全ては暗黒に
「あん!あん!」
甲高く叫ぶ男性の声。
譲の家は不穏な空気に包まれていた。
「おらおら!もっといい声で鳴きやがれ!!」
首輪をかけられ、全てが肌色の状態で
そんな時、譲の部屋の入り口から静かにノックする音と母親の声が。
「譲…もうお昼だから…坂丸さんと一緒に食べて…」
母親の声はおそるおそる発しているように聞こえる。
譲は坂丸を前に突き倒し、自室のドアに向かう。
そしてバンッとドアを開けた後、母親に暴力を働いたのだ。
「今いいとこなのに邪魔すんじゃねえ!!」
「きゃあ!」
激しい譲の怒号、母親への虐待。
坂丸が正常なら譲を止める事が出来た。
正常なら…。
しかし坂丸は調教により本来の坂丸からただの従順なペットにその意思もマインドコントロールされていった。
譲は昼食を取るが坂丸はそれをうらめしそうに見る事しか出来ない。
グルルルル…。
坂丸の、腹の音が鳴る。
「ははは!いい腹の音だな!まるで演奏だ!」
譲は坂丸を小馬鹿にするように笑う。
「ご…ご主人様…俺にも…」
坂丸は空腹のあまり口から言ってはいけない言葉が出てしまった。
それは譲の調教により人間語で話すことを許されていなかったからだ。
「おかしいな?人間の言葉が聞こえたぞ?」
譲は坂丸を恐ろしい形相で睨みつける。
!!!
坂丸は表情を青ざめる。
ガクガクと体がけいれんし言うことをきかない。
「今言ったのはこの口かー!!」
譲からの激しい蹴り。
坂丸は何度も激しい蹴りを浴びせられ、体中が色とりどりになるまで蹴られ続けた。
(俺…どうしたんだろ…大事なものを忘れてる気が…)
坂丸は何かを思い出そうとするが中々思い出せず、悶々とした日々を過ごすばかりとなっていた。
ーーー
山の庵…そこでは一人の女性が瞑想を組んでいた。
ユイ・ルミナーレ、坂丸の直属の上司だ。
警察の部署は休みであるため、ユイはその間でも気を高めるために瞑想を組んでいた。
若い女性であるためショッピングなどしたり友達と駄弁ったりするのがユイと同世代の女性のプライベートの時間だがユイの場合、その間も瞑想を組んだりしなければならないのはとある事情があった。
そんな時、ユイの脳裏に女性の声が聞こえてきた。
『ユイちゃん!大変や!』
関西なまりの甲高い声。
「オゥ、Msチエ、Long time no see(久しぶり)!」
ユイは瞑想しながらその聞こえてきた声と会話を交わしていた。
側から見れば独り言しているように聞こえる。
前ページで反則がユイに対して頭のおかしい…と評価したのはその為だ。
『呑気に会話しとる場合とちゃう!譲て子と坂丸て子が大変なんや!このままではえらいことになる!』
チエと呼ばれたその声は慌てるようにユイに話しかける。
「ホワイ?Mrユズルを更生させるのはMrサカマルの任務、簡単に干渉すべきではないと申したのはMsチエだったはず…」
ユイは少し頼りない坂丸を助けようとしていたがそれはチエという声により止められていたのだ。
『それとこれとは話はちゃう!今、ウチもよう把握出来とらんかったことが坂丸と譲の間で起こっとる!何とかせんと!』
チエと言う声は慌てるようにユイに急かす。
「I'm good(わかりました)!ほんとにあのボーイはミーがいないと何もキャンッツ(出来ない)だから!」
ユイは道着をバッと脱ぎ、代わりに一枚の布を被さる。
その布は一枚の服となってユイの身を包んだ。
「しかしユーでも把握出来なかった事がリアルに起こる事ってあり得るのですか!?」
忍装束に身を包んだユイはチエに問う。
『十分あり得るねん!あんたも知っとるやろ?学生時代…』
「学生時代…?」
途中で話すのをやめたチエに復唱で問いかけるユイ。
『これ以上言うたらメタな話になるけんやめとくわ!早う坂丸と譲助けに行かな!』
「シット(わかってるよ)!」
ユイは少し英語で口調を荒げ、足を早めながら坂丸達を救出しに行った。
まあいい、彼らのところに行ってみればわかるさ!
