第12話 寿司ガイル

「うーん」

 高梨君は真剣にタッチパネルを眺めている。

「何を悩んでるの?」

「うーん……安恵さん、俺いっちゃいますね」

「……いっちゃいな」と安恵は言うのと同時に(何をだよ!!!)と心の中でツッコミを入れる。


 安恵は気づき始めていた。


 何か、高梨君との会話って私の一人相撲でちぐはぐなディスコミュニケーションと思いきや…………ひょっとしてソレだけじゃない??


「俺はイクゼ、イクゼイ」とターンと勢いよく高梨君はタップをする。どうやら注文をしたらしい。


「何を注文したの?」と安恵が尋ねると。

「んー何だと思います」とニコニコしながら高梨君は返す。

 突如としてネタ当てクイズという寿司ミュニケーションが再発する。


 んなん……分かるわけ無いよ………と思い、分からないと言おうとした安恵の脳内に閃光がはしる。

 具体的には安恵たちのテーブルの横を金色の皿が通った。そして何かが結びついた。


 金色の皿。それはこの回転寿司の一番高価なネタの皿(700円)。

 そしてその皿のネタは一つだけである。


 それは。……………それは。


 ソレは!!!!!!!


 大トロなのである。


 通り過ぎていく大トロから視線を高梨君に戻す。高梨君はニコニコしながらマダカナーマダカナーと口走ってる。

 その成人してるとは思えない無邪気さに安恵は確信する。こいつ………やりよったと。こいつ、やりよったなと。

 こいつ割り勘?だからやりよったな、普段自分一人で来たときには頼まない大トロを………やりよったなと。


「マモナクゴチユウモンノシナガキマス」機械的なアナウンスが聞こえてくる。


「あー安恵さん来ちゃいますよ!!早く!答えを」

「えっ……あ、うん」

 こやつ!そんなに自分を断罪されたいのか?割り勘だから大トロ(700円)を頼んだ事を……こんな涼しい顔で………。怖い、人ってと安恵はまた心を怯えさせる。


「俺が注文したネタ………」と高梨君が安恵を促す。

「高梨君が注文したネタは……」

 よかろう。その心意気を買った。私が引導を渡してくれよう。と安恵は心中、時代劇の裁判のヤツ(後に切腹とかするヤツ)を脳内でイメージした。


 「ずばり?」と高梨君。「ズバリ!!!!!!」と安恵。


「大トロだぁあ!!!!!!」と新幹線から運ばれてくる皿を指さす。


 そして真実の時間。


 ぷるんとしていた。ぷるんとしていた、それは。それはプリンだった。


「いやー、俺こーゆーとこ来ると何かパフェとかプリンとか食べたくなるんすよねぇ?何か食べたくなりません?回転寿司でプリンとか?」

 ニコニコしながら高梨君は運ばれてきたプリンを取る。そして新幹線は去る。

「食べたくならないよ」

 再度の寿司ミュニケーションも失敗に終わるのと同時にプリンって………と心の中でぐったりする安恵。

「えー?なんか普段より美味い気がするんスよねぇ?美味いっすよ?安恵さんも頼みます?」

 ウメー!と言いながらアホっぽくニコニコしながら高梨君はプッチンプリンをスプーンで掬う。

「いや……私はいいや。それよりビール頼んでいい?瓶ビール」 


 安恵は何かやってられなくなり、高梨君がいいっすよーと返す前に瓶ビールをタップした。グラスは二つで。


 併せて茶碗蒸しを一つ注文した。

 


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る