第10話:冒険者稼業
「ようやく試験も終わったし、夏休み突入!」
「試験って、国元に帰ってたの?」
「まあ、そこらへんは秘密かな?」
大学3年の前期はレベルアップのお陰か、単位を一つも落とすことなく夏休みへと挑むことができた。
約2カ月半……こっちだと1年近く過ごすことが出来る。
間で一十美とのデートや、ゼミの飲み会、友達との約束もあるからまるまるこっちにいるわけにもいかないけど。
計算しつつ、向こうに帰る日も考えないと。
「それにしても……なんで私がE級で、あんたがすでにD級なのか理解に苦しむわ」
「マリアのE級って殆ど、俺のお陰だよね?」
「まあ、それについては否定しないけどさ」
マリアが予想通りというか、気持ちだけは立派なのだが。
いかんせん実力が追い付いていない。
そのくせに、難しい依頼を受けようとする。
どうやらぼっち期間が長すぎて、2人ならなんでも出来ると思ってる節があるらしい。
「まだそいつと組んでるのか? そろそろ考えても良いんじゃないか?」
冒険者ギルドで依頼を物色していたら、若い男が声を掛けてくる。
5人組の冒険者パーティでドラゴンスレイヤーのリーダー、エネルだ。
といっても、彼らは別にドラゴンを狩ったことがあるわけじゃない。
あくまで志をパーティ名にしただけ。
新人パーティにありがちな、分不相応なパーティ名だ。
エネルは俺と同じD級冒険者だが、他のメンバーはE級とF級のみ。
正直、マリアと大差ない。
確かに彼は実力があるとは思うが、どうやら他のメンバーを一人で面倒見るのに限界を感じてきたらしい。
それで登録から瞬く間に頭角を現した俺に、目を付けたと。
自分で頭角を現したとか言ってて恥ずかしいが、事実だ。
「逆にエネルがこっちに来たらいいんじゃない? 俺とエネルの2人ならマリアのパワーレベリングも捗るし」
「いや、お前がこっちに来たらうちのパーティの育成に……」
「ちょっと私をお荷物みたいに言わないでよ!」
「ちがうの?」
「ちがうのか?」
マリアが不満げに文句を言ってきたが、俺とエネルがはもったことで口をモゴモゴさせる。
本人も少しは自覚があるらしい。
とはいえ、特に異世界での目的もなく冒険者のいろはも知らない俺を、色々と知識面で助けてくれた恩もある。
いい加減な情報も、少なからずあったが。
助かっていることの方が多い。
さすが、チュートリアルメンバー。
「まあ、共同で依頼にあたることは検討するけど、今はまだマリアと一緒で良いかな?」
「まだ? で?」
「そりゃ今をときめく期待のホープと、万年F級のぼっち魔法使いじゃそうなるだろう」
「エネル言いすぎだよ!」
「もう、2人して私のこと馬鹿にして!」
「俺は違うだろ!」
「言葉の端々に見下してる感があるし!」
ちょっと揶揄いすぎたらしい。
しかし、何も意地悪で言ってるだけじゃない。
本当にマリアは自信過剰というか、考えるより行動というか。
危なっかしいところが多い。
特にこの自信過剰というのが、いただけない。
俺という保険があるせいで、一時期割と無茶な行動が目立った。
まあ、俺というストッパーのお陰で大事には至ってないが。
最悪、転移でどうとでもなる部分はあるのだが……
「じゃあ、頑張ってレベル上げと経験を積んで、見下されないようにしないと」
「そういうところよ!」
「しょうがない、俺からしたらまだまだ子供なんだから」
「むぅ……」
「ユウキって意外と歳いってるんだよな?」
「ああ、21だ」
「どう見ても、そうは見えなんだよなー」
俺の歳を聞いたエネルが、半信半疑だが。
「まあ、うちのお国の人間は顔が薄いからな。若く見えるんだろう。みんな、似たような感じだ」
「それはそれで、ちょっと興味あるけど。まあ、また気が変わったら声かけてくれよ」
「ああ、手伝いくらいなら2人で出来るから、その時は声かけて」
「おう」
勧誘を諦めたエネルを見送って、マリアの方を振り返る。
それから少しかがんで、目線を合わせる。
「マリアはまだ若いんだから、そんなに焦らなくてもいいさ。自分のペースで強くなっていこう」
「子ども扱いして! まあ、確かに1人じゃここまで来られなかったけどさ」
そっぽを向きながらもそんなことを言うマリアの頭を、優しく撫でてやる。
なぜか子ども扱いは嫌がるくせに、頭を撫でられるのはそんなに嫌じゃないらしい。
目線を合わせようとはしないが、手を振りほどくこともない。
「じゃあ、今日は前からマリアがやりたがってた討伐依頼でも受けるかね?」
「良いの?」
「良いけど、ホーンラビットかグリーンワームくらいからだね。ゴブリンはまだ早いかな」
