第3話:商品

「相変わらず、馬鹿力だな」

「まあ、あっちで上げたステータスそのままだからな」


 異空間収納からフルプレートアーマーを片手で取り出していたら、丁度倉庫に写真を取りに来た水戸が感心したように声を掛けてきた。

 軽く40kgくらいはある立派なものだが、これを来て歩ける日本人はいるのかな?

 いるだろうけど、魔物とかと戦えない気がしないでもない。

 日本には熊とか猪くらいしかいないけど。

 あとは野犬くらいか?

 この辺りの野犬は野生を失くして、色々と集落の人に恵んでもらってるけどな。


 異世界ではレベルアップシステムやら、魔法にスキル、ギフトに加護などなどファンタジーの心躍る要素が各種揃っていたが。

 こっちでも問題なく使えたのには、苦笑いしかでない。

 治療魔法なども使えるが、医療現場でかなり有用に使えるだろうけど目立つのが嫌なので水戸にすら内緒にしている。

 一度隠蔽スキルで病院に忍び込んで片っ端から治していったが、手の届かない人達を救えないことに罪悪感と虚しさを覚えて親しい知り合い以外は手を出さないことにした。

 偽善以下の自己満でしかないうえに、保身を第一に考える自分が酷く薄汚れた存在に思えたのが一番大きいだろう。

 人を助けてトラウマになるとか……


「正直転売ヤーやるよりも、スポーツの世界に殴り込みかけた方が稼げそうだが」

「ははは、そんなに目立ちたくないからな。でも、KOTAROUくらいは出ても良いかなと思うときはあるけどさ」


 アスリート無双の道の方が奇跡の治療師よりは、よっぽど現実的だけどな。

 KOTAROUとは、いわゆるアスリートや身体を鍛えぬいた多種多様な職業の人達が参加する大型アスレチック攻略のTV番組だ。

 子供達もたまに見て目を輝かせているから、良い恰好を見せられるかもと思ったことはある。

 けどまあ、あれに出たら出たで目立つから、要検討の状況だ。


「変なもん混じってないよな?」

「大丈夫、全部鑑定済みだよ。前回はだたの鉄の鎧だと思ってたら、まさか右手の篭手に魔鉱が混じっていたからな。流石に慎重になったよ」


 前回出荷した鉄の胸当てと肩当、腰当、篭手、レガードのセット鎧。

 右手の篭手に魔鉱が使われていて、腕力向上の効果がついていたのは失敗だった。

 お客さんが、右手の篭手だけ妙に軽いけど、素材が違うかもしくは手抜きなんじゃないかとクレームをつけてきてくれて発覚した。

 確認したいから送り返してくれと頼んで着払いで返送してもらい、似たような別物を送って事なきを得たが。

 

「さてと、んー……あったあった、これ水戸に土産な」

「これまた変わった水差しだな」

「飲んでも飲んでも中身が減らない水差しだ。水しか出てこないけど」

「凄いんだか、しょぼいんだか……蛇口ひねればいくらでも水なんか出てくるし」

「ミネラルウォーターは出てこないだろう」


 たまにこうやって面白異世界グッズを水戸に渡している。

 流石に世に出せないのは知っているし、何よりお金に困ってないのでぶつくさ言いながらも自分で使ってくれてるが。


「で、ぶっちゃけお前ってあっちでどのくらい強いの?」

「うーん……兵士や冒険者が居ない事を前提とした城下町を焦土にしたり、氷漬けにできる竜を一人で倒せるくらい?」

「分かりにくいな」

「ゴジラを剣で輪切りに出来るくらい」

「そいつはすげーな。でもお前より強い奴もいるんだろ?」

「最近じゃあったことないな」


 地球の知識と転移のテンションで、レベル上げまくったし。

 各種強化も調べてやりまくったからな……

 各属性の精霊王の加護を受けるために、火山の火口に飛び込んでみたり、雷平原とよばれる常に落雷が起きる場所で剣を掲げて3日間立ちっぱなしだったりと。

 そこに至るまでに属性吸収系のスキルを習得したりと、かなり頑張った。


 だって、全精霊王の加護と推薦があったら、精霊神の加護が受けられると聞いたら頑張るしかないよね?

