心の奥底
俺は心の何処かであのユイ姉さんを求めていたのかもしれない。
俺は沢山の女性を片っ端からナンパした。
財力に物を言わせた俺についていかない女はいなかった。
しかしユイ姉さんのような人がいなく、俺は女に囲まれてても寂しさや不満が募るばかりだった…
まあ、財力に溺れてついてきてしまう女のスペックなんてそんなもんだ。
ユイ姉さんのように、見返りを求めず、自分を省みずに人を正しい方向に持って行こうとする女性などいない事はわかっていた。
俺はそこで、我が会社にあるクローン技術に目をつけた。
我が会社は普通に考えれば違法企業で家宅捜査の対象になるだろう。
しかし俺はその為に警官となり、その立場を利用して違法企業の対象を反らしてきた。
話が脱線しそうだから元の話に戻そう。
俺はユイ姉さんの写真を元に「クローン人間」を作った。
ユイ姉さんに姿を似せ、特殊な培養液で長い月日を経て育て、念入りに教育を行った。
俺をはじめ研究スタッフはそのクローン人間をかつて俺の求めたユイという名にちなんで「YUI」と名付けた。
しかしこうした「YUI」にも俺の求めていたユイ姉さんは中々見つからなかった。
それだけではなく、病弱ですぐに死んでいく「YUI」、精神疾患を抱えもはや育てる以前の「YUI」、奇形を持ち原型を留めない「YUI」も生まれ、こうしたYUIは問答無用で「スクラップ」にしてきた。
しかし、こうした苦労と悪夢の甲斐もあって、ようやく俺は「ユイ姉さん」に近い「YUI」を育てるのに成功したんだ。
その「YUI」がいずれ坂丸が「ユイ先輩」として付き慕い、敵として俺の前に立ちはだかるあの「ユイ」だ!
「シャラーップ!!」
机がハリセンの一撃で真っ二つに割れる。
会社のミーティング中に突如、かの「ユイ」が詰め寄り、議論をしてきたのだ。
「ユー達!クローンを次々とプロダクション(生産)していくのはナンセンス!今すぐこんな事はストップしなさい!!」
皆はそのユイを捕え、スクラップにしようと言い出したが俺は思った。
あの「YUI」こそ中学時代、俺を不良から助けてくれたあの「ユイ」だと!
「何だ君は?会議中だぞ!!」
「会議中でもなんでも、こう言うのはバイオレント(人権侵害)!今すぐクローン達をリリース(解放)しなさい!でなければミーが会社の陰謀を世間に撒き散らしてみせる!!」
ユイはそうハリセンを前に突き出しながら勇ましく声を上げた。
ユイは会社の陰謀を世間に訴えると言い出し、その場から逃げだした。
間も無くユイは捕らえられ、スクラップされようとしていたのを俺は止めた。
「待て!そいつは俺が教育し直そう!」
俺はその勝気な「ユイ」を求めていた。
その「ユイ」こそずっと俺の側にいて欲しい。
スタッフは社長の御曹司ならとスクラップを保留してくれた。
俺は「ユイ」を部屋に招き入れ、クローン技術の正当性を説いた。
中には間違っているものも沢山あるが、技術の良いところだけを強調して説い、デメリットは言わないかさりげなく良い意味で伝える。
これが俺が会社の御曹司として商売をするに当たり身につけたビジネストークと言うものだ。
「シャラップ!!」
そこでもユイのハリセンが俺のほおに飛んできた。しかし棒で殴られたような痛さだ。
「サイエンスもテクノロジーも…ユー達がやっている事はナンセンス!ミー達はどうなるの?ミー達はユー達の実験道具なんかじゃない!!」
確かにクローンの立場からするとこう思うのだろう。
しかし何も知らない殆どのクローンは今置かれてる境遇を当然と思うのが自然、しかし目の前の「YUI」はその理不尽性をいち早く察知してしまっていた。
それこそ俺が求め続けていたあの「ユイ姉さん」だ!
