第4話:冒険王成宮と魔神メフィアスの出会い

「お帰りなさいませユウキ様」

「ああ、戻ったよ」


 それから地元の空港に車で向かい、転移で俺が召喚された世界エルネスへと戻る。

 拠点にしている城の自室に戻ると、メイドのミレニアが声を掛けてきた。

 ここヒトミールは俺の国だ。

 俺を召喚した国でもある。

 とにかく痛い国で、とっとと逃げ出したけど目に余る行動が多く戦争というかクーデターというか内戦というか、とにかく武力で王族を全て追い出して奪い取った。

 その王族の下で甘い汁を吸ってた貴族連中はのきなみ独立して共和国を樹立したが、今じゃ全て属国にしている。

 ぶっちゃけ広大な領地運営なんて出来る気がしないので、ある程度好き勝手やらせているが。

 逆に愚王の悪政を嘆いていた貴族の大半は協力を申し出てくれたな。

 俺がトップで、選挙で選んだ宰相と大臣連中が実質の運営をしている。

 任期は3年。

 3年毎に選挙を行うようにしている。

 国民投票によって決められるため、皆国民のために頑張ってくれている。

 

「さてと、早速だけどナンブー王国の冒険者ギルドから指名依頼が入ってるから、ちょっと行ってくるわ」

「今回は供のものはどうされますか?」

「良いよ、一人で行ってちょちょっと……いや、マリアを連れていくか」

「マリア様をですか?」


 マリアというのは俺が冒険者になる前から付き合いのある、クレリックの女性だ。

 いまは枢機卿の地位と聖女の称号をもっている。

 光の精霊王の加護を貰ってるし。


 マリアが王国側に味方すれば、多くのレジスタンスの心が揺れるだろうな。

 彼女の実績とネームバリューはばかには出来ない。


 そう言えば、マリアと出会ったころは、俺はまだ学生だったな……

 ヒトミールの前身である俺を召喚したアクセーイ王国。

 そこの王城から逃げ出して、途方に暮れていた俺を救ってくれた女性でもある。

 あっ、別にやましい関係とかではない。

 俺はヒトミ一筋だ。


 懐かしい……


***

「よく来たな、勇者よ」

「は? えっ? ちょっ!」


 慌てて手をズボンでふく。

 大学でトイレに入って、手を洗って鏡を見てたら中世の豪華な部屋っぽい場所が映りこんでいた。

 そして次の瞬間、鏡に吸い込まれてしまったのだ。


 状況が飲み込めないが、よく来たなってなんかセリフ的にどうなのだろうと思ったのを覚えている。


「さてと、で……」


 目の前の豪華な衣装に身を包んだ偉そうなおっさんがこっちに手を伸ばそうとした瞬間に固まってた。

 何事かと思ったが、どうも周囲の様子もおかしい。

 ざわざわと人の気配があったはずなのに、それが全て消えて静寂に包まれている。

 気になって周りを見渡すとローブを着た人や、鎧に身を包んだ人も多くいたが彼らも瞬きすらせずに止まっている。


「おお、可哀そうな迷える子羊よ。この度は、災難であったな」

「え? あっ、はいっ?」


 背後から突然声を掛けられて、思わず飛び上がりそうになった。

 用を足したあとで良かった。

 前だったら、少し出てたかもしれない。

 ゆっくりと声がした方向に振り返る。


 本当に用を足したあとで良かった……

 なにこの怖い化け物。

 山羊の顔に人間の身体。

 目が5つもあるし、角がとにかく凶悪な形をしている。

 そして真っ黒。 

 口から覗く牙と、真っ赤な舌がさらに恐怖心をあおる。

 食われる!

 間違いなく、食われる!


「ああ、すまんすまん」


 次の瞬間化け物がイケメンに変化した。

 少しだけほっとする。


「私は魔神メフィアス。悪魔と魔族の神にして、召喚と転移を司る神である」

「悪魔の神って……」

「そう警戒するな。悪魔と魔族担当というだけで、他の神共となんら変わりはない」


 そうですか。

 なんだろう、警察でいう丸暴みたいな感じかな?


