第十章「失意」

新橋に本社のある会社がわたしの会社で格式のあるMグループの一端を担う会社であった。

恐れたことで有るがわたしは大卒には一見見えないらしく場違いな感じがした。

然し人事部長は安藤は英語が堪能な新人のホープである。揉んでやってくれと紹介されると宜しくと云うのは年長者だけであった。

希望を言えと云うのでワープロを使いたいと言うと研修期間にみっちり仕込んでやる。それで使えれば始めてわが社の一員だ。それまでは見習いだ。覚悟しておけ。

こんなことは実社会ではよくあることだが、一番問題だったのは興信所を使っての調査をしていることで有った。それが済むまで社史でも読んでいろと申し渡された。調べられてまずいことはないと思って居た 

然し状況は厳しいものであった。出身の高校はあまり知られてない高校だね。なぜその高校を選んだのだ。私はキリスト者ですから。キリスト?そんな宗教は持ちこむな。ここはMグループだ。それがすべてだ。お前は、当分会社史の整理をしておけ。会社は、根堀り葉堀り素行を聞いたらしく交友関係、得意不得意人当たりが良いか、社交的かと云う事まで調べついに炙り出したのは、わたしには重度の障害者の兄がおり子供の頃近所の人と折り合いが良くなく私も同学年のいじめっ子の標的にされていたという事実を問題にした。ただの喧嘩であったのに色眼鏡で見ると協調性なしと判断された。

その結果辞表を書いてくれ。これは解雇ではない。こういう事実が明らかになると君の将来に傷がつく。何が悪いというのだ。俺の頑張りは上智でも認められたではないか。私の兄は重度障害者である。しかしそれと私は別だと諭されそう思ってきた。つまり就職活動の時と同じなのだ。失意のどん底で有っただけでなく人生をどう生きていいかすらまるで分らなくなった。退職金五万円であった.一瞥に省みられず追い払われたのであった。

もう脱サラしか道はないのに精神の虚脱状態が私を襲った。私の信仰は、まだ芽がでてなかったのである。闇が私を覆っていた。

 佐藤新一は酒びたりであったが、彼を取り巻く後輩は彼を見放してはおらず、たとえ新一の八つ当たりではあったが応答する後輩に恵まれていた。そこに回復の一筋の光があった。ただ斉藤由紀子は、大所高所から彼を見ていて明らかに距離を置いているようであった。そんな時私が新一の前に現れた。新一は、「今頃四谷に現れるとは、おれを笑いに来たのか。てっきり地方転勤と思って居たのに悪運の強い奴だ。俺の負けだ。」私は何の算段もなく『会社、辞めた。君の事が気になってね。可哀そうとかいうのでなく無関心ではいられなかったのだ」新一の顔に喜色が浮かんだ。「友よ。俺は見捨てられたわけでは、なかったのだ。君は、おれの心の友だ。」

ひょんな所から友情が芽生えたわけではあるが、私には、何の算段もなかった.気力が

湧いてこない一昔前の三無主義を彷彿されるただ自分の部屋にこもって聖書を読んでいた。

通り一遍の読みでは光明は見えてこなかった。ただ自分は「ヨブ記」のヨブに思えてならなかった。ヨブの様な信仰はまだ芽生えてこなかった。失意が続き神経に異常が生じた。ヨブの様な苦難が襲って来たのである

 

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