俺の中に異締家特有の遺伝子に火がつく。
ユイへの加虐本能、独占欲が俺の中に渦巻き、ユイを地下に縛り付けて屈服するまで調教を続けた。
「どんどん痛めつけるといい!ミーはユー達の言いなりになんか絶対にならない!!」
しかしユイはそれでも俺の与える調教に屈せず、正義を貫いた。
いいぞ….それでこそ俺の求めていた「ユイ姉さん」だ!
しかし事態は思わぬ方向に進んでしまった。
縛り付けて逃げられなくしたはずの「ユイ」がいなくなった。
数日、いや数ヶ月かけて彼女の行方を捜したが彼女 は見つからなかった。
それから俺が彼女がアメリカに亡命し、特殊訓練を受けてポリスとして日本に帰国してきたのを知るのはそれから三年後のことであった。
そしてやり手のポリスとして帰ってきた「YUI」は俺からいじめられていた一発坂丸を味方につけ、何らかの方法で俺を、そして長年続いたクローン技術の礎を叩こうとした。
俺は勿論、そんな事はさせる気は無かったし、そもそもそんな事は出来るはずはないと思っていた。
しかしユイは思ったより賢く、手強かった。
そしてユイはどうしても俺を出し抜くには大義名分と、俺を超えた存在が必要だと踏んだようで、あの気弱で臆病だった坂丸を育て、俺と競うように差し向けた。
坂丸はみるみる内に育ってしまった。
坂丸はなんと俺と肩を並べるまでに成長してしまい、俺の目の前のたんこぶは一つ増えてしまうこととなった。
そしてもう一つの出来事が更に俺の自由を困難なものにさせる基となろうとは…。
それは立波譲の通り魔犯罪が引き金となる。
それを機に、俺が高校時代いじめにより自主退学に追いやった犯罪者、立波譲を更生させ、味方につけるようユイが坂丸に任務を渡してきたのだ。
坂丸としても譲には助けてもらった恩があると言い
、その任務を純粋に受け取った。
本来なら通り魔で捕まった譲を即釈放はあり得ないのだが、坂丸の譲への更生を「教育」という形で任務に当たらせたユイは流石と言えただろう。
しかし譲への更生こそヘタレの坂丸には難儀なものがあった。
この小説の一部始終を見ていないとわからないが坂丸は幾度も更生計画に失敗し、自分が調教されると言う失態を起こしている。
最終的には坂丸はユイの持つ特殊能力に頼らざるを得なくなり、その強力過ぎる特殊能力に坂丸の精神は崩壊してしまい、今、モテないスタッフの遊び相手として今、俺の持つ別荘の犬小屋で飼っている。
人気の繁華街で裸にして走らせ、それが元で警官としての立場を失い、警官職を剥奪される事になった坂丸だが俺ら異締財閥の性処理として働かせている分これはせめてもの坂丸への罪償いは出来ていると言うものだ。
そこで奴を野放しにして孤独に過ごさせるほど異締家も鬼ではない。
ま、使い物にならなくなればクローンを使って似せの坂丸を作り奴本人はスクラップにする事になるけどな。
これで俺も自由になったわけだが…。
正直刺激が足りないな…。
もう少し楽しませてくれるとは思ったんだが何とも残念だ。
俺は余裕でそう踏ん反り返っていたがその後もっと強力な敵が俺の目の前に現れる事など…。
俺は知る由もなかったんだよな…。
なあ、「YUI?」
俺はYUIを側に置いてゆったりとソファに座りながらテレビを見ていた。
ーーー
剣を背に担ぎ戦士が荒野を歩く。
戦士の前にモンスターが咆哮をあげながら現れる。
『グオォ!!』
食らいつかんばかりに襲いかかるモンスター。
「ハアァッ!!」
戦士は空高くジャンプし華麗な剣さばきでモンスターの群れを一網打尽にする。
そのモンスターの群れを倒し、戦士ユズルは異締財閥のはすぐそこまで来ていた。
「目的地まではまだ遠い…サカマル…待ってろよ!」
戦士ユズルは向こうに囚われているサカマルを助けようとしていた。
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