更生

譲は坂丸の力で更生された。

しかし坂丸の姿はどこにも無い。

無造作に建てられた建物や少々ゴミゴミしていても生活感があり、多くの人でごった返していた賑やかな街も、坂丸と譲の激しいバトルで綺麗さっぱり更地さらちとなった。



そして譲は生きた屍のような、希望の捨てた目から希望に満ち溢れた高校時代の感受性の強かったその日の瞳に戻っていた。



しかし、譲が更生したその時には何もかもが遅かった。



譲は今までの自分のしてきた事に大きく後悔した。

最後まで息子を思いやった母親を。


そして譲に善意を向けて更生させようと頑張ってきた坂丸を邪険に扱い、自らが自らの首を締めてきた。



譲は最初から独りだったのではなく、自分からが独りになるような生き方しか出来なかった。

その事を譲は更生した後に悟った。


母親が気がかりになり、周りをくまなく探す譲。

瓦礫を払いのけたり、穴を掘ったり、身体中が泥と汗まみれになってでも母親を探す。



どんな姿であれ地上に出して母親を救ってあげたい。


それが譲の、母親にしてやれる高校時代以来の親孝行だった。



高校時代は譲も自分自身を磨く事を怠らず、母親に対しても必ず楽させてやると言っていて、勉強にもスポーツにも励んでいた譲。



しかしある日全てが歪んでしまった。


譲はそれをいじめがきっかけだと言い訳を作ってしまった。



しかしいじめは社会人になってからもある事で、それは対象が自分になる事は運が悪ければある事で。



いじめにより捻くれてしまったことは譲は自分に負けてしまった所詮は弱い人間…。


坂丸、お前もいつしかそう言ってたな…。

譲は坂丸の言ってた深い意味を知った。

譲は母親を探す内に見覚えのあるものを見つける。



それは母親の着ていた着物や服をはじめとした、それが入れてある家具だった。



譲はそこで自分自身への手紙として残した一枚の紙を見つける。



譲はそれを開いて読んだ。



『親愛なる我が息子、譲へ…この手紙を読んだ時、私はもうここにいないでしょう。しかし、私は貴方に伝えたい事があります。よく読んでくださいね?』



何だろう?



『異締バイオコンツェルン株式会社というのを知っているでしょうか?』



あぁ、聞いたことある、クローン人間より進化したバイオテクノロジーと言うのを開発した会社だろう。

俺をそこに就職しろと言うのか?



俺は1枚目の手紙を読んだあと次のページをめくる。


『実はそこは裏では大変な事をやっている会社なのです、沢山の同じ顔、同じ性質の人が何人も増えてしまったら世の中は大変な事になってしまう!』



母の言うことももっともだ、しかし本筋が見えてこない、俺をそこに就職しろと言う話じゃなければ何なのだろう?



『しかしその会社は怪しい会社である事は社会で表沙汰にされていない、どうしてだかわかりますか?』



確かに気にはなる、クローン人間が増えたらそれを犯罪に使う奴が出てくるのは自然だしプライベートでも日常生活で色々不都合が起こりかねない。



『警察の力が動いているからです!そこの御曹司、異締反則が警官になっていた事は貴方もご存知のはず!』



確かに、しかしあの会社の御曹司ならあの会社の後を継ぐとか何かになるのが妥当なはずだが…。


『異締反則は警官と言う立場を利用して異締財閥が悪の組織であるのを隠蔽し続けているのです!そして一発坂丸が立ち上がった』



坂丸…あの一発坂丸が?



『坂丸は貴方の力も借りたいと言った、何故なら同じ反則にいじめられた者同士だから、そして、いじめの身代わりになってくれた貴方に感謝したいとも言っていました』



坂丸…。



『本当なら坂丸と譲で財閥の息子を出し抜き、ブラック会社の謎を暴くはずだったのです!そして坂丸さんは私に伝えて来ました。(もし俺がこの戦いで命を散らす事になったら譲に武器を渡してほしいと…』



武器…それは何だろう?



『この地下一回に武器があります、譲、風邪引くんじゃありませんよ!』



手紙はここまでだった。

母さん…ごめん…そしてありがとう…!

俺は地下を掘ってみると階段を見つける。


この先に坂丸と母さんの残したやつが?

俺は地下を降りる。



真っ暗なのでスマホのライトをつけて階段を降りていると扉にさしかかる。


その扉を開いてみた。

その扉は鍵は閉められてなかった。

そして電気も点いていた。



点いていたというより、青く淡い色で暗闇を照らしている感じだ。



そしてその中心には剣が突き刺さっていた。

その剣の刃先から光が発せられているようだった。


ファンタジーでは当たり前にあるような光景……。

しかしリアルでは何かのセットで無い限りは無い。

それが今俺の目の前に現れている。



しかし思う。


ファンタジーであるような光景。

それは必ずしも空想の世界では無いと言うこと。

何故ならば人は自分の記憶をたどらなければ話を作れない生き物だからだ。


空想の世界、それは何かしら思い出があってそれを大げさに描いたような世界。



童話で見た世界でもいい、漫画で見た世界でもいい、歴史で学んだ事柄でもいい、また、リアルで体験した話を誇張した存在も時折ある。



だから目の前の剣は………想像ではなくリアルの世界なんだ。


そしてその剣は意味がなければ作られる事もない。


俺はその剣を見てある者の波動を感じ取った。


『よう来たな、待ちくたびれとったわ』


関西弁を話す謎の剣。

俺は徳島人だが関西弁を生で聞くのは淡路に仕事に行った時くらいだ。


「貴方は?」


俺は聖剣に尋ねる。


『わいはアレンや!そのバイオなんとかちゅうん倒さんと平和戻らへんのやろ?わいに任せとき!』



剣から発せられる威勢の良い声。

しかしこいつ昔の俺に似てるな。


「いや、そこを直接にではなく先ずは異締反則を出し抜いておきたいんだ。あいつを先ず倒さないとバイオは倒れない」


『あーなんやようわからんけどわかったわ」


どっちなんだよ!まあ協力してくれるんなら良しとしよう。


そんな時「号外です!」と新聞屋が来た。

俺はその新聞を受け取り内容を見る。

その新聞のある内容を見てつい血の気が引いてしまう俺がいた。

その新聞の内容はこうだった。



『5月20日未明、人気の多い繁華街で裸で奇声をあげながら20代前半くらいの若い男性が走っていた。

その男性はまもなく捕らえられたものの言葉の呂律が回っておらず、調査を行ったところ、現警察官、一発坂丸である事が判明』



『一発坂丸である事が判明』



一発坂丸!俺の親友ではないか!あの坂丸に限ってあんな事をする筈が無い!



坂丸は何か弱みを握られているはずだ!

バッグに異締反則がいるとしたならば……あの男ならそうやりかねない!


俺に怒りの火がついた。

新聞は俺の怒りの炎で散り散りに燃えてしまう。


「異締反則!許さん!必ずお前を地獄に突き落とし

、一発坂丸を救出してみせる!!」



俺は坂丸と母から受け取った聖剣を鞘に収め、一発坂丸の救出に向かった。

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