日本で二番目に小さかったデパートの話

 もう今は無くなってしまった小さなデパートの想い出です。


 両親が共働きだったこともあって、幼いわたしの面倒を見てくれたのは、同居していた母方の祖母でした。


 行儀作法には厳しく怒られもしましたが、忙しい両親の代わりによく一緒に買い物に連れて行ってくれたものです。


 その頃、地元にはYというデパートがあって、真偽のほどは兎も角、日本で二番目に小さいデパートと言われていました。


 確かにその頃でも、お客さんよりも従業員の方が多いんじゃないかなと子供心に思うくらい閑散としていたのを覚えています。


 実はわたしのお目当ては、買い物が終わった後に祖母が連れて行ってくれる、デパートの地下にあるタコ焼き屋さんにありました。


 いえ、特別タコが大きいとかでもない、普通のタコ焼き屋さんなんですが、お店の前に丸くて赤いビニール椅子が置いてあって、焼きたてホヤホヤのをその場で食べれたんです。


 祖母と並んで椅子に座り、お店のおじさんが魔法のように!(そう見えた)タコ焼きを作っていくのをワクワクしながら見つめます。


 あ、タコが入った!キャベツ入った!すごーい丸くなっていく!紅しょうが好き!ソースはタップリめがいいなぁ。かつお節粉と青海苔もたっぷりお願いします!


 心の中で話していると、ホカホカタコ焼きが白くて丸いお皿に乗せられて爪楊枝つまようじを刺されて登場です。


 焼きたてタコ焼きは火傷しそうに熱々で、外はカリッとしているのに中はとろっとして、時には少々生焼け気味だったりもしましたが、なんのなんの、余熱でOKなのでした。


 その美味しかったこと!


 ひと皿をペロリと平らげて満足のため息をつくわたしを祖母がニコニコ見ています。

 美味しかったねぇと顔を見合わせていう幸せ。


 デパートはもうずいぶん昔に立体駐車場へと姿を変えました。

 祖母も天寿を全うして、もう空の住人になって久しいです。


 でもあのタコ焼きの味と祖母と手を繋いでまわった日本で二番目に小さいデパートの想い出はずっとわたしの胸の中にあります。

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