第4話 菓子屋の娘とトリ型の焼き菓子

それから二週間の間、僕は受注された妖精人形作りに縛られることになった。


うちの店で作っている妖精人形は他の店とは違い眼に魔石を使っている。

これは師匠のこだわりでもあり、なかばブランド化した妖精人形は商人や貴族といった上流階級の人々にも少なくない人気があった。


決して手を抜くことをせずに妹の手伝いもあり、ようやく最後の妖精人形を作り終えた僕は居間のソファでぐったりとしていた。


妹弟子は「お疲れさまでした。あとは私がやるのでゆっくり休んでいてください。」と僕をねぎらったあとに妖精人形の納品に向かってくれた。


(ああ、疲れた。あと三日は絶対に働かない。)

そんなやくもないことを考えているとお店の方でドアがノックされる音がした。


「はーい」


(おかしいな、今日はもう閉店にして貰っていたはずなんだけどな。)


ボサボサな頭を撫で付け入口に向かう。

ドアを開けるとそこに立っていたのは同じ通りにある菓子屋の娘マリーであった。


「いらっしゃいま…なんだ、マリーか。」


マリーはシトルと同じく学校時代の同級生であり、シトルの親友であった。

またフェリノはマリーのことを姉のように慕っている。

僕とはと言うと、そこまで仲が良くない。

学校時代僕はこいつにいじめ……辞めておこう、苦手である。


「なんだとは何よ。おじゃまするわ、フェリノちゃんはいないの?」


「ああ、今ちょうど出かけたところだよ」


「そう、それは残念ね。仕事が立て込んでるって聞いたからお菓子を差し入れに来たのだけれど渡しておいてもらえるかしら。」


そういい、こちらにカゴ預けてきたので受け取る。


「その仕事で忙殺ぼうさつされてたの僕なんだけどね。」


「失礼ね、バイスの分もちゃんとあるわよ。」


カゴの中にはトリの形に作られた焼き菓子の袋があった。

思わず頬がほころぶ。

マリーの家は焼き菓子の店として有名であり、堅物なくせに甘いもの好きの師匠は度々買って帰ってきていた。

中でもこのトリ型の焼き菓子は甘い物が食べれないはずの僕でも食べれるお菓子であり、また僕の大好物でもあった。

甘いのにくどくなく食べやすい、そんな焼き菓子だ。


「それにしてもアンタ…ちゃんと食べてるの?」


「何?心配してくれてるの?」


「違うわよ、フェリノちゃんにしっかりしたもの食べさせてあげてるのか心配してるの。」


冷たい目で見られた。


「フェリノは料理できるよ。」


「知ってるわ、教えたの私だもの。」


そう言えばそうであった。

マリーの家は数年前に母親が病死しており父との二人暮らしであった。

師匠が死んだ後、フェリノはときどきマリーの家に家事を教わりに行っていた。

その時からフェリノはマリーを姉のように慕っている。


「アンタがまた人形にお金を使ってしまってまともなものが食べれてないんじゃないかと思ったのよ。」


「はっはっは、いくら僕でもそんなことはしないよ。」


恐ろしくも半分は正解であった。

大丈夫だ、まだ食費には手を付けていない、付けたことは無かったはずだ確か、だからその疑うような目は止めて欲しい。


「そう、ならいいわ。それじゃあフェリノちゃんにもよろしくね。」


そう言い残し店を出ていった。

僕は焼き菓子のお供に紅茶を入れようと思い店の奥に戻って行った。


「これでも心配してるわよ、友人として。」


ドアを出たあとのマリーの小さな呟きがバイスの耳に届くことは無かった。

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