「この愚かでアホな救いようのない国が、悪魔召喚の魔方陣をいじってお主を召喚したのだ」

「はあ……」

「なんでも、異世界から召喚されたものは凄い力を持っているという、根拠のない情報を元に」

「へえ、持ってないんですか?」

「持ってるわけないだろう……どこをどうやったら、世界を渡るだけで力が手に入るというのだ。まあ重力が軽い世界とか小人の世界に転移したなら、かなりの力を持っていることになるだろうが、逆だったらただの雑魚でしかないじゃないか」

「なるほど」


 俺も愛読している召喚転移ものの展開らしいが、特殊な能力は持ってないらしい。

 残念だ。

 凄く残念だ。


「まあ、強いていうなら、ゲームなどをしていればその知識が役に立つことは多いな……努力をすればだが。効率的なレベル上げや変則的な強化方法などを有利に行えるからな」


 へえ、レベルとかってシステムはあるのか。

 

「で、えっと……」

「いやお主が一般人だとばれた瞬間に、殺される未来が見えたから救いに来ただけだ。本来なら未然にこういったアホな召喚は防ぐのだが、ちょっと用を足している間に発動してしまったようだ」


 ……そんな理由で。

 まあ24時間365日常に見張っているのは不可能だもんね。

 

「寝ていてもすぐに察知できるのだが、流石にトイレに入ってるときは……まあ、プライドが邪魔して手遅れになってしまった。すまぬ」

「いえ、えっと魔神様が善意でやられてることですよね? だったら驚きこそすれど責めることは出来ませんよ。現にこうして、様子を見に来てくれてるわけですし」

「ふむ、お主なかなか肝が据わっておるな。神を相手にしても自然体でおられるとは」

「いやいや、驚きすぎて逆に冷静になったというか。途中から、これは夢かなとかって思ってきてたり」


 うん、なんか色々と想定と違う展開過ぎて、都合の良い夢でも見てるのかなと思わなくもない。

 願望的な。


「おぬし、わしの手伝いをせぬか?」

「手伝いですか?」

「うむ、神の使徒となって、この世界に秩序と平穏をもたらす仕事じゃ」

「いや、自分はそんな大それた人物でもないですよ?」


 なんか、面倒な話になってきた。

 帰してもらえるんじゃないのかな。


「なにわしが与える加護の力で、困っている人を助けたりアホな連中を懲らしめるだけの簡単なお仕事じゃ」

「仕事……ですか?」

「うむ、見返りは地球内の全ての地に転移する能力と、この世界の全ての地に転移する能力、無論隠蔽効果つきじゃ。いきなり転移しても他人には元からそこに居たように思わせることができる」

「なにそれ、凄く便利!」

「世界規模で混乱を起こさないなら、多少の悪用は目を瞑ろう」

「うわ、緩い!」


 とっても魅力的に思えてきた。

 悪用って、金庫に忍び込んだり、女性の部屋に侵入したり?

 いろいろできそうで、悪用の規模がしょぼい。

 いや、俺の思考が貧相なだけか。


「その二つくらいしか咄嗟に思いつかないなんて、なんとも良い意味で残念な奴じゃのう。まあどちらもあまり宜しいとは言わんが、悪人から金を奪い取るとかなら悪用ともいえんし。凄く安心できそうな奴でよかった」

「はあ」


 いや、別にまだ受けるとか言ってないんだけど。

 それと褒められてるのか、ディスられてるのか判断に困る。


「神の加護は直属の使徒には最上級のものをつける。病気や怪我に強く、毒や呪いなんかも受け付けない……分かりやすく言うと各種ステータス異常無効じゃ」

「うぉ、チート」

「火傷や凍傷、巻き爪や虫歯、水虫なんかも防げる」

「色々と有難い」


 火傷や凍傷を防げるってかなりのチートじゃん。

 同列に巻き爪や虫歯が入ってるのがなんとも言えない。

 俗っぽいところを感じる。


「死んだらなんと日本のお主の部屋の布団で復活する機能もつけておこう!」

「やります!」


 とっさに返事をしてしまったが。

 死んでも大丈夫っていう保険があったら、やるしかないでしょう!

 いやまて、仕事というからには報酬的なものは……


「報酬は、まあこの世界の通貨で支払うとしよう。金に困らなければ、人はそうそう悪事なんて働かんからの」

「うーん、ある意味で真理」

「個人の趣味趣向での犯罪はどうしようもないが。スリルがーとか、人の苦しむ姿がーみたいなのはのう」

「確かに……」


 幸い俺はそんな変態な趣味もなければ、サイコパスでもないし。


「じゃからこそ、キミに決めた! のじゃ」

「取って付けたような。まあ、でもかなり魅力的ですね」

「さっき、やりますって言ったから契約は成立しておるぞ?」


 おおう……両手と両ひざをついたが、まあ悪いことは無さそうなので、よしとしよう。


「それでは、お主の行く先に幸多からんことを」

「魔神様に言われると、なんとも……」


 そして気付いた。

 結局召喚されて、チートを手に入れていることに。

 これ、根拠の無い情報が真実味を帯びてくるやつじゃないか……

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る