死闘の果て

譲の動きがスローになる。

「うおぉ!」俺は譲に拳を振るった。



「ぐおおぉ!!」

譲は俺の攻撃をまともに食らい、身体が飛んだ。

手応えあり、今度こそ!



俺は譲をやられる前にやるようにフルボッコし返した。



「ガシッ!」「…!?」


受け止められた!?

すると譲の身体の周りに電流の糸がジリジリと音を立てながら走っているのが見える。



何をする気だ譲!

と思ったその時、俺は身体中に電撃が走るような痛みに襲われた。



「100万ボルト!!」

「ぐあああぁ!!」


これはゲームの必殺技、譲は今までした格闘ゲーム等の技をリアルで覚える特技を持つ。

…と言うよりゲームの技をどうやって覚えるのかは謎だがそれが譲の昔から手に持っている特技だった。


譲…ここまで出来るならニートになる必要なくね?


電撃で身体が麻痺してしまう俺。



「もう一発!」

.「させるかっ!」


俺は再び電撃に襲われる前に譲を空中に放り投げた。

俺はじっとしていると身体に痛みが走り、思考がぼんやりしていくような感覚を覚えてしまっていた。



これは譲の打撃によるものでは無い。

別の何かが俺を蝕んでいくような…。



(こ、これがハリセン拳を乱用した代償…2倍も使っちまったからな…)



俺は地面に膝を着きそうなのを何とか踏ん張る。

一方の譲も俺からの攻撃で多少ふらついているように見えた。



「い、今しか無え!!」



俺は再び地を踏み込んで譲に攻撃を仕掛けた。

ドドドドド!!!

今の俺は超人的な力を身につけており、目にも止まらぬ動きが可能。

それはハリセン拳によるもので、術者に莫大な戦闘能力を与えるかわりに乱用すると術者の身体と精神が蝕まれると言う諸刃の剣。



だが俺は化け物並の譲に対抗するのにこの技にかけるしかなかった。



「戦ってんぜ!戦ってんぜ!戦ってんぜ!!」



ドドドドドドドド!!!



俺は譲に隙を与えないよう攻撃の雨を譲に浴びせる。


文字通り俺の攻撃は雨が直撃するように譲に降り注いでいた。



まるで弱い者いじめをしているようでこのような事をするのは本来は好まないがやらないとこちらがやられてしまう。



それは今の譲と過ごしてきてわかったことだった。

俺は譲との戦いに負け、身も心も譲に屈服してしまい、身動きが取れない状態だった。

しかし今はユイ先輩が俺に力を貸してくれている。



それで譲に屈服してしまったらそれこそ終わりだ!

俺は譲の息の根を止めるつもりで容赦ない攻撃を譲に浴びせ続けた。



「調子に乗るな!!」



譲の身体から衝撃波が起こり、俺はその衝撃波で後方に吹き飛ばされる。



「しまった!!?」



足を踏ん張ってみせるも譲とは10メートルも離れてしまった。


「この俺が…貴様ごときに…やられ続けて…たまるか!!」


譲はボロボロの状態だったが殺気は先程よりも増していた。


譲は生粋の負けず嫌い…勝負や戦いでは相手に屈服させるまでは決して勝負をやめない奴だった。



しかし譲よ…ニートになっている時点でお前は自分自身に負けてんだよ!



譲は宙に浮き、身体を大きく左側にひねって独特な手の組み方で構え、そこを中心に空気中の核の粒子が集まって行く。



この技も譲が漫画で覚えた技だ。

下手したら町一個分どころじゃなくなる。


「町を破壊させる気か!そう言うわけに行かない!!」



俺は町は破壊させまいと同時に両手を構え、ハリセンオーラを集めさせる。



俺が放とうとしている技、名付けて『針千本』

千の針のようにハリセンオーラを発射させるレーザー粒子系の攻撃技だ。



相手に1000ダメージを与えるRPGで中盤以降必要になるか否かわからないような技だが装甲の硬い物質には必ず1000ダメージを与えるのでそう言う系には役立つ技である。


「ユズル粒子砲!!」



譲は漫画で覚えたその必殺技に自分の名前をつけてしまう癖があった。

譲は自分の名前のゆずるをかけて技に『ユズル粒子砲』と名付けた。



ユズル粒子砲は暗黒を意味したパープル色のレーザー高射となり、俺めがけて放たれる。

俺も気が溜まってきたので針千本を両手から発射させる。



ドドーーーーン!!!


