉じて馬車に向けて魔力検知を行う。

大当たりであった。

木箱の中に二つの大きな魔力反応が並んであるのがわかった、この距離で間違えようがない、あの中には碧色が入っている。


「間違いない、アイツらが犯人だ。」


僕が指を指すとメイズが「あれ?」という顔をした。


「どうしたメイズ、知り合いか?」


「いや、あの奥にいる人は知らないけど、手前にいる二人組は冒険者だ。この前ギルドで少し話した奴らだ。王都から商人の護衛で来たらしく仕入れの間滞在するっていっていた。」


「よそからきた商人を装って盗みをしてたのか。」


僕は作れる全ての糸を使って貸家を調べる。

魔力が多い人間は少ないが魔力を持たない人間はいない。

魔石程ではないがこの距離であれば人間も魔力検知の反応でわかる、家の中にはもう人がいない、つまり今いるのはあの三人だけだ。


どうやらあちらも気づいたようで指示をだしていた中年の男がこちらに近づいてきた。


「こんばんわ、初めまして、商人のセラドンと申します。先程からこちらを見ているようですが何か用ですか?」


それは少しも警戒を感じさせない丁寧な言葉遣いであった。


「ああ、すまない、実は僕は西地区商業組合のものなのだが最近盗難が発生していてね。その犯人を探しているんだ。商人登録証を見せてもらってもいいかい?」


余所行きの言葉遣いのアンバーが言った商人登録証とは、商人に対して商人ギルドが発行するものでその商人についての詳細が書いてある。

僕の店にもあるが納税にも使う重要なものであるため妹弟子が管理している。


差し出してきた登録証の詳細欄には間違いなく「貿易商人セラドン」の文字があった。

登録は王都で五年前に行ったらしく、おかしな点はなかった。


「積んでいるところで済まないが荷物を調べさせてもらってもいいかい。」


「申し訳ございませんがそれは出来ません。何せ明日の朝には隣町で商談があるものでこうして急いで荷造りをしているのです。他に無ければ急いでいるので戻らせて貰います。」


などと白白しくも正論であった。

僕らは衛兵でもなんでもない、商人の荷物を調べる権利などはなかった。

商人はそそくさと作業に戻って行った。


「お前らはここを見張っていてくれ、俺が衛兵を呼んでくる。逃げようとしたら何でもいいから引き止めて置いてくれ」


そうアンバーが言った。

組合長の息子である彼なら衛兵もすぐ動いてくれるだろう。


…とそこで思う。

何で僕は目の前で碧色が盗まれる様を見てないと行けないのだろう。

まともなフリした商人を相手にして僕にもだんだん苛立ちが溜まっていた。


「なあ、少しくらいなら暴れても問題ないよな?」


「ん?ああ、最悪の場合、車輪でも壊してしまってくれ。」


よし、組合長の息子の許可がでた。

これなら何かあっても多少は目零しして貰えるだろう。


目を閉じ先程までより太い糸にした魔力を馬車の荷台の方に伸ばす。

そして碧色の魔石に魔力がつながった。

(ごめんな、こんなところで一人にさせてしまって、眼に傷の一つでもあったらコイツら許さねぇ。)


「帰っておいで、僕の碧色人形!」


僕が叫ぶと同時に碧色の入っていた木箱が馬車ごと真っ二つに割れた。

中から出てきたのは黒い外套を被った青い目の妖精人形だった。

馬車が壊れると同時に壊れた荷台に積まれている盗んだものであろう人形たちが露わになる。


「なっ、何が起きたんだ、こうなったら仕方ない。お前らこいつらを始末しろ。」


慌てふためいた商人が指示し、冒険者も慌てて腰の剣を抜いた。

メイズが真剣な顔になり剣を構えるも僕が目を閉じたまま手で制する。


「碧色一人で十分だ。」


襲いかかってきた冒険者の剣を難なく躱した碧色はその足に着いている剣で宙返りをするように冒険者の手を切りつけた。

続けて二人目の背後に着地してその背中切りつけた。

それはさながら人形が踊っているようであった。

一瞬にして冒険者たちは剣を落として倒れた、傷口を抑えて蹲っている。


状況が悪いこと悟った商人が背を向けて走り去ろうとしたが先回りしたメイズがきれいに足払いして床に組み伏せた。

こうして戦闘はあっさりと終了した。


その後騒音を聞きつけたのか衛兵に囲まれた。

僕は消えゆく意識の中でアンバーの肩を叩き「あとは頼んだ、碧色は傷がつかないように布にくるんで運んでくれ。」と言い残し、糸が切れたように倒れた。

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