「うん! うん? ええ……兎を殺すのはちょっと。あと大きい芋虫も、あんまり」
それを言ったら手ごろな依頼が無いのだが。
俺からしたら、人型のゴブリンよりはまだ抵抗が少ないんだけど。
「狼は無理だろう……蜂も、ならちょっと程度は落ちるけど、スライムくらいか?」
「うん!」
スライムは良いらしい。
あれもあれで、可愛くないことはないと思うけど。
取り合えず受付で、スライムの討伐のためにソーバ平原に向かうことを伝える。
一応の保険だ。
帰りが遅かったら、そっちに用がある冒険者に様子を見てもらうように、ギルドから話がいくからだ。
初心者の特権だな。
マリアは嫌がるけど。
「子供のお使いじゃないんだから」
「マリアは子供だけどな」
「むぅ」
それから街をでて、ソーバ平原へと向かう。
周囲には冒険者らしき姿は見えないが、まったく人がいないわけでもない。
採集作業に来てる人や、街と街を移動する人の姿がちらほらと。
そういえば、困ってる人を助けたり、悪人を懲らしめたりってのは全然やってないな。
「その棒を振り回すのやめてくれない? なんか子供のピクニックみたいで気がそがれる」
「そう? お陰で剣スキルも棍スキルも、杖スキルも上がってるけど?」
「本当に意味がわかんないよね、そのシステム」
スキル向上のために、小枝を拾って振り回してたら嫌そうな顔をされた。
マリアにもおすすめしてるのだが、恥ずかしいらしくやってくれない。
それなら、宿の部屋とかでやってた方が良いとは伝えてあるが。
たぶん、やってないんだろうな。
そう思いつつも、こっそり鑑定スキルを発動させる。
片っ端から目利きスキルをつかってたら、3日くらいで使えるようになった。
それからしょっちゅう鑑定スキルを使ってるので、これもそれなり以上にレベルが上がってる。
そしてちゃっかりとマリアに杖スキルが顕現してるのを見つけて、なんだ自分もこっそりやってるんじゃんと思ったのは秘密だ。
「スライムいたよ」
「なんでそんなにすぐに見つけられるのよ」
「気配察知スキルのおかげかな?」
気配察知スキル……これは、宿の室内で廊下の人の歩く足音や気配、あとは街の通りで目をつむって人の気配をずっと探っていたら顕現した。
いやあ、便利だわ。
見えるわけじゃないけど、360度生き物の気配を感じることが出来る。
集中を高めたら、虫の気配まで感じられるからな。
範囲はまだまだ狭いが、それでも見晴らしのいい平原なら割とサクサクと生き物を見つけることが出来る。
今回はスライムを一匹みつけてから、その気配を元に周囲を探っている。
そのうち、スライムソナーとかってスキルが顕現したりして。
「なんていうか、器用よね。あんたの国の人ってみんなそうなの?」
「あー、スキルのことに関しては、俺の専属の教師が良かったって感じかな?」
まあ、神様直伝のスキル情報だからね。
地図と一緒で、一通り頭の中に突っ込まれてる。
本当にチートらしいチートは無いけど、それでも十分すぎる。
スライムを50匹ほど狩ったところで、街に戻ることにする。
「本当に出鱈目よね」
「これでもレベル14あるからね」
「おかしいでしょ! 普通に成人するまで生活してたらもっとあってもいいはずなのに」
大体普通に生活してても、21歳といったらレベル15~6は超えるらしい。
まあ、召喚された時点でレベル1だし、しょうがないよね。
そのレベル1のステータスが、レベル15~6の成人と同じ程度だから。
まあ、確かに召喚者はチーター扱いされるかもしれないか。
びっくりするほどの、能力差じゃないみたいだけど。
「マリアは?」
「私も14になったわよ! この年齢なら、高い方なんだからね!」
「一緒だね」
「一緒なのに、なんでこんなにステータスに開きが出てるのか、不思議でしかないわ」
各種ステータス強化も頑張ってるからね。
しかしモンスター相手でも十分通用することも分かったし。
そろそろスキルコレクターとしての血が騒ぎだしてきた。
目指せコンプリート!
「買い取りお願いします。あっ、こっちは依頼分です」
「はい、じゃあ10匹分の核はこっちで預かるから、残りはあっちの買取所に持ってってくれる?」
「分かりました」
ギルドの受付に素材を提出する。
定番のスライムの核と、スライム粘液だ。
依頼分は1匹あたり銅貨5枚。
それ以外は1匹あたり銅貨1枚だ。
スライムの素材が1匹あたり100円か。
すぐに見つけることが出来るから、1時間で20匹は狩れるから……
スライム狩るだけで、時給2000円。
異世界で暮らすのって、割と楽勝かも。
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