ユイはそう思っていた。
ーーー
そして坂丸と譲の間では今日も怪しげな儀式が催されている。
坂丸は譲から服を脱ぐように言われ、河川敷の前に立つ。
「グヒヒ…これから何が起こるか知りたいか?ん?」
譲は坂丸のピンクを触りながら耳元で囁く。
「ピンクも棒もギンギンじゃねえか♪感じてんだろ?ん?」
譲は坂丸を散々言葉で詰る。
これから何がはじまるのか坂丸にもわからない。
しかしとんでも無いことが行われようとしているのは第六感でわかった。
これから行われようとする事に恐怖を覚える坂丸だが、恐怖の他にどす黒いある感情が芽生えだしている事に、自分自身にも恐怖していた。
「ハァハァ、可愛いぜ坂丸…漢同士なのにこんなにそそるなんてな…愛してんぜ♪」
譲は無抵抗な坂丸の首筋を舐め回す。
何が起ころうとしているのかは俺にもわからない…。
何か目的があって譲に近づいた筈だが何をしようとしていたのか考えるのも面倒になってきた。
まあいい…目の前のよくわからない感情に感じていれば…もう、俺にはそれしか残されていないのだから…。
よく見ると坂丸の瞳には輝きが失われており、虚ろな表情となって譲のしたいがままにされていた。
そして譲も表情は虚ろとなっている。
本当の幸せを失った者の目だ。
普通に過し、普通に遊び、普通に結婚する…。
本来の人間の楽しみを行うことすら難しく、社会に適応出来ず、ただ自堕落な人生を歩む…。
こうした譲の先行き不明瞭なマインドが坂丸にも根付いてしまったと言える。
全ては暗黒に包まれていた。
ハァハァ、バウバウ!
やがて犬の鳴き声が向こうから聞こえてきた。
見ると数匹の犬が坂丸達に近づいてきたのだ。
しかしこの犬達、何やら様子がおかしい?
「驚いたか?こいつらは発情期の犬だ、俺が高い金を出してドクターに常に発情期状態になる薬をこの野良犬共にぶっ放したんだ♪」
譲はそう坂丸にうそぶく。
そして譲は坂丸を地面に突き倒す。
「これからお前はこの野良犬共と十分に戯れてな!俺は好きなアニメ映画でも見にいくからよ!」
「ガルル!」
数匹の犬は坂丸に襲いかかった。
「嫌ぁ!助けて!ご主人様!!」
坂丸は自身に起こる危機にようやく気づくが後の祭り、複数の犬は交代交代に坂丸に襲いかかり、
坂丸は身も心もボロボロにされていった。
ーーー
「ああもう!Care is burning(世話の焼ける)!!」
ユイは半ばキレ気味になって坂丸を救出しに行っていた。
そんな時、何か鋭利なものがユイめがけて飛んできた。
「!!」
ユイはそれに反応してハリセンでその鋭利なものを弾き飛ばす。
それは投げナイフ、投げナイフは地面に物音を立てながら転がっていった。
「ユイ・ルミナーレ!そこから先は通さぬ!!」
ユイの目前に現れたのは執事がユイを捕らえるように命令した数人のエージェントだった。
黒い背広を着たいずれもガタイの良い強面の精鋭達だ。
「シット!何もかもミーのプログラム通りには行かないわね!」
ユイは悔しそうな表情をし、ハリセンを構える。
「そう言う事だ!捕らえろ!!」
漢達はユイを捕らえようと前に出た。
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