第43話 リリーフ早佐
(…初球、ストレートを狙う!)
根張は、球雄と金二郎、そしてマウンドの早佐の顔を見て、そう心に決めバットを構えた。
早佐はセットポジションに入り、球雄と根張を交互に見ながら足を上げて第1球を投げた。
根張の読み通り、初球はストレートが真ん中高めに147キロで向かって来た。…懸命に打ち返すと、打球はセンターに上がって伸びて行く。球雄と金二郎は全速力でホームを目指して走り出す。…センターのデルゾ瑠偉が背走して打球を追う。
しかし最後にバックスクリーン手前でボールは失速して、フェンスまであと3メートルといったところで捕球されてしまい、スリーアウトとなった。
「クソッ!」
根張は悔しげな言葉を吐き捨てて、ベンチに戻る。
8回の表、八千代吉田学園の攻撃は七番打者からの下位打線だ。
「金ちゃん、この回はきっちり3人で片付けるぜ!」
「へっ! 当ったり前じゃん、球雄!」
マウンドでお互い鼓舞しあってから、
「締まって行こ~っ !! ぜっ!」
金二郎が内外野守備陣に叫んでポジションに就く。
そして右打席に七番の片野強志が入った。
…球雄は初球、138キロのストレートを膝元近くに投げ、片野の腰を引かせる。
「ボール!」
球審のコールに金二郎は頷き、片野はムッとして球雄を睨む。
2球目への闘志をむき出して、一転ベースにギリギリ近寄って構える片野に、球雄がゆっくりと振りかぶった。
…腕を振った球雄の手から放たれた球はまっすぐ片野の顔面に向かって行った。片野は慌てて上体をのけ反らせ必死によける動きを見せたが、ボールは手前でストンと斜めに落ちて金二郎のミットにズバン ! と収まった。
「ストライ~ク!」
…球審のコールに驚き、「えっ!?」と声を上げる片野。
…3球目に対してはベースから少し距離を置いて片野は構えた。
球雄は次球、139キロのストレートを外角低めに決めて片野は見送り、2ストライクを取った。
そして4球目、同じ外角低めからボールゾーンまで曲がって行くスライダーを片野に振らせて、球雄は三振でワンナウトを稼いだ。
…続く八番打者の浦岡には、ストレートを見せ球にして、低めの変化球を打たせ内野ゴロに切って取った。
そしてラストバッターの早佐には、外のスライダー、カットボールで追い込み、内角高めの釣り球ストレートを空振りさせて3球三振に取り、予定通りの三人斬りでスリーアウトチェンジとなった。
「よっしゃあ !! ナイスピッチ!」
マウンドの球雄より捕手の金二郎の方がテンション高く、声を上げて跳びはねながらベンチに引き上げた。
「…金ちゃん、恥ずかしいからあんまりハシャぐなよ!まだ試合は終わってないんだぜ…! 」
ベンチに戻ると球雄がそう言ってたしなめていた。
8回の裏、東葛学園の攻撃は二番打者の小栗からだ。
「…出来ればこの回、もう1点追加して欲しいところだけどな!…」
球雄がベンチで呟く。
「エースの玉賀を降ろさせたんだぜ!…二番手の格落ちピッチャーなんかウチのクリーンナップが打ち崩してくれんじゃね?」
金二郎がそう言うと、
「本当に格落ちピッチャーならな…」
球雄が答えた。
小栗が左打席に入ってバットを構えると、早佐は無走者の状況ながらセットポジションに入った。
(…走者無しでセットから投げるってことは、こいつ球は速いけどコントロールはアバウトなのか… !? )
小栗はマウンドの、ヒョロッと背が高い二年生ピッチャーを見てそんな考えが頭をよぎる。
足を上げて、オーバーハンドから早佐が初球を投げて来た。
小栗は147キロのその高めのストレートを打ちに行ったが、バックネット直撃のファウル。
(やっぱり速いな!…球も少し動いてるぜ)
バットにボールが当たった位置を確認しながら、小栗が心中で呟く。
…早佐の2球目は、148キロのストレートがインコースに来た。小栗は見送ったがストライクの判定。
…そして早佐の3球目、今度は真ん中のコースにボールがスーッと来た。
(もらった!)
小栗が自信とともにバットをスイングした時、ボールはストンと落ちて地面に着けて構えていたキャッチャーのミットに収まった。
「ストライ~ク!バッターアウッ !! 」
球審のコールが小栗の耳に響いた。
「…ストレートは速く適当に散って、2ストライクと追い込んだらフォーク!…短いイニングではちょっと厄介なピッチャーだぜ」
…ベンチに戻った小栗が汗を拭きながらみんなにそう話すうちに、三番中尾はそのストレートを打ち上げてセカンドフライに倒れ、さらに四番の都橋はストレートを2球ファウルの後、フォークボールを空振りして、割とあっけなくスリーアウトチェンジとなった。
そして試合はいよいよ最終回を迎えた。
「この回をやっつけたら甲子園だ!締まって行こうぜ、金ちゃん !! 」
球雄が相棒にそう言ってマウンドに向かった。
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