第15話 思い出・パリパリ・かき揚げ蕎麦(後編)

 ☀☀☀


「今日もごちそうさま……じゃあ、また明日ね」

「お粗末様です。また、明日」


 片付けを終え、しばし氷彗と話したら、また研究の再開だ。

 うららは休憩室の廊下で、氷彗を見送った。


 その背中を見て、半日前のオープンキャンパスを思い出した。


 ☀☀☀


「……おそらく、彼の妹さんのことでしょう」


 オープンキャンパスのお昼時。

 学生会館の壁際で、うららは田宮の答えを聞いた。


「妹さん、ですか? もしかして、その方も研究者とか?」


「えぇ、そうです……雨晴水星さん。バックグラウンドは違いますけど、僕たちと同じく研究対象は生体高分子でした。塔山さんも、どこかの学会誌で名前を見かけたのかもしれませんね」

「なるほど……」


 その可能性はありそうだ。


「教授は、その水星さんに会ったことは?」

「えぇ、講演会で何度か。非常に興味深い分子ガストロノミーの仕事をしてました」


「分子、ガストロノミー?」

「聞いたことありませんか? ざっくり説明すると、分子論に基づいた調理科学ですよ」


 調理科学——

 その言葉に息を飲む。

 パズルのピースが、綺麗にはまった気がした。


 確信めいたものを感じて、うららは好奇心ままにさらに尋ねた。


「それで、その方は今どこで研究してるんです?」

「…………」

「教授?」


「…………本当、残念な出来事でした」

「え?」


 歪な会話のつながりと重苦しい声のトーンに、うららは嫌な予感を覚えた。

 瞬間、ジワリと冷や汗が手の平に滲んで、鼓動が落ち着かなくなる。

 

 うららは固唾を飲み込んだ。


「もう、三年ほど前になりますね。海外の招待講演のために乗った飛行機が、事故に遭って……亡くなられたんですよ」


 田宮の答えに、次々とパズルのピースが綺麗にはまっていく。


 その結果、浮かびあがったのは謎を解いた爽快感でもなんでもない。

 どうしようもなく、やるせなく悲しい想いだけだった。

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