第5話

 数分経ち、呼吸が整ったので安恵は再び歩き始める。

 三十分程歩くと、住宅街から外れていき大きな公園にたどり着く。

 中途半端な都市開発によりファンタジーぽさがあるカラフルが家が並んでいる。そこの中にある公園。

 軽い丘の上から降ろされてるような長い滑り台とログハウスみたいなアスレチックが一際存在感を放ち、その他にもジャングルジムや砂場等の多くのアスレチックがある広めの運動公園だ。


 夜も深くなり日付が変わりそうな時間帯には、そこには安恵以外の人はいなかった。

 広すぎる公園に自分だけしかいない。それに少し心が躍った。何かイケない事をしてるような。

 軽い散歩程度だったが、平日はレジに立ってるだけ。休日も運動はもちろん、外出するのも極力しない安恵にとっては中々の運動であり。事実、足に気怠い疲労が感じられた。


 蛾が群がってる電灯の明かりの下にあるベンチに腰を下ろして、一服がてらiQOSを起動させる。

 深く息を吐き、紫煙をくゆらせる。


 先ほどまで自分の頭の中が高梨君でパンパンに詰められていたのが、少し冷静さを取り戻す。

 そして考えてみる。何で私はこんなにも恋をしてるのだと。


 これの答えは、やはりシンプル過ぎた。


 繋がれた喜びと繋がりたいという欲望、この二つだ。この二つがどうしても欲しいんだ。どうしても求めてしまうんだ。


 けどそこから一歩踏み出す勇気が無いんだとも。


「そしてそれは私の今までの人生で、きっと誰とも繋がれてこれなかったらという長い孤独のせいだ」


 思考がつい言葉にのってしまったが、公園はシンとした静寂が続いてる。この広すぎる公園でひとりぼっちでいることは、最初の高揚感もクールダウンし、安恵は寂しさという薄い、薄い膜に覆われ始めた。


「結局私はただ寂しさに宇宙を漂流してるみたいに孤独に限界を感じてただけ。」


 だから別に誰でも良かった。たまたま高梨君が気づいてくれたから舞い上がってただけ。誰でも良かったんだ。


 だからこの恋もまやかしのまがい物。そして叶えられないもの。ただ欲しい欲しいと思ってるだけのもの。


 私なんか誰も好きにならない。ならとっととこんな痛いものどっかに捨ててしまえ。諦めろ。


 私は無理だ。無理だ。無理だ。どーせ無理。

 だって言わないんだし、好きって。

 言われないんだし、好きって。


 だからあんな暇つぶしの小説投稿サイトのアカなんて、とっとと消しちゃえ。うん家に帰ったら、消そう。


 そしたら。今回のは池に石を投げて波紋がたつみたいな。そんな感じで終わる。


 そしたら。またひとりぼっちが続く。ただそれだけ。息苦しくたって呼吸はできるよ。だってココは宇宙では無いんだから。


 ぶるりとiQOSから振動が起き、加熱が終わる。恋も終わった。


 安恵はベンチが立ち上がり帰路へと歩き出した。家を出てくるまでとは真逆の気持ちで歩みを始めた。


 タバコもキレたし。喉も渇いていたので何か飲もうと近くにコンビニが目に入ったので視線を落としながら自動シャッターを潜る。


 いらっしゃいませえと気怠い店員の声が聞こえる。


 その声にバッと振り向く。聞き覚えがある。


 というよりも毎日、耳を傾けていた声だった。


 レジにいたのは高梨君だった。相手も安恵に気づいて、少し怪訝な顔をした。安恵は何でいるの?からそういえばコンビニのバイトもやってるという話を秒で思い出した。そうだった。そうだった。


「めちゃくちゃ好きです。私とつきあってください」


 そうだった。そうだった。私、うだうだ言ってたけど。結局、高梨君好きだったわぁ。顔見た瞬間にやっぱり気づいた。うだうだ言ってたけどやっぱりめちゃくちゃ好き。顔見た瞬間に好きって思ったモン。あほくさぁ。何だめっちゃ好きなんじゃん。


 あまりの突然の出会いに安恵が高梨君に向けて、無意識に愛の告白をしてる事に気付くまであと5秒程の時間がかかった。


 なーんだめーーーーーっちゃ好きなだけじゃん。と




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