第10話

 カタカタとコンベアのようにレールの上に流れていく海老、鮪、玉子の寿司。衛生上と鮮度の関係で透明なケースに被さっている寿司達。


 ピコンと流され続けているそれらの寿司達の上のタッチパネルから音がする。

 間もなくご注文の品が来ますという機械的な声が告げる。とほぼ同時に新幹線の形をした乗り物?が奥からガタガタやってきて、安恵たちの席の前で止まる。


 ベーコン、テキサスロール、海老天寿司、納豆巻きの四皿を新幹線が運んできた。


「おっきたきた来ましたねぇ」と子供みたいなポップさと無邪気さが伝わってくる声色を出しつつ、彼は、ひょいひょいテーブルの上に子供みたいなな寿司を降ろしていく。


「そうだね」と安恵は相槌を打ったは良いものの降りてきた寿司は安恵のものでは無かった。向かいに座っている彼の前に並んでいた。


「……食べないんですか?安恵さん?」 

 と言いつつ彼は箸と小皿を自分と安恵の分を並べる。

「あ……。ありがと」とお礼を返した後のほんのコンマ何秒後にえ?下の名前!?と心がぴょこんと跳ねるような驚きを感じる。そしてまた脳内でそれは顔にダスナ!と誰からか分からない指令を受けたので、どんよりめな表情をキープする(いや私自身だよ!と脳内で更にツッコむ)


いそがしい。とにかく心がいそがしすぎる。いそがしすぎるぞ、私の頭の中。というか私は今どんな顔してる!?何でどんよりをベースにした表情になってるのと更に考えて、安恵は更に自身の脳にいらない負荷をかける。


 回転寿司に来ていた。


「美味いんすけどねぇ……海老天。だって寿司が基本美味いじゃないですか?そして天ぷらも基本美味いじゃないですか?二つ合わさったら………そら、美味いに決まってますよね」


「アハハ。そうだね」とうそ臭い、そして分かりやすい愛想笑いを安恵はする。滅多に笑わないものだから笑うって表情ってこれで良いのかと自問自答をしながら微笑む。やはり脳内はいそがしい。そしてそこに他人がいたら、安恵の表情は微笑みなのではなく、もっとおぞましい何かだと感じていただろう。


 しかし席には安恵と向かいに座っている彼しかいなかった。


 回転寿司に来ていた。

 

 告白をした、そしたら相手からお付き合いお願いをされたあの夜から三日後。


 高梨くんと回転寿司に来ていた。


 うんめぇっすよ、やっぱ!と海老天をサクサク平らげた高梨くんの笑顔は眩しかった。

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