第8話 問題児が二人
「バイス、どこに行くんだい?」
店を出ると、丁寧にも父親を入口で待っていたのか馴れ馴れしくアンバーに声を掛けられる。
「東地区に決まっているだろう。人形を取り戻しに行く。」
そう言う僕の声は少し
「君が行って何になるんだ。今は組合の雇った専門家が探してくれている。店で待つべきだろう。」
ああ焦れったい、説明してる時間が少しでも惜しいというのに。
「待っていて人形が帰ってくるか分からないだろう。そこをどいてくれ、僕は自分で探しに行く。」
アンバーは相変わらず僕の前に立ったままである。
「分からないのかい、君が行くと迷惑になるかも知れないだろう。犯人たちに気づかれて逃げられたらどうするんだい?気持ちは分かるが待っていた方が良い。」
ああ、こういった人間は非常に面倒くさい。
「それに盗まれたのはたかが妖精人形だろ。」
それを聞いた瞬間僕はアンバーに掴みかかった。
アンバーは驚いた顔をするも一歩も引かなかった。
「…手をはなしてくれ。」
僕は少し冷静になり手を下ろした。
「間違ったことは言ってないはずだ、妖精人形ならまた作ればいいだろう。そんなもののために君を行かせる訳には行かないよ。」
そしてアンバーを睨みつけて今まで出したことの無い大きな声で言う。
「そんなもの、だと!あれは、あの人形は、僕が僕の為に作った妖精人形だ!」
もうこいつと話すことに意味はないだろう、しばらく睨みつけた後に面食らったように惚けているアンバーの横を通り過ぎる。
「待ってくれ。」
後ろから伸びてきた手が僕を引っ張った。
しつこいな、殴り倒すかなどと思い振り返るとアンバーは笑っていた。
「悪かったな、人形を馬鹿にしたつもりは無かった。どうしても行くと言うなら俺もついて行く。俺の方が東地区にも詳しいだろ。正直俺も人形を取られてむかついてたんだ、一緒に犯人を一発殴りに行こうぜ。」
「…いいのか、お前は組合長の息子だろ。」
「ああ、問題ない。学校の時から怒られるのは慣れっこだよ、お前もだっただろ?」
学校時代、僕はよく怠けて、アンバーはよく揉め事を起こして怒られていた。
何も変わっちゃあいない、僕らはいまだ問題児のままであった。
「そうだったな、にしても急に言葉遣いが変わったな。」
「ああ、親父が一人前になるには言葉遣いを直せって煩くてな。最近は丁寧な話し方を意識してたんだが正直肩苦しかったんだ。ほら、急いでるんだろ、行くぞ。」
そう言って整えてあった髪をくしゃくしゃにしたアンバーは頼もしく見えた。
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