第4話:決別
今のはカイザーのスキル、なのか?
先の忿怒の時に聞こえた魔族の声。それが確かに今のスキルを発動させた。
勝手に俺の魔力、いや呪力を使い、俺の命を守った……
「これで二度目だ」
「……え?」
未だ驚きを隠せないフレイが、俺の独り言に反応した。
「今の謎のスキルだ。最初は
あれ、なんてスキルだったっけ?
と言うより、俺はそのスキル名を直接聞いたわけでもなく、発動するのに必要な呪力の使い方もいまいち分からない。
龍強化は聖神強化に似ていたから体が覚えている。だけど、今の壁は……
「
それで乏しい能力だって言うなら、もしかすると
「ちょっとフェリ! 一体何がどうなってるの⁉︎ カイザーが転生したなんて誰からも聞いてないんですけど⁉︎ て言うかこの殺人鬼がカイザーなわけ……」
「フレイ、いい加減に認めよ。此奴から感じる呪力は紛れもないカイザーのものじゃ。妾にもどういった経緯かは検討もつかん。じゃが、これは事実じゃ」
「……私は、認めない。だってこいつはランポを殺したのよ⁉︎ 私の代わりにウルフェンの村に行ってた時に、こいつらに……」
するとフェリは、俺の方に視線を移した。
フレイが今言っていた事の、半分以上は理解ができない。
だが確かにわかるのは、俺がこの森に来た数十回の中で、フレイの仲間を殺した事。
「カインよ。お主、快楽のために亜人を殺して回っていたのか?」
「いや、俺は……」
王の命令で亜人を殺していた……
でも、言い訳して何になる? 快楽のためでも、国のためでも、王の命令でも、俺がランポとか言うヤツを殺したのは言い逃れの出来ない事実だ。
今の俺が、勇者としての称号を無くした事など関係なく、個人的に恨まれている。
馴れ合うのは、こいつにとっても、俺にとっても都合のいい事じゃない。
「そうだな、快楽のためと言っても違いない。自分の力に酔いしれ、魔族を蹂躙することが正義だと考えていたのだからな。そのランポとか言う奴の事はいつ殺したのかも知らん。つまり俺には罪悪感はない。殺した時も、今も、な」
「カインよそれは些かフレイが……」
「出て行きなさい!」
ドライアドの涙は宝石に変わると伝承には書いてあった。
どうやらそれは偽の情報だったようだ。滴り落ちているのは、まるで人間のような普通の涙。
ランポを殺したことについて、俺は罪悪感を抱く事は許されない。
もしマサトが俺を殺しかけた事について許しを請いてきたらどう感じる?
三英雄が、私利私欲のために俺を裏切った事を謝ってきたら?
ヘドが出る。俺は絶対に奴らを許さない。そして、それはフレイも同様だろう。
何を言ったって、俺とコイツの間にある蟠りは無くなる事はない。
「今すぐに出て行って! この森から、この世から消えてなくなりなさいよ!」
「フレイ、落ち着いてくれんか……」
「フェリはなんでこんな奴の味方をするのよ! こんな非情な奴がカイザーなわけないじゃない。優しくて、強かったカイザーとは大違いよ!」
カイザー、カイザーって。正直頭が痛くなる。
俺の中にいる魔族なのは分かる。だが、俺はカインだ。
それに、本当にいるのかどうかも分からない。そんな希望的推測の上で成り立っている関係なんて……
「分かったよ。色々世話になったな、フェリ。礼はいつか必ずする」
「おい、待たんかカイン……」
フェリの小さな手が、俺のボロボロになった勇者の衣に触れた。
だが、止まる気は早々ない。いや、ここで甘えるのは間違っている。
「俺はカイザーじゃない。それにカイザーの存在もお前らの勝手な推測だ。お前はお前の復讐を、そして俺は自分の復讐を果たす。別々に、な」
そう言うと、フェリの手は服から離れて行った。
「……わかった。せめてもの餞別じゃ【冥界の
フェリの赤い呪力により、俺の纏っていたボロボロの衣は消え、新たに漆黒の上着と、ズボン。そして見覚えのない剣が勝手に装着された。
さっきのドレスはこの魔法によるものか。呪力ってのは、色々と便利らしいな。
「助かる。それじゃあ、ここで」
「……またな、カイン」
また、か。フェリはどうしてもカイザーに会いたいらしい。
必要なのは俺ではなく、あくまでカイザー。
俺も、必要なのは自分の中にある魔族の力。フェリは、二の次でしかない。
だが、いつか必ず恩は返そう。カイザーに合わせてやる事は難しい。それ以外の方法で、フェリの手助けはする。俺がそこまで強くなれたら、だがな。
【
身体強化を施し、一気に森の中を駆け抜ける。
今まで遭遇すれば問答無用で殺していた魔獣や亜人。森の中には、それらが数多く存在し、疾走している今も無数の魔族とすれ違った。
だが不思議な事に、奴らが何を話しているのかが理解できる。
『ねぇママ、アレって危ない人間だよね?』
『っ⁉︎ いいからこっちで隠れてなさい』
穢らわしい鳴き声しか聞こえなかった、数時間前が懐かしく感じる。
奴らの言葉なんて理解したくなかった。魔族にも意思があったなんて、知りたくもなかった。
『この森に人間の勇者がいるらしいぜ?』
『え⁉︎ じゃあ私たちもお爺ちゃんみたいに殺されるの……?』
『大丈夫だって。今はフレイ様がこの森を守ってるんだから』
『でも……ランポ様は手も足も出なかったって……』
『……だ、大丈夫だって。いざとなったら俺が守ってやるから』
『お兄ちゃん……死んじゃ嫌だよ…………』
早くこの森から出たい。俺は人間からも、魔族からも忌み嫌われている。
完全な孤独。償うことも許されず、ただ復讐の炎に燃える罪人。
俺がカイザーだったらこんな窮屈な想いはせずに済んだのか?
大悪魔と聖霊が求める、優しくて強いカイザーだったら……
「だから……俺は何をすればいいって言うんだよ!」
怒りの矛先は、足と接している地面。
ただ走るスピードを上げることしかできず、勢い余って突っ込んだ巨木をなぎ倒しながら、暴君のように突き進むのみ。
鋼鉄のように硬い木とぶつかったって、額からは血が流れ出ることさえない。
感じるのは、失った右腕の付け根からの疼きだけ。
端から端まで馬車で二日以上かかる広大な森を、俺は十数分にも満たない時間で抜け出した。
暗がりの森から出ても、外はそこまで明るくはない。
大悪魔の髪色を想起させるような紅い夕焼け空。今まで生きてきた中で、一番長い一日に感じた。
ここから王都までは徒歩で一日程度。そして、一番近くの辺境の村までも大した距離ではない。
だが、人間の居住区に向かうのは愚策だろう。開けた平原とも呼べるこの周辺で体を休められる場所と言っても、そんな場所があったか?
少し離れた場所には、岩肌をむき出しにした山がある。森から徒歩で数時間と言った距離だが、今の状態なら数分で到着する。
魔族が生息しているだろうけど、仕方がない。人間と遭遇して、むやみに通報されるよりはマシだ。
まだ十分な力がない。復讐を果たすためには、時間が必要だ。
そしてそのまま真っ直ぐ走り、数分で目的の岩山、
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