互いにぶつかり、激しい衝撃が伝うがまだ終わりではない。


どちらかが押し合い、なんとしても相手の方の技を押し返さなければならない。

相手側の技に押されたらこちらの負けだ。



この勝負は負けられない!



「このまま地球のチリとなれーーー!!」


ダメだ…この現状だと相手側が俺の技を押している!

このままだと町が危ない!


「ハリセン拳3倍!!!」



俺はまたハリセン拳を重ね技を放ってしまった。

赤い闘気で俺の体は赤く光る。


筋肉が更に高潮されるが同時に身体や精神に負荷がかかり、俺は心身共に限界に達しようとしていた。



しかし相手に負けたら今度こそ俺自身も終わってしまうので何としてでも譲との戦いには勝利しなくてはならない!


俺のハリセン拳で押され気味だった俺の針千本は「針三千本」となり徐々に譲に押し返していった。



「こ、こいつまたハリセン拳を使ったかーー!

こうしてまで俺に屈服する気はないと言うのか!」



当たり前だ!

お前のような人生の負け組なんかに…誰が屈服するかよ!



もう俺はお前に情けはかけない!

ただ、心を入れ替えて真面目になるまでは俺は鬼にでも悪魔にでもなってやる!!


「高校時代は俺の従者に過ぎなかったてめえなんぞに、このユズル様が負けると思うのかーー!!」



譲のやつ、また本気を出しやがった。

しかし譲の従者とは笑わせてくれる!


俺はお前を憧れの存在としては見ていたがそれは高校時代の話だ!

いじめに屈服して、堕落した生きる屍のお前にとやかく言われる覚えはない!



「ハリセン拳4倍だーー!!!」



ついに俺はハリセン拳を4倍に使ってしまった。

今度こそ俺は終わりだ。

後は譲が更生するか、レーザー高射に巻き込まれて死ぬかの問題だが、今の俺にはそんな事どうだって良い。



ただ、この町を…俺の大好きな徳島を守ることが出来たら…これが俺の幸せナンダ…。


ドオオオオオオオオオオオォン!!!



空気中の爆発で周辺一体は衝撃波に巻き込まれた。

同時に俺の体は宙に浮く。


ーーーー


坂丸は目前にあるついたり消えたりしている光の玉をみた。


それは坂丸と譲の互いにぶつかったエネルギーが爆発を起こし、空気の塊が砕ける時に起こる光の玉だったが今の坂丸にはそれが何なのかハッキリとはわからなかった。



「大キナ星ガ…点イタリ消エタリシテイル…アァ…大キィ…♪彗星カナ…イヤ、違ウナ…彗星ハモットバーッテ動クモンナ♪」



坂丸は互いのぶつかった空気中の爆発を見て花火を楽しむかのようにはしゃいでいた。



坂丸の精神はハリセン拳の乱用により破壊されてしまったのだ……。


ヒュオオオォ…。



破壊された町には人一人おらず、ただ虚しく風が吹く音が聞こえるのみ…。


その中に倒れていた一人の男が目を覚ました。

先程坂丸と戦っていた立波 譲だ。



「うう…」


譲は起き上がる。

起き上がった譲の瞳は、希望に満ち溢れた高校時代の瞳に戻っていた。


「坂丸…」


譲は坂丸への感謝と懺悔の気持ちに襲われる。

坂丸は俺の為に…。

譲は今まで坂丸にしてきた事に大きく後悔する。

そして母親にも…はっ!母さん!



譲は自分の母親の事を思い出し、懸命に町中で自分の母親を探す。

どこかで戦いに巻き込まれているかも知れない!

例え動かないにしても、今まで育ててくれた母親をこのまま地に眠らせるわけにいかない!


譲は地を掘り返してでも母親を探した。



その結果…。



母親の残していた着物の中に一枚の手紙を見つけたのだった。

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