 ちなみに精霊神の加護を受けると、精霊王を使役できるようになる。


 他には同種族の魔物を殺し続けると手に入る、種族特攻とか?

 最終的には1万体撃破で、威圧だけで退けられるようになる。

 竜や大狼、キメラやヒュドラみたいな個体数の少ない種族のものはもってないが。

 大狼って狼の分類で良いじゃんと言いたくなったが、まったくの別物らしい。


「どっちにしろ怪我だけは気をつけろよ」

「ああ、大事な飯のたねだもんな」

「ばーたれ、いま会社たたんでも一生つつがなく暮らせるくらいは溜まってるわ!」


 純粋に心配をかけているようだ。

 いや、まあ戻るたびにほっとしたような表情をするのを見ているから、知ってるが。

 照れくさくて茶化しただけだ。


「他にお前みたいなやつは居ないのか?」

「いるにはいるけど、異空間転移の秘術を個人で使えるのは俺だけだな。召喚勇者は目的を達成できたら送り返してもらえる約束は取り付けてるらしいが」

「そいつらを連れて帰ったりとか……」

「連れて帰られそうなのは、あまりいない。なんか若いっていうか、性格がぶっとんでるからこっちでめちゃくちゃやりそうだし。一部のホームシックでやられてる女の子とか、事情があるやつは記憶を消して連れて帰ってるよ」

「そうか。いや、もし自分がその立場でこっちに戻ってこれないってなると、結構きついなって思ってさ」


 まあ、俺は最初から魔神の加護を得て召喚の仕組みを知ったからこそ、日本に帰ってこられるようになったから何とも言えない。

 悪魔っていろんな世界に召喚されてるから、その辺り詳しいのな。

 魔神様は性格に癖が強く、神にも歯向かうことが多い面倒な悪魔達の担当。

 全ての神が見放してしまったのを哀れに思って、立候補した心優しい神様といえば聞こえが良いが。

 ちょっとだけ、皆がお前を見捨てても俺は決して見捨てない! みたいな熱血教師っぽいところもある。

 ちなみに召喚を司る神だったりもしたりしたわけで……その辺りの詳しい話はまたいずれ。


「じゃあ、そろそろ行くわ。なんか、南の方の国でクーデターの兆しがあるみたいだから、鎮圧してくる」

「クーデター? 今度は人か?」

「人っていうか、勇者? なんでも正義感がかなり強い子らしくて、一部の貴族のそそのかされて民衆を扇動しているらしい」

「それはなんともまあ……でもクーデターが起こるってことは、あんまり良い国じゃないんじゃないか?」

「そんなことはないぞ? 王族は清貧に努めてるし、たしかに税率は高いが資源も少なく国営の事業があまり芳しくないのが原因だしな。財政難の割には、よくやってる方だと思う」

「そうなのか」


 今度の依頼の相手は、日本人勇者だ。

 なんでも圧政をひく王に苦しめられる民衆を救うために立ち上がったと。

 いやいや、こっちの独自調査だとかなり清らかな政治を行っている国なんだけどな。

 インフラにそれなりの金を使っているが、雨があまり降らない地域だから水の確保にかなり割合を割かれている。

 自給率も低いため、食糧難の村に配給を行ったりもしてるが。

 自分たちの税金が他人のために使われているのが腹立たしいのか。

 街に住むがゆえに特権意識でもあるのか。

 どっちにしろ難しいところだが、政権が変わったからといって状況が良くなるとも思えない。

 むしろ勇者にそんなことをそそのかすような貴族が上についた方が、よっぽど混乱しそうだな。


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