第5話:アクセーイ王国

「……わ、早速だが話を聞いてもらおう」


 魔神様が消えてすぐに、偉そうなおっさんが話し始めた。

 そういえば、話の途中で止められてたんだっけ?


 転移のやり方だけは習った。

 あとの各種スキル等はパッシブスキルの加護以外は、一つももらっていない。

 コツコツと覚えていく主義なのだ。

 ちなみにこっちの世界と地球では時間の流れに大きく違いがあるらしく、この世界での1日はあっちの世界では6時間程度とのこと。

 なんでも星の動きの速さが違うらしく、なんちゃらかんちゃらと説明されたが半分も理解できなかった。


 そんなことはどうでもいい。

 えっと時間の流れが4分の1で、コマを一個開けてたから次の講義まで1時間以上暇があるわけだし。

 4時間弱は、こっちに滞在できるのか。


「聞いておるのか?」

「えっと、聞いてませんでした」


 えらそうなおっさんが、いきなり声をあげたのでちょっとびっくりした。

 色々と考えることがあるのに。


「おぬし、無礼ではないか!」

「アクセーイ王の言葉を無視するとは、此度の勇者様はなんとも」

「いや、呆けておっただけかもしれんぞ? 見よ、あの間抜けそうな面を」

「あら、私はあのきょとんとした表情、可愛らしくて好きですわよ?」


 何やら、周囲の騎士やら貴族っぽい人、なんかローブを着た人がひそひそと話しているのがよく・・聞こえる。

 聴覚があがってるのかな?

 なんとなく視界もぼやけているので、眼鏡をはずす。

 おおおおおお、凄い良く見える。

 

「わしの話を聞かんか!」

「えっと、はいなんでしょうか?」


 俺の返事に、周囲の人達が噴き出している。

 よっぽど間抜けに見えたのだろう。


「ふう……少しねじが緩いようじゃの」


 ネジなんてあるのか。

 割と、建築や製造が発達してるのかな?

 それとも木ネジ的なものとか?

 確か大昔は巻貝をネジのように使ってたとか、使ってないとか。

 まあ、いいや。


「とりあえず、ここはどこであなたは誰ですか?」

「当然の疑問じゃな、ここはアクセーイ王国でわしが国王であるレオ・ペルトナ・フォン・アクセーイだ!」

「どうも初めまして、ナリミヤ・ユウキです」

「ユウキか、お主を呼んだのは他でもないこの世界の平和の為じゃ! この大陸にあるジャマー帝国の皇帝が魔王に乗っ取られ、悪政の限りを尽くしておるらしい」


 魔神様の話じゃ、あんたも大概だけどね。


「そしていま、各国に対して侵攻を始めたと。ゆえに、お主にはその皇帝を倒してもらわねばならぬ」

「分かりました、協力しましょう!」


 まあ、その日は大学の講義をさぼることにして会食に参加したり、色々と詳しい話を聞いて寝室に案内された。

 綺麗な女性が夜中に訪ねてきたけど、どうせあれな女性だろうし病気も怖かったので中に入れることなく追い払った。

 違った……この国の王女様だった

 その後もしつこく付きまとってきたので話を聞いたら、どうやら父親の陰謀を知ってたらしく、俺に警告しようとしてたらしい。

 

 まあ、この時にはすでにヒトミと付き合っていたのでフラグは立たなかったけど。


「そろそろかな」


 ある程度の知識も得たし多少は戦えるようになったこともあり、この国から出ようと考えたのは4日目になってからだ。

 レベリングもしてもらって、レベルは7.

 高いんだか低いんだか。

 武器も防具も、鉄製のものを貸してもらっている。

 さらに装飾品として、隷属の腕輪もつけてもらった。

 まあ、ステータス異常無効さんが良い仕事をしてくれているので、まったく効果ないけどね。

 

 取り合えず書置きだけのこして、一旦日本に戻る。

 召喚前の持ち物は全部あるので、大学の自転車置き場に転移して自転車ごと転移して家に帰ってきた。

 流石に鉄のプレートアーマーやら、鉄の剣やらは目立ちすぎるからね。

 たぶん転移での移動なら、隠蔽効果がなんとかしてくれるでしょう。 


 久しぶりの日本だけど、こっちじゃ1日しか経ってないんだよね。

 1日か……長居しすぎたか?

 バイブの鳴りやまない、携帯電話を取り出す。

 不在着信通知が4件と、メールが120通。

 うち100通くらいは迷惑メールだけど。

 本当に迷惑だ。


「えっと、たかしと一十美からか……たかし3件もなんだ?」


 とりあえずたかしからかな?


「おお、電話出た!」

「どうした?」

「どうしたじゃねーよ! お前、昨日どこ行ってたんだよ。トイレに行くつって、そのままぶっちしやがって」

「ああ、ちょっと異世界に」

「はあ? いや、マジ電話も圏外だし、ちゃりもそのままだし」

「まあ、急用で」

「まあ、無事ならそれで良いや」

「おおう、すまんな」


 たかし良い奴。

 と次は一十美か。


「ユウキどこ行ってたの? 電話は圏外だしメールの返信もないし」

「異世界? まあ、携帯圏外だからメールも見れないからそこは当然じゃない?」

「はっ? ふざけてないで、ちゃんと答えなさい」

「はい、すいません。色々と深い訳があって、言っても信じてもらえないのであれですが、場所的には大学的なところかなと。とメールはいま絶賛受信中です……送りすぎじゃね?」

「大学から帰ってないってこと? なんで?」

「うぉ、メールの数はスルーかい! うーん、やましいことは無いんだけど、本当に厄介事に巻き込まれたとしか言えない。ごめん」

「まあ、こうして連絡取れたから良いけどさ。せっかく今日明日とバイト休み取れたから、遊びに行こうかと思ったのに」

「土日に休めるって、凄いね。今からなら暇だよ?」


 一十美はこの時はフリーターで、バイト掛け持ちしてたから事前に予定立てないと休みが合わなかったんだけどな。

 たまたまお店の方の機材トラブルで休みになったらしく、一緒に遊ぼうと思ってくれたらしい。

 ただ連絡付かなかったから、両親と弟と妹とすでに車で遠出したあとだった……

 残念。

 アクセーイ王国許すまじ!

 

 次の月曜日に大学にいったら、鉄の鎧を身に着けたと剣と自転車を持った男の話題になっていた。

 一瞬だけだったが、大勢の目撃者が居たらしい。

 集団幻覚か、幽霊か……まあ、大学が大事にしたくなかったのか、外に漏れることは無かったけど。

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