第8話

 イーヒッヒッの不気味な笑みは高梨君の怪訝な表情でピタリと止まる。 


 重たい空気が公園の闇と溶け込む。


 どうしたらいいのか?どうにかしてくれるのか?いや私が勝手に告ってンだから。私の方から切り出さなきゃいけないの?いや………無理だって。静寂の中で安恵は思考を巡らせる。


「………すんません。とりあえず一本吸って良いっすか?」と高梨君が沈黙に耐えられなくなったのか聴いてくる。

「ひゃっひゃい。私も」と二人は沈黙をタバコの煙で埋めようとする。


「あっ……iQOSじゃなかったでしたっけ?」と少し風が出て中々ライターを着火出来なかった。高梨君が聞いてくる。


 安恵はしゅぼりとライターに火が着き、咥えてるタバコに近づけて、深く煙を体内に取り込む。


「あー………普段はそうなんですけど、今日はちょっと……」紫煙を吐き出しつつ安恵は答える。


「あっ……そうなんすか……」と直ぐに沈黙が戻ってくる。


 重たい。今すぐに逃げ出したい。


 タバコで間を埋めつつ切り出したのは高梨君の方。


「あの〜………、すんません。ぶっちゃけ申し訳ないんですけど……俺、知らないンスヨね」

「えっ?」

「ホンットすんません……。ニコマの人ってのは知ってるんすけど、流石に……。えーと……知らないんすよ、名前」


 マッマジか!?といやそりゃそうか!!そうだよねの感情ダブルパンチ。もうかれこれ半年は同じ職場で働いてるのに(高梨君は品出しがメインだが)、安恵は名前すら知られてない存在だった。いっいやそりゃそうか………。


「安野です」

「ヤスノサン」

「安野安恵です」

「ヤスノヤスエさん。韻踏んでますね」

「踏んでますね」


 踏んでるよ。だからどうした。いや別にコレ言われるの初めてじゃないけどと安恵は内心毒づく。



 

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