エピローグ

「おっ、帰ってきたか」


 空港から会社に戻ったら、事務所で水戸が出迎えてくれた。

 といっても、自分のデスクでPCとにらめっこしながらであるが。


「まだ仕事してたのか?」

「まあ、どっちかっていうと情報収集かな?」


 どうやら自社についてのエゴサからの、ネットサーフィンに勤しんでいたらしい。

 色々と取り扱いに注意しないといけない商品もあるからか、こういったネットでの情報収集に余念がないのは悪いことではないが。

 生憎と、そこまで話題になるほど大きな商売をしているわけでもない。

 中には単価の高い商品もあり、好事家からは一定の評価を受けていたりもする。

 特にパーティ用のドレスなんかでは、古臭いながらも格式あるものを販売してたりもする。


「こんな時間なんだから直帰でも良かったんじゃないか?」

「まあ、そうだけどお前が会社にいるのは分かってるし、顔くらい見せとかないとな」

「そんな気を使わなくてもいいのに。コーヒー飲むか?」

「ああ、もらおう」


 すでに夜の9時を回っていることもあり、会社にはここに寝泊まりしている社長の水戸しかいない。

 社長自らコーヒーを入れてくれるのは以前勤めていた会社じゃ、想像もつかないが。

 まあ共同出資者だし、同級生という側面が強いので2人の時はわりとこんな感じでフランクにやってたりする。

 社長といえば聞こえがいいが、社長に常在できるという面もあっての役割分担的に決まったところが大きい。


「今回は、ベトナムだっけ?」

「ああ、一応入出国はきちんと済ませてきたよ」

「少しは観光とかしたのか?」

「いや、いつでも行けるとなるとあまり食指も動かなくてな。テレビで気になった料理を屋台で食べたくらいかな?」


 転移でいつでも行き来できることもあり、海外に行ってもそこまで精力的に行動したことはない。

 不意に家族にパスポートを見られた時のために、海外に行った証拠としてのスタンプを集めているような感じかな。

 実際にはホテルについたら、そこから転移であっちに行ってるわけだし。 

 酷い時は駐車場から転移であっちに行くこともある。


「そうそう、仕入れたものは週明けに倉庫に出すとして、またお土産貰ってきたぞ」

「人に見せられないものが、だいぶマンションにたまってるんだけど?」


 会社で寝泊まりしてるくせに、マンションを買ったのはどうかと思うが。

 今じゃ、人に見せられないものを置く倉庫と化している。

 今回水戸に持って帰ったのは、ネスト伯爵に貰った風の魔石で動く送風機だ。

 氷の魔石を砕いたものが羽に散りばめられていて、いつでもどこでも冷風を浴びることが出来る。

 湿度の高いネストの街で、富裕層に人気の逸品らしい。

 それなり以上にお高い。

 

「デーソンのヒート&コールドって感じか? 電池式の扇風機と大差ないな」

 

 魔石に魔力を流し込まないと使えないので、俺が魔力を込めた特殊な石と送風機の魔石を回路でつないで石を指で押し込むと風が吹くように改造してある。

 身もふたもない感想が返ってきたが、俺もそこまで過度な期待はしていないので特に気にした様子もなく水戸にそれを押し付けて代わりにコーヒーを受け取る。


「結局こうしてみると、化学って魔法ってことか」

「科学の方が上をいってる分野もあるぞ? 兵器なんかは特にな」

「物騒だな」

「そりゃそうだろう。魔法は素養がないと使えないけど、銃は誰が引き金引いても同じ威力の殺傷能力があるからな」

「確かに」


 個々の能力でいったらあっちの人の方が強い人が多いかもしれないが、戦争となったらどうなるかは分からない。

 こっちは誰でも重火器が撃てるわけだし、向こうの集団広範囲殲滅魔法がこっちのミサイルなんかとどっこいだとすれば……

 さらに詠唱に時間をかける魔法と違って、こっちは指先一つで攻撃が出来るわけだ。

 無論防衛能力に関していえば、相手の方に軍配があがるだろう。

 結界魔法や障壁魔法なんてものも存在するし。


「まあ、とりあえずそれ渡しに寄っただけだから、もうあがらせてもらうわ」

「別に週明けでも良かったんだけどな。俺もやることないし、せっかくの花金だ。一杯どうだ?」

「別に構わないぞ。一応日本に戻ったことだけ、家に連絡しとくわ」


 それから一十美に帰国したことと、水戸と飲みにいくことを伝えてから俺の車で街へと向かう。

 場所は普通に居酒屋チェーンの代表格的なお店だが、2人ともグルメってわけじゃないので十分だ。

 酒を飲みながら学生時代の思い出話や、俺の異世界冒険譚を聞かせたりして日もまたぎかけたくらいに解散する。

 水戸はタクシー、俺は代行だ。


「ふう……」


 玄関を開けて家に入ると、リビングに灯りがついているのが目に入る。

 起きててくれたのか。


「お帰りなさい」

「ああ、ただいま」


 そのまま部屋に入ると、一十美が出迎えてくれる。

 ゲームでもしながら暇をつぶしていたのだろう。

 こちらを振り返って微笑みかけてくれた彼女は、スマホをテーブルに置いて台所へと向かう。

 テーブルの上のスマホの画面は、一十美がはまっているパズルゲームの画面だった。

 ちらっと見たらレベルが1600いくつだとか凄いことになってたが。

 このレベルがクリアしたステージの数そのままなので、相当にこのゲームをやりこんでいるのがうかがえる。

 逆にいえばそこまでパズルゲームが捗るほど寂しい思いをさせてるのかと、ちょっと複雑な感情もあったり。


「先にお風呂済ませてきたら? お茶漬けくらいならすぐ出来るし」

「そうだな。汗もかいたしそうさせてもらうよ」

「ビールは?」

「一本だけ飲もうかな」

「ふふ、じゃあお風呂からあがったら出すわね」

 

 風呂に入って汗を綺麗さっぱり流すと、リビングでビールを飲みながら漬物をつまむ。

 流石にお腹が割といっぱいだったので、お茶漬けよりも口におぼえがよくてさっぱりとした漬物が当てに丁度いい。


「これお土産な」

「ありがとう」

 

 ベトナムの露店で買った装飾品と、空港で買ったお菓子を広げつつ首をゆっくりと回す。

 子供たちの普段の様子を一十美から聞いて、家を空けがちであんまり良い父親じゃないなと反省。

 明日は早起きして、子供たちを連れてどこかに行こうかな。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る